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マーガレットさんとうきうき恋愛雑談タイム



 ふししゃとは、何かしら。

 マーガレットさんは驚いていたようだったので、知っているのかもしれない。


「マーガレットさん、ふししゃとは、何ですか?」


「言葉通りに受け取れば、不死の者で、不死者。死なない者、という意味ね」


「死なないお父さん……永遠に不滅のお父さん……お父さんじゃなくて、おじいちゃん……?」


「お父さんだ、リディア」


「お父さん、不死者とは何ですか?」


「これ以上は秘密だ。私は人の世界には関わらない。ただ見守るもの。故に、知識を与えることもしない」


「教えてくれても良いじゃないですか……」


「私が観測していることで、世界は形を変えてしまう可能性があるのだ。知識を与えれば余計に。私の与えた知識は私の主観に基づくもの。私の主観で与えた知識で君が物事を判断することを、私は求めていない」


「よくわからないです、お父さん」


 頭がこんがらがってくる。可愛い犬の話す内容にしては、ちょっと難しい気がする。

 やっぱりお父さんも、エーリスちゃんやファミーヌさんみたいに「ちぇりーぱい」とか言ってくれたら良いと思う。


「つまり、何にも教える気がないわけね、うっかり口を滑らせたくせに」


「忘れろ。今のはなしだ」


「そもそも聖獣って何っていう話になるんだけど、聖獣は聖女の前に現れて聖女に寄り添うものと言われているわね。でも、聖女の力ってのは、あたしたちが持っている魔力と同じように、リディアちゃんの中にある。つまり、聖獣がいてもいなくても、癒しの力は使えるわけよ」


 マーガレットさんはそういうと、短くなってしまったアロマ煙草を吸って、ふ、と紫煙を吐き出した。 

 それから、簡易灰皿に煙草を押し付けて消して、短くなった煙草を灰皿の中に入れると、テーブルの上に置いた。


「じゃあ、お父さんはいてもいなくても良い……」


「私は、リディアにぎゅっとされるために存在している」


「さっきの全裸のイケメンを見た後に、その発言は犯罪臭がすごいわね」


「犯罪ではない。私は可愛い」


「可愛さについての自信がすごいわね……」


 呆れたように肩をすくめて、マーガレットさんは光り輝くカードを両手の中に取り出した。

 カードがひとりでにシャッフルされて、ふわりと一枚が浮かびあがる。

 丸い緑のリースの中に、天使の絵が描かれたカードがきらきら輝いて、くるくると回った。


「世界。意味は、完全……至高への到達。……不死者とはエーリスちゃんやファミーヌちゃんみたいな魔物の一種なのかと思ったけれど、どうにもそんな感じはしないわね」


 世界のカードの後に、カードの束の中から、魔術師のカードが抜き出される。


「そうね。シエルに伝えるのが一番良いわね。きっと、調べてくれるでしょう」


「私、ファミーヌさんの記憶も見たんです。……まだ、お話ししてないんです、みんなに。少しおやすみして良いって、言ってもらえたから、甘えてしまいました」


「それで良いと思うわよ、リディアちゃん。今、何か急いでしなきゃいけないこととか、特にないでしょ?」


「はい……でも、何かしなきゃいけないような気がして」


 マーガレットさんは、軽く手を叩いた。

 光り輝くカードは、一瞬のうちに消えてしまった。それから、マーガレットさんは私の頭をぐりぐりと撫でた。


「聖獣は、リディアちゃんの味方だから、本当に必要になった時にはきっと、話をしてくれるでしょ。今はその時じゃないのよ。無理やり口を開かせても、良いことなんてないわ。知識が必要な時もあれば、そうじゃない時だってある」


「……でも、マーガレットさん。私、アレクサンドリア様の力があるみたいなんです。何か、しなきゃいけないんじゃないでしょうか」


「リディアちゃんはリディアちゃんでしょ。あんた、さては休むのが苦手ね」


「今日はゆっくりしました。泡風呂にも入りましたし……」


「泡風呂なんてものは毎日入っても良いのよ? あたしを見てみなさい、リディアちゃん。あたしなんて、星読みの力を特に役立てようともせずに、毎日怠惰に酒を飲んで暮らしてるわよ」


「でもそれは、マーガレットさんに、辛いことがあったからで……」


「辛いことがあっても役割から逃げない人だってたくさんいるでしょ? でも、休むのも大事よ。そもそも、あんた、魔力が空っぽなんでしょ、今。ゆっくり休みなさい、何にも考えずに」


