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ホットワインとキャラメルラテ



 すらりとしてしなやかな指が、私の手を握っている。

 シエル様の手は私の手よりもずっと大きくて、私よりも少し体温が低い。

 触れられたときは少しひんやりしたけれど、握っていると、体温が混じり合って、温度が一緒になるみたいで、皮膚の境目が曖昧になる。


「シエル様、かぼちゃスープ、売っていますよ。かぼちゃパイも、たくさんあります。かぼちゃお化けの形です、可愛いですね」


「食べますか、リディアさん。欲しいものがあれば言ってください」


「お金、あります。シエル様、私、自分で買うから大丈夫ですよ」


「こういう時ぐらいは、支払わせてください。僕の方が年が上ですし、普段あまり何かを買う、ということがないので……リディアさんのために何かを買うことができるのが、……嬉しいような、気がします」


 シエル様は少し考えるようにして、首を傾げる。

 それなら、お言葉に甘えても良いのかしらね。


「じゃあ、あの、シエル様、キャラメルラテ、飲みますか? シエル様、甘いもの好きですか? それともお酒を飲みますか? ホットワインもありますよ。シナモンとか、レモンとかが入っていて、蜂蜜も少し入ってます。ちょっと甘いですが、ピリッとするみたいですよ」


「そうですね、……休日ぐらいは、良いでしょうか」


「はい……あの、私、シエル様が楽しいと、私も嬉しいです。だから、美味しいもの、沢山食べたり、飲んだりしてください。シエル様いつも、お水と固形食料ばかりだから……」


「最近は、リディアさんの料理も食べていますよ」


「もっと色々食べてください」


「心配、してくれていますか?」


「心配しています。……ご飯、美味しいって思えないの、悲しいです」


「あなたと一緒なら――食事も特別なものだと、感じることができるような気がします」


「じゃあ、一緒に食べましょう。今日は沢山食べてくださいね、シエル様。夜は、かぼちゃスープも作りますから、食べていってくださいね」


「ありがとうございます。……そうしてあなたは僕を甘やかしてくれるから、少し、期待してしまいそうになります」


 私の手を握るシエル様の手に、僅かに力がこもった気がした。

 期待――。

 期待とは、なにかしら。

 私たちはお友だちだから、それは当たり前のことで。

 当たり前、よね。お友だちだもの。仲良くするのは、当たり前。

 でも――なんとなく。やっぱり少し、落ち着かない。


 シエル様はキャラメルラテとホットワイン、エーリスちゃんにかぼちゃパイを買ってくれた。

 屋台のお姉さんが、シエル様の姿を見て挙動不審になっていた。

 顔立ちが良いって凄いなと、私は感心しながらその様子を見ていた。

 死者の祭りで賑わう広場に準備されている長椅子に並んで座って、私はキャラメルラテを一口飲んだ。

 甘くて優しい味がする。美味しい。


 エーリスちゃんが私の膝の上で、かぼちゃパイを一切れ全部口に含んで、むぐむぐ食べている。

 かぼちゃパイ一切れ分ぐらいの体なのに、かぼちゃパイ一切れを全部口に入れることができるのは、結構謎だ。口にたくさん食べ物を入れると、そのときだけほっぺが膨らむ。可愛い。

 シエル様は街の景色や道行く人々を眺めながら、カップに入った赤いワインを口にしている。

 吸血鬼シエル様が赤いワインを口にしている姿は、それはもう吸血鬼っぽい。

 様になりすぎて、凄く視線を感じる。シエル様、目立つ。凄い。


 賑やかな街を、シーツをかぶってお化けになりきった子供が、お母様に手を引かれて歩いて行く。

 恋人たちが手を繋いで、楽しそうに笑い合っている。

 そこここに、目と口の部分がくりぬかれた大きなお化けかぼちゃのオブジェが飾られていて、屋台からは色んな美味しそうな匂いが漂っている。


「シエル様は綺麗だから、女性から人気がありますよね。恋人、いたりしないんですか?」


「……恋人?」


「ええと、はい……その、よく考えたら、もし恋人の女性がいたら、……私、こうして一緒に街を歩くのは、良くないのかなと思って」


 道行く恋人の方々を見ていたら、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。

 恋人でもない女性と、お友だちだからといって一緒にお祭りにでかけるのは、シエル様にもし恋人がいたとしたら良い気持ちはしないわよね。

 私だったら、とても悲しい。

 浮気男だと言って、大量のミンチを生産してしまうぐらいには悲しい。


「そのような相手はいませんよ。僕は人とは違いますから、怖がられたり、嫌われたりは、良くします。女性からの人気については、正直よく分かりません。……ですが、そんなものはいらない」


「いらない、ですか……?」


「いりません。……本当は、誰からどう思われようが、どうでも良いと思っているんです。好かれたいとも、思いません。あなたにだけ、好かれたい。嫌われるのは……怖い」


 シエル様はカップの中で揺れる赤いホットワインを眺めながら、まるで独白でもするように、ゆっくりと言った。


「シエル様、私、シエル様のこと、好きです。嫌ったりしません」


「リディアさん……あまり、愛らしいことを言わない方が良いですよ。酒に酔った……そんな口実で、よくないことをしてしまいそうになります」


 シエル様の声が、密やかに耳に響く。

 隣に座っているから、声が近い。

 涼しげで甘い声が鼓膜に触れて、何だか奇妙な気持ちになる。

 いつもと違うみたい。

 お祭りだからなのかしら。シエル様の雰囲気が――まるで、本当の吸血伯爵みたい。


「シエル様、お酒、弱いですか? これからお化けかぼちゃの収穫大会があるんですけど、大丈夫ですか……?」


「ええ。弱くはないですよ。これぐらいでは、酔ったりはしません」


 シエル様は困ったように、目を伏せる。


「……いつも違う衣服を着ているからでしょうか。今日は、皆、人ではないなにかの仮装をしている。普段、人間のふりをしている僕も……人に、なれたように思えてしまう」


「シエル様は私と同じです。いつも、同じ……」


「リディアさん、……駄目ですね、僕は。普段は口にしないようなことを、あなたと二人だと、つい。僕の方が大人なのに、あなたに甘えてばかりいる」


「私、シエル様にはいつもお世話になっていますから、甘えてください。たくさん。私で良ければ、ですけれど」


「……ありがとうございます。リディアさん、飲み終わったら行きましょうか。収穫大会、優勝できると良いですね」


「はい!」


 シエル様は残りのホットワインを一気に飲み干した。

 私もキャラメルラテを飲み終わって、差し出されたシエル様の手を取って、立ち上がる。

 エーリスちゃんはお腹がいっぱいになったのか、私の胸元に潜り込んで静かになった。



割り込み投稿だと、更新のお知らせに表示されないのですって…!

知らなかったです。

ということで、本編は少しお休みして、デート回をざかざかすすめていきますね…!!!

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[一言] もぐもぐタイムのエーリスちゃんの代わりに「かぼちゃぷりん」
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