夏合宿(遠泳4)
読み方
「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
しばらくの間、ロイとフレイアが見つめあっていると、二人の近くにいつの間にかヒイロが立っていた。
「ロイ様~。そこは、さっさとキスする状況だと思いますけど?」
(二人の仲が進展するように風の魔法でアシストしたのに、なにをやってるんだか……)
さっきの風は、密かに二人の様子を見ていたヒイロの仕業だった。
「いきなり現れて何を言うんですか~~~~~!」
ヒイロの出現にフレイアは気恥ずかしさのあまり、即座に立ち上がり見事な正拳突きをヒイロのみぞおちに叩きこんだ。フレイアは、魔法の授業でミリアに言われた通り、身体強化系の魔法を練習していた。それは、無意識レベルでいつでも発動できるように訓練したものだった。
(ヤバッ!フレイア様、なんて魔力で殴ってくるんだ!防御しないと僕が粉みじんになってしまう!)
ヒイロはとっさに風の魔法で攻撃を防御したが、人が人を殴ったというにはあまりにも大きな爆音が発生し、ヒイロは100メートルも吹っ飛ばされ、海の上を錐もみ回転しながら10回ほどバウンドして海に落ちた。そして、ヒイロはそのままうつ伏せの状態で海に浮かんでいた。
「あ……」
(しまった……。無意識に強化魔法使っちゃった……)
フレイアは顔を青くした。
(こんなくだらない死に方なんて出来るか~~~~~~!)
ヒイロは衝撃で動かなくなった体を守るために、心の中で叫びつつ魔法を使って自力で海から飛び上がり、ずぶ濡れの状態でフレイアの元へ戻ってきた。何とか痺れから立ち直り、深呼吸をしてからフレイアの前に立った。
「からかったのは謝りますが、あの反撃はやりすぎです。僕じゃなかったら死んでますよ……」
「ごめんなさい」
フレイアは慌てて謝罪した。
「それにしても、強くなりましたね……。今度、手合わせ願いますよ。じゃあ、僕は訓練にもどりますので」
そう言って、爽やかな印象を残し、何事も無かったかのようにヒイロは訓練に戻ろうとした。だが、そのヒイロの腕を掴む者が居た。それは、セリアだった。
「なんか、騒ぎがあったから何事かと思って来てみたけど、なんでヒイロはフレイアに殴られたのかな?お姉さんに話してごらんなさい」
(この女ったらし、フレイアに何かしたのか?ゲーム内でのこいつは本当に節操のないクソ野郎だったからな……。場合によっては姉権限でぶっ飛ばす!)
「セリア、違うの、ヒイロは悪くない。いや、ヒイロも悪いけど、私の反撃もやりすぎだったの」
「どういうこと?」
(反撃されるような事をしたって訳ね……)
セリアはヒイロをにらみつけた。
「いや~、ロイ様とフレイア様が良い雰囲気だったので、背中を押してあげようとしただけだよ」
(ヤバイ!姉さんが本気で怒っている)
ヒイロは内心焦っていた。セリアが怒っていると理解していたが、その怒り方がミリアとそっくりだったのだ。それは、ヒイロの心に深く刻まれたトラウマだった。ミリアは怒らせると怖いのだ。
「具体的に言いなさい!」
「だから、キスしそうな雰囲気だったから、キスすればいいのにって言っただけだよ」
セリアの追及にヒイロは、顔を青ざめながら早口で説明した。
「そうなの?フレイア」
「うん、だから、恥ずかしくなって全力で殴っちゃった」
「そう、それはヒイロが悪いわ……。というか、ロイ?」
ヒイロが殴られてからロイはずっと固まっていた。
(フレイアとキス?フレイアとキス?フレイアとキス?フレイアとキス?)
奥手なロイにはヒイロの言葉は過激すぎた。
「なんか、フリーズしてるわね……」
「あの、ロイ?」
フレイアが心配してロイに近づくと、ロイは理性を取り戻した。
「あぁ、すまない。大丈夫だ。少し、風に当たってくるよ……」
(ダメだ。いったんフレイアから離れよう。このままでは理性が持たない……)
ロイは、本能に負けそうな自分を戒めるために、逃げることにした。
ロイが居なくなった後、フレイアはセリアに愚痴をこぼした。
「ロイに、告白された」
「良かったじゃない」
(おお、ゲームの進行よりも早くに告白イベントが発生したのか、占いしたり、お茶会開いたり、二人っきりにしたり、色々したかいがあったわ)
セリアは喜んでいたが、フレイアはあまり嬉しそうではなかった。
「良くない。卒業するまで何もしないって言われた……」
「なに?それで落ち込んでいるの?」
「うん」
「じゃあ、こう考えたら?卒業したら色々な事を一杯されるって」
セリアは悪意無く、そう言い放った。
(姉さん。はしたないわよ)
「なんてこと言うのよ!」
ミリアがセリアに忠告した瞬間、フレイアは真っ赤になってセリアを突き飛ばそうとした。
フレイアの一撃は、ヒイロの時と同様に身体強化を行った殺人級の張り手だった。
(あれ?この一撃、まともに受けたら死ぬやつだ。私の勘が言っている。間に合え!防御魔法~~~~~~~~!)
セリアは、フレイアの張り手が自分に当たる刹那の時間に、死の危険を察知した。セリアの脳が身を守るためにセリアの思考を加速させ、防御魔法の発動が間に合った。
およそ人を張り手で吹き飛ばしたとは言えない衝撃音が鳴り、セリアはヒイロと同じように海をバウンドしてうつ伏せで海に浮かんだ。
(姉さんのバカ……)
(ごめん。ミリア……)
(ちょっと待って、私、泳げないのに、こんな場所に!)
ミリアは、パニックに陥り、手足をバタバタと動かしてしまった。結果、浮力を失い海に沈んでいった。
(誰か!助けて!アルト様~~~)
そんなミリアの腕を掴む者が居た。それは、アルトだった。アルトは、ミリアを落ち着かせるためにミリアを抱きしめた。そして、魔法で水中に文字を書いた。
『大丈夫、動かないで、私が助ける』
(アルト様!助けに来てくれた!)
(ああ~~~~。勝手に抱きしめて~~~~!)
(姉さんがフレイアに変な事言うからでしょ?)
(そうだけど、そうなんだけど……)
(それに、アルト様が居なかったら、私、死んでたかもよ?)
(仕方ない、今回だけだからね~)
(ありがとう。姉さん♪アルト様、温かいな~)
海面に顔を出し、呼吸が出来るようになり、ミリアが息を整えるとアルトはミリアに問いかけた。
「大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。アルト様。それにしても、アルト様は、どうしてここに?」
「たまたまだよ。遠泳のトレーニングをして折り返し地点を超えたから浜に戻る為に泳いでたら君が飛んできたんだ。ビックリしたよ」
「そうだったんですね。ありがとうございます」
ミリアは偶然の出来事に運命を感じてトキメイテいた。
(助けるためとはいえ、初めてミリアを抱きしめてしまった。細くて柔らかい……。私が守らなければ……)
「はい、そこまで、ここからは私が浜まで泳ぎますから大丈夫です」
そう言ってセリアはアルトを突き放した。
(セリアは、相変わらずだな。仕方ない……)
「そうか、それじゃあ、頼むよ。セリア」
そう言いつつもアルトは、セリアのペースに合わせて浜まで帰った。




