ファミーヌさんの好きなもの
あぐあぐと、エーリスちゃんがソーセージを口いっぱいにほおばっている。
アルジュナお父さんが、小さな口で、むぐむぐソーセージを食べている。
お皿の上には、目玉焼きと市場で買ってきてくれたのだろう、私の作ったものとは形も大きさも味わいも少し違うソーセージ。
それから、くるみの入っているパンや、コーンの乗っているパン、ハムが挟まっているパンに、レーズンがたくさん入っているパン。よりどりみどりのたくさんのパン。
私は、ソーセージを齧った。
肉汁が口の中に溢れて、ハーブの爽やかさと混じり合って、美味しい。
ミルクたっぷりカフェオレを一口飲んで、私はほっとため息をついた。
「ファミーヌさん、みんなもう帰りましたよ、こっちにきてご飯、食べませんか?」
朝ご飯を作り終えてフライパンなどを洗ってくれたあと、みんなそれぞれ帰っていった。
一緒にご飯を食べないか誘ったのだけれど、ステファン様たちは倒れているし、みんな大神殿の騒動の後で働き詰めだったので、一度自宅に帰って、一休みするということだった。
ちょっと寂しかったけれど、多分私に気をつかってくれたのだと思う。
私を休ませようとしてくれる気づかいがありがたかった。
それなので、ロクサス様を抱えて帰るレイル様と、ステファン様を連れてルシアンさんと共に転移魔法でお城に戻るシエル様を見送って、私はゆったりと一人で──お父さんと、エーリスちゃん、ファミーヌさんと四人で、朝食を食べている。
朝の、いえ、もう昼前の、爽やかな光が窓辺から降り注いでいる。
窓辺で寝そべるファミーヌさんの金色の毛並みを、きらきらと輝かせている。
ぱたんぱたんと揺れる長い尻尾が可愛らしい。
「エーリスちゃんは、なんでも食べますね」
「かぼちゃぷりん!」
元気よく返事をしてくれるエーリスちゃんの、膨れたほっぺたを私は、ふにふにとつついた。
つつくと、ほよほよと揺れる体が可愛らしい。
「お父さんは、お肉が好きなんですね、犬だから」
「やきとり」
ソーセージを飲み込んで、お父さんが低い良い声で、やきとり、と言った。
「やきとり食べたいんですか、お父さん」
「やきとり」
「あの……お父さんはちゃんと喋れるんですから、喋ってください」
「今、私は、可愛さを追求しているところだ」
「お父さんは見た目が百点満点なので……普通に喋ってくれると嬉しいんですけれど……あと、焼き鳥はちょっと……」
「なんだったら良いのだ、フロマージュ、か、フロマージュなどか」
「お父さん、フロマージュ知っているんですか?」
「知らん」
「フロマージュ、どこから……」
アルジュナお父さんはソーセージを食べ終わると、じっと、私のお皿のソーセージを見つめた。
私はソーセージをひとつ、フォークに刺してお父さんのお皿に移した。
ぱたぱたと尻尾が揺れる。可愛い。
「ファミーヌさんもソーセージ、食べましょう? パンも食べますか、ファミーヌさん、美味しいですよ」
「タルトタタン」
ファミーヌさんはふいっと顔を背けた。
気位の高い猫ちゃんという感じで、その仕草もまた可愛い。
猫ちゃんの姿をしていたら、どんなに不機嫌そうでも可愛い。
私は一度椅子から立ち上がると、窓辺のファミーヌさんを抱っこして、テーブルの上に連れてきた。
エーリスちゃんの隣に置くと、エーリスちゃんが羽をぱたぱたしながら、「かぼちゃ」と言って、ファミーヌさんを覗き込む。
ファミーヌさんは、エーリスちゃんを肉球のある手でぱしんとこづいた。
「ファミーヌさんもソーセージ、食べますか? それとも目玉焼き? くるみパンはどうでしょう」
私はお皿にソーセージと目玉焼き、くるみパンを取り分けて、ファミーヌさんの前に置いてみる。
「タルトタタン……」
ファミーヌさんは、ふいっと顔を背けた。
それから、何か言いたげに、お皿を肉球のある手で、ぽんぽんと叩いた。
「どうしよう、エーリスちゃん以上に、気持ちがわからない……でも可愛い……」
私はファミーヌさんの小さな頭を指でよしよししたり、首をごろごろしたりした。
なんだかわからないけれど、これは違う、と言われているみたいだ。
「タルトタタン、食べたいんですか?」
「タルト」
「でも、しばらくお料理したらだめって言われているし……他に好きなものがあれば良いんですけれど……」
「タタン……」
「かぼちゃぷりん」
エーリスちゃんが、ぺしぺしと、ファミーヌさんの体を羽で叩いた。
好き嫌いはだめだと叱っているお姉ちゃんの姿に見えた。
ファミーヌさんが肉球のある手でやり返している。
私はファミーヌさんとエーリスちゃんの首根っこをつまみ上げて、持ち上げた。
「喧嘩はだめですよ。そうだ。明日、みんなで市場にお買い物に行きましょうか。ファミーヌさんの好きなものが、何か見つかるかもしれません。ご飯、美味しく食べたいですもんね、みんなで」
「かぼちゃぷりん!」
「肉と、酒だな」
「タルトタタン……」
元気よく返事をしてくれるみんなに、私はにっこり微笑んだ。
それから、お肉の油でベトベトになったお父さんのふわふわの口元の毛並みを、ナプキンで拭いてみる。
あんまり綺麗にならなかった。
「お父さん、エーリスちゃんとファミーヌさん、今日の午後は、私とゆっくりお風呂に入りましょうね」
今日は何にもしない日。
せっかくみんなが気をつかってくれたのだから、ゆっくりしよう。
アルジュナお父さんは「風呂か……」と、ちょっと嫌そうな声で呟いた。
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