表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/296

お化けかぼちゃ収穫大会



 南地区アルスバニアのフェトル森林手前の土地は、広範囲がまん丸羊の放牧地や、お野菜やお米などが育てられている農地になっている。

 そのほかにも林檎の木々や葡萄の木々、オレンジやベリーの木なども植えられていて、冬の前の今の時期はたわわに実が実っている。

 実のはじけたザクロの木の下を通って、お化けかぼちゃ収穫大会の会場に向かう。

 参加表にシエル様と一緒に名前を書くと「二人で、お化けかぼちゃを?」と、受付のおじさまに心配そうな顔をされた。


「キノコ狩り大会は、フェトル森林の中でキノコを探すのですけれど、お化けかぼちゃ収穫大会は、お化けかぼちゃの畑から、お化けかぼちゃを採って、運んでくるだけみたいです。でも、……なんだか体格の良い方が多いですね……」


 私はシエル様の隣できょろきょろと選手の方々の観察をした。

 女性も男性も、腕の筋肉や胸の筋肉がぱつんぱつんに張っている方々が多い。

 女性では私が一番小さくて、男性ではシエル様が一番細身だ。


「リディアお姉さんとシエル様!」


 収穫大会の見物のお客様には、かぼちゃスープが配られている。

 スープは無料なので、見物のお客様たちは結構多い。

 その中から、ぱたぱたと私たちの元へ走ってくる少女の姿がある。


「オリビアちゃん!」


 白月病だったオリビアちゃんはすっかり元気になっているようで、二つに編んだ白い髪を揺らしながら私たちの元へやってくると、私の手をぎゅっと握りしめた。


「お姉さん、久しぶりね。お姉さんのおかげで、こんなに走れるようになったのよ」


「オリビア、まだ病み上がりなのだから、あまり走ってはいけないと何度言ったら……あぁ、シエル君、リディアさん、こんにちは」


 オリビアちゃんに少し遅れて、ミハエル先生もやってくる。

 診療所のお医者様で、オリビアちゃんのお父さんでもあるミハエル先生は、以前お会いしたときは白衣を着ていらっしゃったけれど、今日は黒いコートを着て、体のあちこちを包帯でぐるぐるに巻いている。

 オリビアちゃんは子供用の白衣を着ていて、白衣のところどころに血が飛び散っている。

 何かの染色剤で染めたのだろうけれど、かなり本格的な仮装をしている。

 可愛いけれど、夜道で出会ったら悲鳴をあげる自信があるわね。


「オリビアちゃん、素敵な格好ですね」


「うん。血まみれ看護人よ。お父さんは、ミイラ伯爵」


「ミイラ伯爵です。……このような格好をして街を歩くのははじめてなので、少々照れますね」


 ミイラ伯爵が照れている。


「シエル様は、吸血伯爵ね! ミイラ伯爵のお友だち。お姉さんは、吸血伯爵の使い魔の猫さん。このもちもちちゃんは、何? ぬいぐるみ?」


「これはエーリスちゃんです。生きていますよ、小鳥です」


「鳥には見えないけれど……もちの魔物……?」


「し、新種の小鳥です……」


「そうなの」


 オリビアちゃんはエーリスちゃんについてそれ以上深く聞かなかった。

 オリビアちゃんは若いけれど大人だ。大人の対応をしてくれた。


「お姉さん、シエル様とデートなのね。とってもお似合いね。シエル様はお父さんの次に素敵な男性だから、きっと、お姉さんを幸せにしてくれるのよ」


「オリビア、照れるな……」


「お父さんは聖都で一番素敵な男性だから、お姉さん、シエル様と上手くいかなかったら、お父さんと結婚しても……やっぱり駄目。お父さんは、オリビアのお父さんだから……お姉さんがお母さんになってくれると嬉しいけれど、ちょっと、困ってしまうかもしれない」


 オリビアちゃんにぎゅっとしがみつかれて、ミハエル先生が照れている。


「それは、僕も困るので、リディアさんと上手くいくように頑張りますね」


 シエル様がどことなく真剣な様子で言う。

 オリビアちゃんは両手を握りしめると、うんうんと、力強く頷いた。


「うん。シエル様、頑張って。シエル様、お化けかぼちゃ収穫大会で優勝して、お姉さんに男らしいところを見せないと」


「シエル君たちも参加するのだね。君はこういった催しには興味のない人なのかと思っていたが、人生は短い。楽しんだ方が良い。しかし、シエル君もリディアさんも、あまり力持ちには見えないから、心配だな」


「力持ち?」


 私が尋ねると、ミハエル先生が生真面目な表情で頷く。


「そうか、リディアさんたちは死者の祭りははじめてなんだね。お化けかぼちゃ収穫大会は、より大きなお化けかぼちゃを、お化けかぼちゃ畑からここまで運んできた者が勝ちだ。お化けかぼちゃは重いからな、これは別名、力自慢大会とも言われているんだよ」


「そうなんですか……どうりで、体格の良い参加者の方が沢山いると思いました」


「まぁでも、運ぶことができればどんなことをしても構わないからね。持ち上げることは不可能だから、大抵の参加者はお化けかぼちゃを転がして、ここまで運んでくる。頑張ってくれ、二人とも。応援している」


「お姉さん、シエル様、頑張ってね。この大会で優勝したら、お化けかぼちゃと、それから、観光都市エルビアナの旅行券が貰えるのよ。新婚旅行ね」


「エルビアナといえば、温泉が有名な火山地帯だ。良いところだぞ」


 オリビアちゃんとミハエル先生に言われて、私はシエル様の顔を思わず見上げる。


「し、シエル様、私、優勝賞品が何かまでちゃんと確認していなくて……旅行券、シエル様に差し上げますね」


「優勝したら、二人で行くというのは、駄目ですか?」


「駄目じゃないですけれど……二人で、旅行は、その、シエル様はお友だちですけれど、ちょっといけないような、気がして」


「僕一人ではきっと、旅行券を使わずに終わりますね。旅行券はリディアさんにさしあげます。誰かと二人で、使ってください」


「そ、それは、駄目です……シエル様と優勝して、旅行券が貰えるのだとしたら、シエル様と一緒に使います……」


「頑張りましょうね、リディアさん」


「は、はい……!」


 まだ優勝もしていないけれど、旅行の約束をしてしまった。

 シエル様はお友だちだけれど、二人で旅行に行くというのは、どうなのかしら。

 それってつまり、一緒のお部屋に泊まったり、するということよね。二人きりで。


「お姉さん、頑張ってね! 新婚旅行のために」


「シエル君、頑張ってくれ。なんだか……昔を思い出すな。私も、妻のために必死だった時代が……」


 オリビアちゃんたちとお話をしていたら、大会の開始の合図が会場に流れる。

 私たちはオリビアちゃんたちにお別れを告げて、お化けかぼちゃ畑に向かった。



お読みくださりありがとうございました。ブクマ・評価などしていただけると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