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新入生歓迎パーティー3

読み方

「」普通の会話

()心の声

『』キーワード

<>呪文


「何が弱っているよ!全然弱っていなかったわ。むしろ元気なんだけど?ミリアに言われて私に恥をかかせに来たの?」

 ユリアはヒイロがミリアの義弟だと知っていた。だが、ヒイロがアルトとミリアの婚約に反対だと言うから信じたのだ。

「なにが、『姉さんは弱っている。婚約破棄させるなら今だよ』よ。選ばれたのは自分だと言い切られたわ!」


「そんなはずはない。確かに姉さんはアルト様を拒絶していた。しかも、自分の予知能力の結果としてだ!」


 ヒイロは、ミリアがアルトとの婚約を破棄する為の後押しのためにライバルであるユリアをけしかけた。

 理由は単純だった。ミリアはいつも自信が無かった。アルトに婚約者として選ばれた後もタロットカードでアルトとの未来を占っていた。自分はアルトに相応しいか、ライバルは出現するか、今日の服装をアルトに気に入られるか、全て占って決めていた。


 この事からヒイロはミリアを正しく理解していた。ミリアは自分に自信が無いのだ。だから、タロットに結果を委ねていた。たちが悪いことに未来を見通す力もあった。だから、アルトと結ばれない未来を見た後で、ライバルから貶されたら、あっさり落ちると思っていた。


 だが、そうはならなかった。

「姉さんは、何と言っていた?」

「『アルト様のプロポーズが嬉しくて、お世継ぎを懐妊するためにも滋養をつけねばと思いまして』と、『大丈夫ですよ。私はアルト様に愛されていますから』と言い返されましたわ」


 ヒイロは違和感を覚えた。姉のミリアは、こんな下品な返しを絶対にしない。


「それは、本当に姉さんだったのですか?」

 ヒイロの質問の意図をユリアは理解できなかった。

「何を言っているの?」

 姉が別な者に成り代わっている可能性をヒイロは認識していたが、ユリアには無理だった。そのことをヒイロは察して、相手のプライドを傷つけないように答えた。


「すみません。姉があまりにも強い返しをしたので別人と間違われたのかと思ったのです」

「そんな事はないわ。彼女は確かにミリアだった。でも、あなたが言う通り以前のミリアなら絶対しない行動をしていたわ」

「それは、どういった行動ですか?」

「料理を沢山食べたり、私に下品な返しで答えたり、まるで別人の様だった」

「そうですか、僕の方でも探りを入れてみます。どうか、僕を信じてください。姉さんとアルト様の婚姻を快く思っていないのは確かなのですから」

「分かったわ。お互い目的を達成する為に協力しましょう」

「ええ」

 ヒイロとユリアは利害が一致していた。だから、互いの目的を達成する為に、次の作戦を立てることにした。




 アルトは、上級生や同級生に囲まれていた。それぞれが王族に取り入ろうと欲望にまみれた目で話しかけてきていた。


(本当に気持ち悪い。こんな目を向けられて誰が友達になるというのだ。全員鏡を見てから来てほしいものだ。全く、ミリアのように私を見てくれる者は居ないな……)


 アルトは孤独だった。幼少から王位継承者として扱われ、本当の友情と愛情とは無縁で育ってしまった。父親とも母親とも中々会えずに乳母と教師とメイドに囲まれて育った。

 だからこそ、純粋な眼差しで自分を見てくれたミリアに恋をしたのだ。そして、それはアルトの心の支えだった。


 そんなアルトの元にエースが挨拶にやってきた。エースとアルトは幼馴染だった。王位継承者と魔法師団長の息子で、互いにゼファール家の令嬢と婚約した身だった。

「やあ、アルト。さっきは熱烈なプロポーズだったな、お義姉ねえさまも喜んでいただろう?」

 エースには悪気はみじんも無かった。アルトとミリアが不仲になっているなど、想像もしていないのだから……。


「それがな、ここだけの話、不評だったよ」

 アルトは少し悲しげに微笑んで答えた。


「なにか、あったのか?今朝、お義姉さまが変なことを言ってきた事に関係があるのか?」

「何を言われたんだ?」

「簡単に言うと強くなれと言われた。今までは、『もっと妹が興味ありそうな話をしなさい』だったのに……」

「なるほど、本当に目指すつもりなのだな」

 アルトはミリアの覚悟を知った。その覚悟の果てに何を望んでいるかも正確に理解した。


「目指すって、何を?」

「神域の迷宮だよ」

「え?本当に?」

「ミリアは本気で目指している。私も本気だ。エース、君はどうする?」

「そんな場所を目指す理由はなんだ?」

「聖女を出現させる」

「いや、必要ないだろう?魔王も出現していないのに……」


 そもそも神域の迷宮は、邪悪な魔王が現れた時、世界を救うための切り札として神が残した迷宮だった。

 今は、魔王は居ないし世界は平和だった。聖女が必要とは思えなかった。


「そうだな、普通に考えれば必要ない。でも、ミリアが予言したんだ」

「お義姉さまが……」

 エースは絶句した。聖女が必要となる未来、それは魔王の到来を予言しているのと同義だった。


「そうだ、だから、責任重大だぞ」

 アルトはそう言うと遠くを見据えていた。それは、ミリアと結婚する未来だった。

「そうか、なら仕方ないな、難しいと思うけど、父さんを超える魔法使いを目指すか……」


 二人の男は、将来に起こる災厄を防ぐために全力を尽くすことを決めた。


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