ミリアの絶望とアルトの希望
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「」普通の会話
()心の声
『』キーワード
<>呪文
フレイアはミリアを校舎裏に連れ出した。周りには人が居ない。ここなら、ミリアの話をじっくり聞けると思った。
「ミリア。さっき言ってた予言、なんでそんなに信じているの?あなたいつも言ってたじゃない。未来は変えられるって、そのための占いだって……」
「占いで覆せる未来もある。でも、私にとっては、それは知ってしまった未来、それは起こってしまった未来なの、だからアルトは私を裏切る。それは変わらないの……」
「それにマリアって子が関係するのね」
フレイアは何となく理解した。なぜミリアが平民であるマリアと友達になろうとしているのか……。
「マリアは悪くない。私が悪かったの、だから今度はマリアと仲良くして、それでもやっぱりアルトに振られるの……」
「私は信じられない。アルトがミリア以外の女性を選ぶなんて……」
「私も信じたくない。でも、事実なの」
ミリアは『私』の記憶と混じり合い。『私』もミリアと混じり合っていた。二人は同じ記憶を持つ別の存在だった。ミリアはアルトを信じたい。『私』はアルトを信じない。相反する思いがミリアを苦しめていた。
「回避する方法は無いの?」
「あるにはあるけど、無理よ。全ての迷宮の秘宝を手に入れて、その上でマリアとみんなが仲良くなる。そんな未来にたどり着けると思うの?」
「マリアと仲良くなるというのは分かるけど、何で迷宮の秘宝が必要になるの?」
それは、ゲームでは、それがアルティメットエンドの条件だからとはミリアは言えなかった。代わりに思いついたのがゲーム内の設定だった。
「神域の迷宮の最深部に行くのに必要なの」
「はぁ?あんた神様にでもなるつもりなの?」
フレイアはミリアの正気を疑った。神域の迷宮は、どこに存在するかも分からない伝説の迷宮だった。最深部に至ったものは神の恩恵を受け、どんな望みも叶うと言われていた。
「私は神にならない。代わりにマリアが聖女になる」
「ええ?マリアって聖女になっちゃうの?」
「マリアが聖女になった時だけ、アルトは他の女を選ばない」
ミリアは嘘を混ぜた。本当は、マリアがアルト以外の攻略対象を選んで、ライバルと親密になればミリアはアルトと結ばれる。だが、それは他の誰かを犠牲にして得られる幸福だった。だから、それは選ばない。
また、マリアが誰かの婚約者や恋人を奪うと教えるとマリアとライバルたちの親密度が上げにくくなる。だから、マリアが奪う事はボカシたかった。
「じゃあ、やる事は決まってるじゃない。マリアちゃんと仲良くなる。全ての迷宮を攻略する。それで良いじゃない」
フレイアは問題が解決したと喜んでいた。だが、ミリアはフレイアにお願いしなければならない事があった。
「全てのダンジョンを攻略するためにフレイア、あなたは戦士になって欲しい」
「え?私か弱い乙女なんだけど?」
「いいえ、フレイアあなたは土の精霊に愛されている。だから、最強の戦士になれる素質がある」
「ちょっと待って、何で?」
「フレイア、あなたが居ないと迷宮攻略で困るの、だから戦士になって」
ミリアは『私』と入れ替わっていた。迷宮攻略の時、普通は女子を前衛にしない。フレイアは土属性の魔力を持っているだけの女の子だった。だが、土属性の魔法は前衛に向いている。
力を底上げしたり生命力を増強したり、一定のダメージを無効化したりと前衛に必要な魔法を全て簡単に習得できるというメリットがあった。なので、ゲームではフレイアとの親密度が高くなった時、主人公であるマリアがフレイアに、どんな職業を目指すべきか聞かれるイベントが発生するのだが、その時には『戦士を目指すべき』という選択肢を選ぶのがお決まりだった。
「戦士か~。なんか、女の子っぽくないよね」
フレイアは、ゲーム内でマリアに言われた時と同じように答えを返してきた。だから、『私』は答えを返す。
「それで、ロイを守ったらロイがフレイアに惚れるかもしれないね」
「え?男性って守られたら、プライドを傷つけられるんじゃないの?」
「ロイは、神官だよ。戦士に守られて感謝こそすれ、恨むことは無いと思う。それに、ロイを守って負った傷をロイがお礼を言いながら回復してくれると思うんだけど?」
フレイアは、その情景を思い浮かべて、いびつな笑みを浮かべた。
「ロイが私に感謝しつつ回復魔法を……」
フレイアは遠い世界に行ってしまった。だから、ミリアは戻ってくるのを待った。
「すごく、いいわ。ミリア、私、戦士になる!」
「ありがとう。フレイア」
『私』は心の中でガッツポーズをした。
(肉盾ゲット~~~~~~~~~~~~~~~)
実際フレイアは優秀な盾だった。HPの成長率が飛びぬけて高く、防御力も高い。さらに、ほぼ全ての武具を扱えるのだ。
そんな二人のやり取りを盗み聞きしている三人の男が居た。
一人はミリアの婚約者アルトだった。ミリアの様子がおかしかったから、追いかけてきた。その結果、アルトは意図せず、二人の会話を聞くことになった。
アルトは二人の会話を聞いて、こう思った。
(私のしたことは間違っていた。ミリアの母上は予言の力を持っていた。彼女も受け継いでいても不思議はない。その彼女が未来を見て、私が彼女を裏切ったというのなら、どんな言葉をかけても信じてもらえるはずがない。
だから、もう気持ちを言葉にする事はやめる。その代わり、彼女の望みである神域の迷宮攻略の為に力をつけよう。
それだけが、ミリアから信頼を得る唯一の方法だ)
アルトは静かに決意し、その場を去った。