夏合宿(ビーチバレー2)
読み方
「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
「じゃあ、先攻はミリアペアから」
コイントスを行った結果、ミリアペアからのサーブになったのでヒイロは審判席から、そう宣言した。
「アルト様♪どちらが先にサーブを打ちます?」
ミリアは上機嫌でアルトに聞いた。
「ミリア、君は、どんな魔法が使えるんだ?」
「魔法ですか?ビーチバレーで使えそうなのは、視界を遮る魔法とか、自分の姿を隠す魔法ですね」
「ふむ、自分を隠す魔法の応用でボールを隠す事は出来るかい?」
「それは、可能です」
(さすが、アルト。賢いな、早速消える魔球に気が付くとは……)
セリアは、アルトがゲームでの設定どおり、賢い事に感心した。
「じゃあ、最初から全力で勝ちに行こう。サーブは先にミリアがしてくれ、ボールを打った瞬間魔法でボールを隠して、可能ならミリア自身も隠れてくれ」
「分かりました。ですが、私が隠れたらアルト様にも見えなくなりますよ?それだと、動きにくくないですか?」
「私は大丈夫だ。光の魔法で隠れている君を見つけることが出来る。それに、君の姿が見えない事で、相手はコートのどこに打てばいいか悩むはずだ」
「分かりました♪」
「さて、フレイア。フォーメーションだが、私が後衛、君が前衛で良いかな?」
「はい!」
フレイアはロイの提案を吟味することなく返事をした。
「私が、水の魔法で、相手のボールの勢いを殺してレシーブを上げるから、君はトスを上げてくれ」
「はい!」
「では、はじめ!」
ヒイロの掛け声で、ミリアはボールを空高く放り投げ魔法の詠唱を開始した。
<深みへいざなえ闇の精霊、我が姿を包み隠せ!インビジブル・ベール>
ミリアは、同時に魔法でボールを隠した。他の人間には見えないがミリアにはボールが見えていた。ミリアは、助走をつけて高く飛び上がり、綺麗なジャンプサーブを打った。
(なるほど、不可視の魔法か)
ロイは静かに詠唱を開始した。
<静かに従え水の精霊、小さく広がり我らが目となれ!ミスト・アイズ>
ロイの魔法で霧が発生し、ロイとフレイアにボールの位置を知らせた。
(ロイ様、カッコイイ~~~)
フレイアはロイの静かな詠唱に心を奪われていた。
ロイは見えるようになったボールをレシーブで打ち上げた。だが、狙った所に飛ばなかった。ボールは高く上がり、そのままでは相手のコートに入ってしまう軌道を描いた。
「すまない。フレイア」
「大丈夫。私なら打てます」
そう言って、フレイアは2メートル以上飛び上がり、ロイの魔法で見えるようになったボールを打とうとして、相手のコートを見た。
(あれ?ミリアが居ない?どこに打てば、いや考えてる時間は無い。ここは只、全力で打つ。ロイ様のミスを私がカバーするんだ!だから、簡単にレシーブできないように魔法でボールを硬くしてから~~~、打つべし!)
フレイアは、魔法で鉄の様に硬くしたポールを魔法で強化した肉体を使って全力で打ち抜いた。
大砲を撃ったかのような轟音が響き渡り、ボールは相手コートの真ん中に、目にも止まらぬ速さで着弾しようとしていた。運が悪い事に、その場所には姿を消したミリアが居た。
(不味い!)
コートの外で見ていたエースはフレイアがボールを打ち抜いた瞬間、その危険性を理解し、防御魔法を発動させようとしたが詠唱を行う時間的猶予は無かった。
(なに、あれ?あんなの食らったら死ぬ……)
セリアはそう思った。すぐに防御魔法を発動させようとする。セリアの体感時間が長くなり、周囲の動き全てが遅くなった。
(あれ?全てがゆっくりになった。今のうちに防御魔法を……。アレ?ダメだ。間に合わない。魔法が発動する前にぶつかる……)
セリアは、魔法の発動が間に合わない事を悟った。そして、フレイアが打ち出した鉄の硬度を持った球が、ゆっくりとミリアに近づき、頭部に直撃する寸前で視界が切り替わった。
セリアの目の前にはアルトとマリアが居た。そして、他の主要メンバーも揃っていた。
「いよいよね。アルト」
マリアが真剣な眼差しでアルトに話しかける。
「ああ、ミリアが君に拘った理由が、今、目の前にいる。彼女はアレを倒すために『神域の迷宮』を目指していたんだ……」
アルトたちの眼前には黒い軍勢が居た。そして、黒い影も居た。セリアは黒い影と視線が合うのを感じていた。
(これは、予知?それとも、死後に見ている記憶?)
