新入生歓迎パーティー2
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「」普通の会話
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新入生歓迎パーティ2
ミリアとユリアの決闘が始まると同時に、ロイとフレイアの戦いが始まっていた。それは、静かな静かな戦いだった。お互いに奥手ゆえに好意を寄せあいつつも距離を詰めれない二人の戦いだった。
ロイはフレイアに話しかけたかった。
(フレイアに話しかけるんだ。今なら誰も居ない。行くぞ、今日こそ会話を成立させるんだ)
ロイがフレイアに視線を送る。フレイアはロイの視線に気が付いて、ロイと一瞬だけ視線が合う。そして、フレイアは一瞬で視線を外して慌てふためく。
(ロイが私を見ている。あれ?私さっき走ったけど服汚れていないかな?髪型は?靴は汚れてないわよね?)
フレイアは目を回しながら自分の身なりを確認していた。
それを見てロイは狼狽えていた。
(視線を外された!なんだ?何か不味かったか?私はどんな表情で彼女を見ていた?あれ?分からない。私は今、どんな表情してるんだ?)
視線を外されただけでロイは混乱した。そして、ロイは無意識に絶望的な表情をしていた。
フレイアは自分の身なりのチェックを終えた。
(大丈夫。おかしなところはない。これなら、ロイも気に入ってくれるはず)
フレイアがそう思ってロイを見ると、ロイは絶望的な表情をしていた。
(え?あれ?なんで、あんな顔しているの?え?意味が分かんない?私、変な事したのかな?)
そして、フレイアは顔を青くして混乱していた。
(あれ?なんでフレイアは、あんな顔してるんだ?目が合っただけなのに……。私に見られるのも嫌だって事なのか……)
ロイは、絶望のあまり死にそうになっていた。フレイアも同じように死にそうになっていた。
これが二人の戦いだった。ただ、挨拶をして会話を楽しむ、そこにたどり着くまで、互いに相手の行動から心を勝手に妄想し、自分に自信が持てないから、悲観的な妄想に囚われ話しかける事が出来ない。
そして、ようやくどちらかが挨拶した時には二人の心は限界を迎えている。だから、挨拶をしただけで、二人は、こう思うのだった。
((ああ、今日も話しかける事が出来た。良かった~~))
これが、いつもの二人だった。だが、今日は違った。フレイアはミリアから勇気を貰っていた。そして、ロイも自信を持っていた。
(今日は、人助けをしたんだ。だから、神様が私に力を貸してくれるはずだ)
そう、ロイはマリアを助けたのだ。神様は良いことをした信徒に力を与えるという教えをロイは信じていた。
ロイは自分の妄想を振り払ってフレイアを見た。フレイアも妄想を振り払ってロイを見た。二人は見つめ合い引かれ合うように近づいた。
「こんにちは。フレイア」
「こんにちは。ロイ」
いつもなら、ここで会話は途切れる。そして、フレイアはロイから逃げるのだが、この日、二人は話すべき話題をそれぞれ持っていた。だから、奇跡が起こった。
「私、戦士になる!」
フレイアは、気合を入れ過ぎて、大事な事しか言えなかった。
「フレイア、どうして戦士になると?」
ロイは初めてフレイアが挨拶以外の言葉を言ってくれた事を嬉しく思う反面、何でフレイアが「戦士になる」と言ったのか気になった。だから、自然と質問していた。
「あ、えっと、これからフォーチュン学院で勉強して、迷宮を攻略しに行くから、戦士を目指すの」
フレイアの答えは、答えになっているようでなっていなかった。
「いや、宰相の娘である君が何故迷宮に行くんだい?」
一般的に迷宮は、迷宮探索を生業とする冒険者か、己の実力を証明するため貴族や騎士の男子が行く場所だった。貴族の令嬢が行く場所ではない。
「それは、ミリアの幸せのために……」
「ミリア様のためか……。君らしいな、なら私も協力するよ。私は水の魔法が得意なんだ。君が戦士を目指すのなら、私が君のケガを癒すよ」
ロイのセリフを聞いて、フレイアは顔を真っ赤にしてしまった。
それは、ミリアのせいだった。ロイが優しく回復してくれる姿を妄想して恥ずかしくなってしまったのだ。
「ああ、右手の甲に傷を負ってしまいましたわ。ロイ、癒してくださらない?」
「いいよ。フレイア。君が傷を治すよ」
そういってロイは、フレイアの右手を取り、口づけをして傷を治す魔法をかける。そんな、妄想していた。
「フレイア。どうしたんだい?」
「ちょっと刺激が強すぎて……」
「刺激?」
「あ、いえ。なんでもありません」
そうして会話が途切れてしまった。
沈黙の重たさに耐えきれずに、逃げ出すのがフレイアだったが、この日はミリアの占い魔法の効果で勇気が湧いていた。だから、沈黙に耐えて逃げなかった。だから、ロイは自分の話すべき事を話した。
「今日の君は、いつにも増して綺麗だ」
ロイは、朝、フレイアと挨拶したときに言えなかった言葉を言った。そして、ロイも顔を真っ赤にした。
「ロイ様もカッコいいです」
フレイアも何とか言葉を返すことが出来た。それは、二人にとって大きな一歩だった。だが、それ以上、進むことは出来なかった。二人は顔を赤らめてお互いを見つめ合う事しかできなかった。
それでも、二人の仲は進展した。