夏合宿(遠泳3)
読み方
「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
ヒイロがフレイアを助けに行ったとき、アルトとエースは遠泳を行っていた。
「ヒイロは、どこに行くつもりだ?」
急に泳ぐのを止め、空を飛んで行ったヒイロを見てアルトは疑問の声を上げた。
「あー、きっとあれですね。フレイアが沖に出てるみたいです」
アルトの問いにエースが答えた。
「なるほど、ロイも追っているし、何かあったのだな」
「私たちも行きますか?」
「いや、ヒイロ一人で十分だろう。風の魔法はこういう時に便利だからな、私たちはこのまま訓練を続けよう」
(試練の迷宮でミリアを守れるように強くならないと)
「分かりました。続けましょう。それにしても、意外といい訓練ですね」
「そうだな、最初はセリアを疑っていたが、遠泳は全身の筋肉と体力を鍛えるのに向いている。地上を走るよりも効果が期待できそうだ」
一方、ミリアとマリアは浅瀬で、泳ぎの練習をしていた。ミリアはフレイアと同じスクール水着で、マリアは露出の多いビキニを着ていた。
「は~い、顔を水につけて~。目を開いて~」
ミリアは言われた通りに目を開いた瞬間、飛び上がった。
「痛い!」
「ミリア。痛いのは分かるけど、慣れないとダメよ?」
「うっ、うっ、分かってるけど、痛いのよ~」
(そうだよね。痛いよね~。私も水中で目を開けるの苦手……)
(姉さん!経験があるんだから代わってよ!)
(え?嫌だよ。水泳は嫌いなんだもん)
(私だって嫌よ)
(そう、なら遠泳で一緒にアルトと泳ぐという夢は捨てるのね?)
(ぐぬぬ、分かった。やりますよ)
ミリアはアルトと一緒に泳ぐのを楽しみにしていた。
「大丈夫、何度もやっていると慣れるから」
「分かった。頑張る」
そう言ってミリアは練習を続けた。
「それにしても、ミリアって、スタイルが本当にいいよね~」
「そう?マリアの方が良いと思うけど?」
「そうかな?私の体ってちょっと筋肉質じゃない?」
「う~ん、そうだけど、なんか、それが健康的に見えるのよね~。私は、学院に入ってから運動始めたから……」
「自信が無いからスクール水着を着ているの?」
「自信が無いのは、図星なんだけど、スクール水着を選んだのは貴族の令嬢がむやみに肌を見せてはいけないって思っているからよ」
「なるほど、だからフレイアもスクール水着なんだ」
「そう、でも、本当はもっと腕も足も隠れる水着を選びたかったんだけど、セリアが……」
「セリアが?」
「泳ぎだけなら、それでいいけど、訓練は遠泳だけじゃないし、何よりミリアの美貌を見せびらかしたい!だって……」
「あははっ、なにそれ」
「いや、美人な二人に、私の気持ちは分からない。私は美しくなかった。だから、水泳も嫌いだったし、オシャレも嫌いだった。でも、美しい体を手に入れたら見せびらかしたくなるしオシャレもしたくなるのよ!本当は可愛いビキニが着たかった」
「私が美人?髪の毛、天然パーマなのに?」
「はぁ~~~。本当にブスだった私に比べれば、天パぐらいチャームポイントでしょ?」
「ん?ブスだった?」
(あ、しまった。転生の話はしてないんだった……。どう、誤魔化すか……)
「セリアは自分がブスだったと思い込んでいるのよ」
セリアの失言をミリアがフォローした。
「そうなんだ」
「そういう意味では、マリアも一緒よ。顔も良いしスタイルも良いんだから自信を持ったら?」
「ミリアが、そう言うのなら信じてみようかな」
(上手く誤魔化せたみたいね。姉さん。言動には気をつけて……)
(は~い)
「あれ?フレイアとロイが戻ってきてる。何かあったのかな?」
セリアが砂浜に戻ってきたロイとフレイアを見つけた。
「そうですね。二人で海を見つめて座ってますね」
マリアも頭に疑問符を浮かべながら二人を見ていた。
ロイとフレイアはビーチパラソルの下で膝を抱えて座っていた。お互いに海を見て、冷え切った体を太陽の日差しで温めていた。
「すまない。フレイア。カッコ悪いところを見せてしまった」
「いえ、そんなことないですよ。魔法で私を守ってくれました」
「いや、ヒイロが居なければ、クラーケンを倒す事が出来なかった。私は弱い」
ロイは、自分の能力を卑下していた。回復魔法や防御魔法は得意だが、攻撃魔法は全く使えなかった。
「ロイは弱くない!ロイは強いから、攻撃魔法が使えないんです!」
(ロイが攻撃魔法を使えないのは、誰も傷つけたくないという信念の影響が大きいって聞いてる。でも、それって優しいから使えないだけ……)
「私が強い?」
「そうです!人は弱いから自分を守るために他人を傷つけるんです。本当に強い人は他人を傷つけない!」
「なんで、そう思うんだい?」
「だってそうでしょ?本当に強い人は、弱い人から攻撃されても傷つかないからむやみに反撃しない。草食動物最強の象が普段温厚な様に、ロイ様も強いから優しいんです」
「違うよ。私は臆病なんだ。人を傷つけるのが怖い」
「それって、ロイが自分は他人を傷つける力がある事を知っていて恐れているからです。自覚してください。ロイは弱くない」
(ロイ様は優しすぎる。その優しさは心の強さからくるものだって知って欲しい。誰よりも強いから誰よりも優しいんだって……)
「ありがとう。フレイア」
(フレイアは、どうして私を慰めてくれたんだろう?)
ロイはフレイアの言葉を嬉しく思った。そして、自然とフレイアを見つめた。フレイアもロイを見つめていた。
「あの?ロイ?さっき、私が一番だと言いましたよね?それって、つまり……」
フレイアはロイから、言葉を引き出したかった。
「そういう風に受け取ってもらって構わない。でも、私は無責任な男になりたくない」
「無責任?」
「つまり、学院を卒業して、就職して一人前の男になって君の両親に認められて結婚するまでは、君に何もしないという事だ……」
(それって、実質、プロポーズ……)
ロイの真剣な告白にフレイアの心臓は高鳴った。そこへ、一陣の風が吹いた。風に押されてフレイアはロイにもたれかかった。少し、顔を近づければ唇が触れるほどの距離だった。ロイとフレイアは、お互いに見つめあい。顔を赤くして、固まっていた。