セリアは、直前に自分が死から逃れられない状況に居たことを覚えていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ミリア……」
悲しげな声でフレイアは謝っていた。
「君のせいじゃない。アレは不幸な事故だったんだ……」
落ち込んでいるフレイアを抱きしめてロイが慰めた。
「そうだ。君のせいじゃない。それに、君が居たから『神域の迷宮』を誰一人欠ける事無く攻略出来たんだ。君はミリアの分も頑張った。もし、罪があるとしても、許されていいはずだ」
アルトは、そう言ってフレイアを慰めた。
(アルト……。ミリアが死んでいるのに……)
セリアには、アルトがミリアの死を悲しんでいないように見えた。
「そうですよ。アレは不幸な事故だったんです」
そう言って、マリアはアルトの手を握った。
(ありがとう。マリア。私は大丈夫だ。君が居てくれたから私はミリアの死から立ち直れた)
アルトはマリアの目を見た。マリアもアルトを見返して笑顔を向けた。
(ああ、やっぱり。アルトとマリア、付き合ってるんだ……)
セリアは二人の雰囲気から察した。
「今は、目の前の敵を倒す事に集中しよう」
アルトがそう言った後で、セリアの視界が切り替わった。
アルトたちは黒い影と対峙していた。
「悪いが死んでもらう」
アルトが黒い影に宣言した。
「ははは、面白い事を言う。『破滅の魔女』抜きで勝てるとでも?」
「破滅の魔女だと?なんのことだ……」
アルトが聞き返す。
「そんなことも知らんのか……。まあ、無理もないクリシェラルの血族は死に絶えた。私を阻むものは何もなくなった」
「お母さんとお姉ちゃんの仇はクルルがとるんだから」
クルルは手に持っていた漆黒の杖を黒い影に向けた。
「ほほ~。『破壊』の魔杖は手に入れておるのか、魔女の出来損ないにしては上出来じゃないか、だが、それも使いこなせなければ只の飾りよ」
「飾りかどうか見せてあげる」
クルルは普段のおっとりとした口調ではなく、怒りに満ちたハッキリとした口調で、そう宣言した。
<吹き荒れろ風の精霊、雷鳴と共に我が敵を切り刻め!サンダー・ストーム>
巨大な雷雲と竜巻が発生し黒い影を飲み込み無数の雷が黒い影に降り注ぎ、見えない真空の刃が黒い影に殺到した。
だが、黒い影は無傷だった。
「やはり飾りではないか」
そう言って、黒い影はクルルをあざ笑った。
「クルル!惑わされるなハッタリだ。みんな、行くぞ!」
そう言って、アルトは聖剣『陽光』を掲げて黒い影に向かっていった。
「ミリアの為にも、お前だけは私が、私が~~~~~!」
フレイアは先陣を切るアルトを追い越して黒い影に飛びかかり、大上段から最強の攻撃力を誇る斧『黒曜』を振り下ろした。その一撃を黒い影は微笑みながら片手で受け止めた。
「大した一撃だな~。普通の人間なら挽肉になっている所だ。だが、私には通用しない」
黒い影は勝ち誇ったように宣言する。
「私が!私が!ミリアの意思を継いでお前を倒すんだ!じゃなければ私は私を許せない!死ね~~~~~~!」
フレイアは『黒曜』を縦横無尽に振るい、黒い影を攻撃する、だが、黒い影は玩具の剣を相手にしているかの如く、フレイアの攻撃を受け流して見せた。
「未熟!お主は力任せに攻撃しているだけだ。それでは、真に武術を極めたものには通用しない」
「それが、どうした!私は最強の戦士だ!当たればお前は砕け散る!私は生きている限り攻撃を止めない!恐怖するのはお前の方だ!一瞬のミスでお前は死ぬ!いや、私が必ず殺す!」
フレイアはミリアを殺してしまった自責の念から、自身を追い込み常人には成しえない特訓を行い。意識するだけで全ての魔法を発動し、自己治癒能力を最大限まで高め、脳と心臓が同時に破壊されない限り、死なない不死身の戦士と成っていた。その、猛攻を黒い影は、赤子をあやすように受け流したのだ。
セリアの視界は、また変わった。目の前には2人だけ立っている黒い影とフレイアだった。他のメンバーは倒されて居た。
「賞賛に値する。君は歴代でも最強の戦士だ。だが、私を殺すには足りない。なぜ、君は私を殺す可能性があるミリアを殺したのだね?」
「ふざけるな~~~~!なんで、私が親友のミリアを意図的に殺す必要がある!私はただ、ロイ様の為に全力を出しただけ、その結果、ミリアを失ってしまった。だから、ミリアの意思を継いで、お前を倒すんだ~~~~!」
フレイアは黒い影に渾身の一撃を放った。だが、黒い影は、その攻撃を受けても平然としていた。
「心意気は認めよう。だが、君では役者不足だ。安らかに眠れ」
<全知全能の神よ我に力を!決して逆らえぬ運命の死を与えよ!フェイトフル・デス>
だが、黒い影の魔法はフレイアに通じなかった。
「ふ、ふはは、、あ~はっはっはっ、お前、運命に愛されし者か!なら、実力で殺すまでだ!」
再度、視界が変わり、フレイアも倒れていた。
「おや、また見に来たのかね。君も諦めが悪いな、イリア……」
セリアは、そこから黒い影が何を言うのか知っていた。以前見た占いの結果の通りに黒い影は話し、最後にセリアの顔を両手で掴んで、狂気に満ちた目で大声で笑った。




