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それぞれの休日:レイル・ジラール/フォックス仮面



 聖都南地区にある冒険者ギルドは、南地区アルスバニアがあまり治安の良くない街だと言うことを加味しても、一般人なら近寄りたくないと思ってしまっても仕方ないぐらいには、雰囲気の悪い場所である。


 身軽な方が戦いやすいレイルは、黒い軽装備に白い狐面をつけて、南地区から街の外に出るための街をぐるりと囲んでいる塀をくり抜くようにして開けられている南大門に程近い場所にある、冒険者ギルドの門戸を潜った。


 聖都にはセイントワイスの魔導士たちが結界をはってくれているので魔物は入り込めないが、万が一の時のために高い塀が設けられ、夜になると鳥籠の入口が閉まるようにして、釣り上げられている巨大な鉄格子に似た門が降りて閉じられる。

 その門の開閉を管理する屈強な門番たちが門の入り口には常在していて、出ていく人々や中に入ってくる人々の確認も行っている。

 街に入るために門の通行手形がいるほどには厳しく監視をしているわけではないが、明らかに不審なものや、怪しい荷物を抱えたものたちは門番が確認をして、問題があれば聖騎士団に引き渡すことになっている。


 南地区の入り口にある冒険者ギルドに向かうものたちの中には、元々犯罪者だったり、ろくでもない仕事をしていた者も少なくはないので、その辺りの確認については、他の王都への入口よりもやや厳し目だ。


「アルドバーンさん、この間の魔物討伐の報酬。もらいにきたよ」


 冒険者ギルドと、達筆なのかなんなのかよくわからない黒い文字で書かれた看板のある入り口をくぐり、レイルは入り口右の受付に座っている強面の男に話しかける。

 顎髭を三つ編みにしてリボンで縛っているのがオシャレな、壮年の男である。

 筋肉の隆起した腕は剥き出しで、どういうわけか裸の体にエプロンをしている。暑がりなのだそうだ。

 肩にはハートに矢の刺さったタトゥが刻まれていて、タトゥの下には『愛と平和』と刻まれている。


 オシャレで良いなと、レイルは思っている。

 そのうちレイルも、胸や肩に、刻みたい。ハートに矢が刺さっているのは、古き良きクソダサタトゥと言われていて、逆に格好良いらしい。

 良い形だなと思うけれど、レイルも同じものを刻んだら、冒険者ギルドのギルドマスターであるアルドバーンとお揃いになってしまうので、それはいただけない。


「このあいだのっていうのはいつのだ。報告連絡はしっかりしろフォックス仮面。溜まりに溜まっているぞ」


「んー、彷徨うコールドレイスと、暗闇森のアンフェリアルと、天を穿つマキネンシアを倒してきたし、あと、積荷の護衛の仕事も終わったよ。ちゃんと依頼主からはサイン貰ってきたけれど、アルドバーンさんの顔を見にくる時間がなくてね」


「俺に報告がなきゃ、金は貰えねぇだろうが」


「まぁ、そうなんだけど」


「お前のように趣味や道楽で冒険者をしてる奴は珍しいよな。ここにくる冒険者ってのは、まともに働けねぇ連中ばっかりなんだがな」


 レイルが依頼遂行済みの証明書をアルドバーンに渡すと、アルドバーンは書類を確認した後、報酬金を準備しはじめる。

 冒険者ギルドに回ってくる依頼とは、騎士団だけじゃ手の回らない小規模な魔物討伐や、護衛の任務、それから遺跡の調査や魔物の巣食う洞窟やら森の調査などが多い。

 冒険者ギルドで仕事を斡旋してもらうのが一番手っ取り早い。

 冒険者ギルドに登録さえしていない冒険者もいるが、この手の冒険者は問題を起こす場合がかなり多いので、敬遠されがちである。

 何事も、組織というのは結構大切なものだなと、レイルは思っている。

 レイルがなりたいのは勇者であって、無法者ではないのだ。


「私は、金が欲しいわけじゃなくて、勇者になりたいんだよ、アルドバーンさん」

 

「奇妙な仮面の兄ちゃんが来たかと思ったら、やたらと強い上に、勇者になりたいなんて夢みたいなこと言いはじめるんだからなぁ、そりゃ応援したくもなるよな」


 レイルが堂々と勇者と口にすると、初めの頃は嘲笑されることもあったのだが。

 今は、ギルドに屯っている冒険者たちも皆、笑いながら「頑張れよ、狐面!」「活躍は聞いたぞ、狐面!」などと言って、応援してくれる。

 元はその辺の破落戸だったとしても、今は冒険者として働いているのだから、悪いものたちばかりではないのだろう。


「ところでアルドバーンさん。最近、妙な噂は聞かない? 例えば、白月病が増えたとか、さ」


「病気? 病気は聖女様が治してくれるんだろ。レスト神官家のフランソワ様……は、力を失ったとか。代わりに、長女のリディア様が聖女の力を持っていて、リディア様の料理を食べると、病気が治るとか、噂になってる」


「アルドバーンさんが知ってるってことは、街の人々は皆、知っているのかな」


「全員ってわけじゃねぇだろうが、大神殿での話が広まっているな。白月病は、ウィスティリア辺境伯領で多く出てた病気だろう。多く出てたっつうか、今でも多く出てるか。そのうち聖女様が治してくれるんじゃねぇか」


「そうだね、そうなると良いとは思うけれど……やはり、今でも多いのだね」


「聖都の病人たちは減ったけどな。聖女様の料理のおかげか。フォックス仮面のその髪の色も、元々は病人だったんだろ。ま、治ってるからここにいるんだろうけどな」


「私は元気だよ、この通り」


 レイルはその場で軽々と空中で一回転して見せた。

 華麗な身のこなしに、冒険者ギルドの受付にあるソファに座って昼間から酒を飲んでいる連中が、拍手をした。


「そりゃ何よりだ。ほら、報酬だ。持っていけ」


「ありがとう、アルドバーンさん」


「……ところで、フォックス仮面。お前、先日の大神殿での大蜘蛛討伐に、騎士団の連中と一緒に参加してただろう」


「よく知っているね」


「目立つからなぁ、その姿は。それで、ロクサス・ジラール次期公爵が、お前のことをそりゃあでかい声で、兄上! と呼んでたらしいんだが」


「え」


「レイル・ジラールさんよ、身分をしっかり隠したいなら、その辺、徹底した方が良いぞ」


「あ」


 そういえば、確かにロクサスは、かなり大きい声で「兄上」と呼んでいた気がする。

 レイルは額を抑えた。

 うっかりしていた。というか、兄上呼びがあまりにも自然すぎて、失念していた。


「まぁ、ここじゃフォックス仮面のままで良いし、お前が身分を隠したい理由も詮索はしねぇが」


「あ〜……」


 レイルは、ジラール公爵家に戻ったロクサスに思いを馳せる。

 大神殿での出来事は当然父親であるマルクス・ジラールに伝わっているだろう。

 なんだか、ろくなことにならなそうな予感がした。




お読みくださりありがとうございました!

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