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サーモンシチュー殺人事件未遂



 白いとろとろスープの中に、ごろごろのお野菜が入っている。

 玉ねぎは大きくて、サーモンも大きい。

 大きなサーモンがスープの上に浮かんでいるような感じで、スプーンですくうとサーモンがほろほろと崩れる。

 バターの風味と、ディルの爽やかな味と、ミルクのふんわりした味わいが口の中いっぱいに広がって、大きめのサーモンを口の中いっぱいに入れると、幸せな気持ちになる。

 みんなで一緒にご飯を食べるために、調理台を綺麗に拭いて、椅子を持ってきた。

 私の隣には、ルシアンさんとステファン様。

 正面にはレイル様とロクサス様が座っていて、シエル様は斜向かいに、エーリスちゃんと一緒に座っている。

 一緒に座っているというか、エーリスちゃんがシエル様の前に座っているという感じだ。

 アルジュナお父さんは、丸椅子の上ですやすや寝ている。結構よく寝るのね。やっぱり犬だから、眠いのかしら。


「おいしいです、私……誰かにご飯、作ってもらったの、はじめてかもしれません。ありがとうございます、嬉しいです」


 私はサーモンをこくんと飲み込んで、ご飯を作って貰ったお礼を言った。


「そうか、良かった、喜んでもらえて」


 優しく微笑んで、ルシアンさんが言う。


「ルシアンさんが作ってくれたんですよね」


「あぁ、まぁ……皆、それぞれ料理をしようとして、頑張ってはいたんだが、まず……ロクサス様が玉ねぎを切ろうとして、なぜか包丁が手から飛んで、壁に刺さってな」


「壁に……!」


「大丈夫だよ、姫君。壁は、私の魔法で修復しておいた」


 ルシアンさんが衝撃的なことを言ってくるので、私は思わず壁を確認する。

 包丁の傷はないみたいだ。レイル様が、ちゃんとなおしてくれたのだろう。


「すまない、兄上。大神殿や街の修復で魔力を使い果たしていたというのに、迷惑をかけてしまった」


 ロクサス様が申し訳なさそうに言う。


「気にしなくて良いよ、ロクサス。壁で良かったよね。誰かに向かって包丁が飛んでいたら、とうとうロクサス、実力行使でライバルを減らす手段に出たと、焦ってしまうところだった」


「流石にそんなことはしない」


「サーモンシチュー殺人事件が起こったら、私は勇者ではなく探偵をするよ。犯人はロクサス」


「兄上、俺はそんなことはしない」


「ロクサス様、この中にいる誰かに、そんなに恨みが……?」


 みんなお友達だから、仲良くして欲しい。

 ロクサス様をじっと見つめると、ロクサス様がスプーンを落とした。

 すごく動揺している。殺意を見抜かれて動揺しているのかしら。

 私の知らないところで、恨みつらみがそんなに。


「い、いや、恨みなどはない。それに、俺は、正攻法で、だな」


「正攻法ではらす恨み……」


「そういうことではなくて」


「…………ロクサス。お前はフランソワの婚約者だったと記憶している。何故、リディアに懐いている」


「殿下、そんな、野生の動物みたいに。確かに懐いているという言い方は結構しっくりくるけれど」


 ステファン様の言葉に、レイル様が口を押さえて、くすくす笑っている。

 レイル様は三杯目のスープを、パンと一緒に食べている。


「ステファン様、ロクサス様はお友達です。最近お友達になりました」


「そうか……」


 私が説明すると、ステファン様は厳し目の表情を笑顔に変えてくれる。

 怒っているのかと思ったけれど、笑ってくれたのでちょっとほっとした。


「ロクサスは包丁を飛ばした罪で、椅子に座り続ける刑になったのだけれど、次に殿下がね……」


「ステファン様が……?」


「うん。殿下は器用なんだけど、玉ねぎの皮を剥いて貰ったら、玉ねぎが消失してね……」


 レイル様が悲しげに目を伏せる。


「皮を剥いていたのだが、なぜかなくなった」


「きっと同じ理屈で、たけのことか、キャベツとか、白菜も、消失させるのだろうね、殿下は」


「いや、皮を剥けというから、剥いていただけなのだが」


「玉ねぎを消失させた罪で、殿下も皿洗いのみ行う刑に処されてね」


「皿洗いは楽しいな、リディア。はじめて行ったが、あれは楽しい」


 ステファン様が嬉しそう。良かった。玉ねぎを消してしまったことについてはあんまり気にしていないみたいだ。


「私は、駄目になった玉ねぎとか、傷ついた壁の時間を戻して、元の状態に戻していたら疲れてしまって。だから、シエルが食材は切ってくれて」


「ええ、切るだけなら、問題なく行えます」


 スープ皿に顔を突っ込んでいたエーリスちゃんの、シチューで汚れた体をタオルで拭きながら、シエル様が言う。

 シエル様はエーリスちゃんのために、大きなサーモンを一口大に切り分けて、お皿に入れてあげている。


「それで、味付けとか、調理とかは、ルシアンが全部行ったよ。つまり、このシチューは、ルシアンとシエルが作った、みたいな感じだね」


「遠征で野営をする時は、料理も行う。手の込んでいないものぐらいは、作ることができる。この中では私が一番、料理が得意だったと言うだけで、皆、頑張っていた」


 レイル様に言われて、ルシアンさんが苦笑混じりにそう言った。

 包丁が空を飛んだり、玉ねぎがなくなったり、結構大変だったと思う。

 サーモンシチューは美味しいけれど、私のためにご飯を作ってくれようとした気持ちが、嬉しい。


「美味しいです、ルシアンさん。シエル様も、お野菜を切るのが上手ですね。……でも、みんなで私のためにお料理してくれて、嬉しいです」


 そっか。

 私、ずっと──恨みをこめてお料理をしてきて。

 少し立ち直ってからは、美味しく食べて欲しいと思って、お料理をして。

 それは楽しかったし、美味しいって食べてもらえると嬉しい気持ちになったけれど。


 その逆も、同じなのね。


 私のためにご飯を作ってくれたのが、嬉しい。

 優しい気持ちが、嬉しい。


「ステファン様、……私、お友達がたくさんできました。だから、心配しなくても大丈夫です」


「そうか。だが、リディア。ソーセージに皆の名前をつけるのはやめなさい」


「ええと、はい、よくわからないけど、駄目なんですね」


「駄目だ」


「気をつけます……」


 ステファン様は、そこだけは厳しい。

 私は頷いた。新しいメニュー、考えないといけないわね。






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― 新着の感想 ―
[良い点] ソーセージの戦い、ステファン様介入により強制終了。 読者的には楽しかったし、食堂常連のお姉様方も色々おいしかったと思うけど、流石にね(^^;) [気になる点] ソーセージにはダメでも、料…
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