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新入生歓迎パーティー1

読み方

「」普通の会話

()心の声

『』キーワード

<>呪文


 もう一人は、ヒイロだった。ミリアの様子がおかしかったので、ミリアの後を追ったら、アルトも後を追っていた。なので、アルトに気づかれないように風の魔法を使って、3階建ての校舎の屋上に移動していた。


 ヒイロは風の精霊から祝福を受けていた。だから、多少離れていても会話の内容を把握できた。

(姉さんは予知を見たのか、確か母上も予知能力を持っていたな~。姉さんは能力を受け継いでいたのか……。となると、アルトは姉さんを高確率で裏切る?これは笑える)


 ヒイロは邪悪な笑みを浮かべていた。手に入らないと思っていた初恋の人と結ばれるチャンスだった。その為にアルトを徹底的に貶めるつもりだった。

(手始めに、あの人と連絡を取るか、アルトと姉さんの婚約を快く思っていない令嬢に……)

 ヒイロは自分の恋を成就させるために、ミリアと敵対する令嬢と手を組むことを決めた。そして、風に乗って新入生の歓迎パーティーが行われる体育館に移動した。




 最後の一人は、アランだった。アランは入学式が終わった時に、誰にも邪魔されずにミリアを護衛するために、闇の魔法を使って足音と姿を消した。

 そして、ミリアが体育館を出た時に付いて行った。当然の如く、追跡者の存在も認識していた。

(追跡者は三人か、フレイア様とアルト様にヒイロ様か、問題なしだな)


 そして、フレイアとミリアの会話を聞いて、何故ミリアが、アルトを拒絶しているのかを知った。

(予知か、自分が不幸になる未来を見てしまうなんて辛いだろうな。ミリア様の様子がおかしかった理由が分かった。でも、アルト様とヒイロ様も知ってしまった。これは、もめるだろうな。さて、ミリア様にどこまで報告するべきか?)


 アランは悩んだ。どこまでミリアに報告するべきか……。アランはミリアの幸せを願っていた。それは、使用人としての忠誠心もあるが、ミリアがアランに対して寛容だった事が理由だった。


 ミリアは使用人を財産として認識していた。だから、使用人をむやみに傷つける事はしなかった。だからこそ、アランはミリアに忠誠を誓っていた。


 ゆえに、アランは悩んだ。アルトとヒイロが予言の事を知ったと伝える事でミリアが苦しむ事にならないか考えていた。

(だめだ、分からない。答えが分からないのなら沈黙を貫こう。どうせ、なるようにしか成らないんだ。余計な事はしないでおこう)




 ミリアとフレイアは新入生の歓迎パーティーが行われる体育館に戻った。アランも姿を消したまま一緒に戻った。




 新入生の歓迎パーティーは立食パーティーだった。体育館のステージにはオーケストラが居て歓迎会に相応しい音楽をかき鳴らしていた。

 体育館の端には料理が並べられ、好きな食べ物を自分でとって食べるビュッフェ形式だった。未成年の催しなので、酒は提供されていなかった。


 ミリアは公爵令嬢で、王位継承者であるアルトの婚約者だった。だから、どのように振舞っても文句を言えるものは居ない。それを知っているから、『私』はひたすら料理を堪能した。


 神域の迷宮を攻略するために、これから体を鍛えるのだ。たくさん食べて、明日から始まる授業に備えるつもりだった。


 多くの料理を皿に取り、食べまくって飲み物で流し込む、その姿は以前のミリアを知っている者からすれば在り得ない行為だった。ミリアは常に慎ましやかで周囲からの視線に注意を払い、アルトの婚約者として相応しい振舞をしてきた。


 それが、突然ブタの様に食事を貪り始めたのだ。ある者は落胆し、ある者は喜んだ。


「まあ、はしたない。そんなにお腹が空いていたんですの?」

 金髪碧眼の美女がミリアにそう言ってきた。彼女の名はユリア・アウグスタ。公爵令嬢でアルトに選ばれなかった者だった。

 身長は165センチでミリアと背丈は一緒だった。しなやかなユリを連想させる姿だが、出るところは出ていた。髪は腰のあたりまで伸ばし綺麗に手入れされていた。

 ユリアはミリアが嫌いだった。だから、嫌みを言いに来たのだ。


「ええ、アルト様のプロポーズが嬉しくて、お世継ぎを懐妊するためにも滋養をつけねばと思いまして」

 『私』はミリアには出来ない回答をしてのけた。それは、ユリアが最も傷つく返しだと知っていて実行した。


 ユリアはゲームでは登場しない脇役だった。『私』はユリアを認識していなかった。だが、ミリアは認識していた。アルトを狙うライバルの一人だった。しかも、たちが悪い事にユリアはアルトを愛していない。権力が欲しいから好きな振りをしていた。

 アルトもそれを知っているから、プロポーズを断っていた。そして、本当にアルトに恋をしていたミリアを婚約者に選んだ。


 ミリアはユリアに苦手意識があった。だから、『私』が言ってのけた言葉にミリアは喜びを感じていた。


「食べ過ぎて、妊娠なのか肥満なのか判別に困る事になりそうですわね」

 ユリアは顔を引きつらせながら、そう言った。


「大丈夫ですよ。私はアルト様に愛されていますから」

 『私』はユリアの皮肉はスルーして、追撃を入れた。それは、言葉のクロスカウンターだった。肉を切らせて骨を断つ、逃げ出した方が負けなのだ。


 ユリアの顔は、険しさを増した。

「ブタになって婚約破棄されるのが楽しみですわ」

 ミリアは婚約破棄の言葉に傷ついて落ち込んでしまった。だが、『私』はノーダメだったので、さらに言い返す。


「例えそうなったとしても、アルト様はあなたを選ばない。これは、予言よ」

 『私』は勝ち誇って言った。


「フン!エセ占い師の分際で何が予言よ!片腹痛いわ」

 ユリアはそう吐き捨てて逃げていった。そして、心の中でこう思っていた。

(嘘よ!でまかせよ!ちょっと占いが出来るからって調子に乗ってんじゃないわよ。ああ、腹が立つ)


 ユリアはミリアがタロット占いで友人たちの未来を占ったり、助言している事を知っていた。だから、ユリアが負った心理的ダメージは甚大だった。


(それにしてもヒイロのやつ何が「姉さんは弱っている。婚約破棄させるなら今だ」よ。ピンピンしてるじゃない!)

 ユリアは自分を唆したヒイロを恨んだ。


『私』とミリアは勝利を確認した。だから、心の中でハイタッチをした。

(ありがとう。『私』スカッとしたわ)

(良いのよ。私は言いたいことを言っただけだし)


 ミリアと『私』は二人で一人だった。


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