 私の頭から手を離して、マーガレットさんは私の口に雪うさぎクッキーを押し込んだ。

 サクサクとして、甘い。

 いつの間にか缶の中のクッキーは半分以上なくなっていた。エーリスちゃんが体をまん丸くしながら、テーブルの上でうとうとしている。いっぱい食べて満足したみたいだ。


「不死者についても、ファミーヌの記憶についても、皆に話したほうが良いだろうし、どうせ、あんたが心配で毎日のように顔を見にくるわよ、あんたの王子様たちは」


「ステファン様?」


「だけじゃないでしょ。あんたを守る騎士様と言った方が、わかりやすいかしら。だから、ま、今は、あたしとうきうき恋愛雑談タイムだと思って、ゆっくりしなさい」


「うきうき恋愛、雑談……?」


「そ。女子力が高まってきたリディアちゃんは、誰が好きなの? おねーさんに、教えちゃいなさいよ」


 誰が好きなのかと言われても。

 私は首を傾げる。お友達はみんな好きだ。


「お友達なので、みんな好きです」


「じゃ、シエルは? 最強に強い幽玄の魔王様。少し不安定さは感じるけれど、あんたのためならなんでもするわよ。セイントワイスの部下たちからも慕われているわね。博識だし、頼りになるでしょ」


「シエル様の声を聞くと安心します。最初にお友達になってくれたからですね」


 私はシエル様の顔を思い浮かべた。

 いつも優しく微笑んでいて、穏やかな口調でお話ししてくれる。とても綺麗な人だ。

 顔立ちも綺麗だし、体のいろんなところにある宝石も綺麗だけれど、多分、心がとても綺麗。

 誰かを守ために、何かのために、自分を疎かにするシエル様が、少し心配だと思う。


「じゃ、ルシアン。星墜の死神、聖騎士団レオンズロアの騎士団長。軟派な女誑しかと思いきや、実はキルシュタインの王子様で、真面目で誠実。真っ直ぐで、情熱的で、立場をわきまえている常識人ね。モテるわよ」


「ルシアンさんは、優しいです。ご飯を作ってくれるし、……元気になってくれてよかったって、思います」


 ルシアンさんの過去について私にわかることはほんの少しだけれど。

 色々苦しいことはあっただろうけれど、美味しくご飯を食べてくれたら、嬉しい。

 また一緒に遊びに行こう。今度は、屋台で一緒にご飯を食べてくれるわよね、きっと。


「それじゃ、ジラール家の双子は? レイルは……よくわからないわね。面白い人間だとは思うけど、弟が大切なのね、きっと。ロクサスは、自信家で、口が悪くてしっかりしているけれど、初心で揶揄うと楽しいわよ」


「レイル様は頼りになります。レイル様の顔を見ると元気になる気がします。ロクサス様は、カップを割ったり、スープをこぼしたりしないか心配です。いつも不機嫌に見えるけど、でも、親切なところもあって……不思議な人ですね」


 レイル様とロクサス様がとっても仲良しということは、わかる。

 二人ともお互いのことをとっても大切にしている。

 ロクサス様はジラール家を継ぐのだろうけれど、これからどうなるのかしら。

 公爵家の血を繋ぐために、誰かと結婚などをするのよね、きっと。そうなると、私はあまり関わらない方が良いわよね。

 ロクサス様の奥様になる女性に、失礼だと思うし。


「ステファンは……さっき聞いたわね。……前は、男なんて嫌いとか、男なんて滅びろとか言っていたのに、ずいぶん変わったわね、リディアちゃん」


「お友達が増えました。みんな、優しくしてくれます。だから、私も優しい気持ちを返したい……早く、お料理できるようになりたいです。美味しいご飯、食べてほしい。食堂も、新しいメニューを考えて、また、開きたいですし」


「それがあんたの今一番やりたいことなんでしょ? それなら、難しいこと色々考えないで、今は休む時よ。……あたしもそろそろ帰るわね。また明日ね、リディアちゃん。シエルに会ったら、あんたの元に行くように伝えておくわね」


「はい、ありがとうございます。お父さんが、不死者って何か教えてくれるのが、一番早いんですけど……」


「秘密だ」


「あとでわしゃわしゃくすぐりの刑ですね」


「恥ずかしい予感がする……」


 マーガレットさんは立ち上がると、「それじゃ、何かあったらまた呼びなさい」と言って、帰っていった。

 私は残りのクッキーを、サクサク食べた。

 マーガレットさんがいなくなると、ファミーヌさんが私の膝の上に乗って、体を丸めた。

 ファミーヌさんの小さな体は、ぽかぽか暖かかった。



お読みくださりありがとうございました!

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