エピローグ お兄ちゃんって呼ぶのが一番好き
× × ×
その後の話を、少しだけしようと思う。
「怖くないんてないから」
あの男と再会して、開口一番。私は、その恨めしい顔面を思いっきり引っ叩いてやった。
けど、あいつは何もしてこなかった。ヤツレて、背中も丸まって、みすぼらしい格好をして。あの頃よりずっと小さく見えたあいつは、そのままどこかへと消えてしまった。
別に、漫画みたいに吹っ飛ぶワケでもなく、パチンって小さい音が鳴って、それで驚かれただけで。だから、スッキリ恨みを晴らせて、気分爽快になったワケじゃなかったけど。
でも、これで私は証明出来た。もう、怯えてなんていないって。
「まぁ、そんな感じ」
一応、みんなに説明しておこうと思ったけど、何だか初めて出来たカレシに浮ついているようで、恥ずかしくなりそうだったから止めておいた。
友達には、今度会ったときにそれとなく伝えておこうと思う。
「そうか、よく頑張ったな」
影で見守ってくれてたお兄ちゃんは、そう言って震える私の頭を撫でてくれた。
「えへへ」
やっぱり、お兄ちゃんだ。
弱そうで、メソメソして弱音を吐いてくれたあの日の夜みたいにかわいい姿は拝めないんだろうけど。私は、お兄ちゃんに守ってもらいたい。
もう、こんな怖い思いはしないで済むように、ずっと優しく守っていて欲しい。
……でも、たまには泣きついて欲しいだなんて。そんなふうに、思ってる。
「ところで、私この前告白されたんだけど」
「マジかよ」
相手は、想像にお任せ。だって、ちゃんと断ってるし。
「嫉妬した?」
「……まぁ、してるよ」
呟いて、お兄ちゃんが手を握る力を少しだけ強くした。
今まで、たくさん心配させられた、私の小さな復讐だ。
「これに懲りたら、誰にでも尽くすのはやめてね」
「そうする」
「ふふ、よろしい」
そして、私はお兄ちゃんの腕に抱き着いた。
思いっきり引き寄せると、お兄ちゃんは頭を下げて近付いてくれる。
どうやら、お兄ちゃんは今度こそ、私を求めてくれているらしい。
「ねぇ、帰ったら、いいことしよ?」
耳元で囁き、そして。
「こら」
私は、優しく額を小突かれた。
コウがいいキャラだった。
それ以外は、何だかイマイチ。ミコはいい女だと思うけど、こんなに理詰めじゃなくてもっとデレデレしている妹と頭のいい兄貴を見たかった。