夏合宿(遠泳2)
読み方
「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
ロイはアロハシャツと短パンを脱いで水着姿になった。フレイアもワンピースを脱いで水着姿になった。ロイはトランクス型の海パン、フレイアは肌の露出が少ないスクール水着だった。海水浴場には一般客も居て、賑やかな雰囲気だった。
(ああ、どうしよう恥ずかしい)
フレイアは体のラインが分かる水着姿をロイに見られるのが恥ずかしかった。
(それに、周りの女の子は、あんなに肌を露出させてる。体のラインも綺麗だし、きっとロイもそういう女の子の方が良いよね)
フレイアが恐る恐るロイを見るとロイは顔を真っ赤にしてフレイアを見ていた。
(フレイアの水着姿、なんて美しいんだ……)
(あれ?なんで私を見て顔を真っ赤に?あれ?私、そんな過激な恰好してた?それとも、こんな地味な恰好をした私と一緒に居るのが恥ずかしいの?)
「あの、ロイ?私、変ですか?」
フレイアは、モジモジと恥じらいながらロイに質問した。
「いや、変じゃない」
ロイは、フレイアから目を背けて、出来るだけ冷静に答えた。
「じゃあ、なんで、そんなに顔が赤いの?」
「いや、これは、その……」
ロイはフレイアから目を背けたまま、無意識に手で口元を隠した。
「私が地味だから、一緒に居るの恥ずかしい?」
「そんなことは無い!」
ロイは、フレイアの手を取って必死に否定した。
急に手を握られたフレイアは、突然のロイの行動に顔を赤くした。そして、二人は無言で見つめあった。フレイアもロイも心臓が破裂しそうなぐらい激しく心拍数が上がった。
(はわわわ~。ロイ様が私の手を握ってる~~~~)
(ああ、どうしよう。勢いでフレイアの手を握ってしまった。どうしよう~~~)
恋に奥手な二人は、どうしていいか分からずに固まってしまった。だが、時間が二人を冷静にした。赤かった顔も普通に戻った。
「あの、ロイ様?」
「ああ、すまない。顔が赤かった理由だが、君が美しすぎて、その、見とれていたんだ……」
ロイの告白に冷静に戻ったフレイアが再び混乱することになった。
(美しい?私が?美しい?)
「あ、ありがとうございます。ですが、私よりも美しい人は周りにたくさん居るではありませんか」
「君より美しい人は居ないよ」
「はわわわわ」
ロイは奥手だが正直者だった。そして、フレイアは好きな人に美しいと言われ、嬉しさのあまり気絶してしまった。
「フレイア?フレイア!」
ロイは、気絶したフレイアを抱きかかえて、みんなとの集合場所として立てたビーチパラソルの所まで運んだ。
しばらくして、フレイアが目覚めると、フレイアを心配そうにのぞき込んでいるロイと目が合った。
「良かった。目を覚ましたようだね」
「あの、私、一体……」
フレイアは自分が何で寝ていたのか思い出そうとした。そして、ロイの言葉を思い出し、また顔を真っ赤にした。
「ろろろ、ロイ様。先ほどの言葉、本当ですか?」
「先ほどの言葉?」
「私が一番だと、おっしゃいましたよね?」
「そうだよ」
「は~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
フレイアは嬉しさと気恥ずかしさのあまり、飛び上がって海に走って逃げた。そのまま泳げないはずなのに、ものすごい勢いで沖に泳いでいった。
「フレイア!待って!」
ロイは、泳げないはずのフレイアが海を泳いで沖に出ていくのを見て、慌てて後を追った。
(あれ?なんかものすごい勢いで沖に泳いでる人が居るな~。僕たちと同じく遠泳する人もいるんだな~。あれ?フレイア?フレイアなのか?泳げないって言ってたのに、もう泳げるようになったのか?あれ?ロイが追ってる?しかも、結構必死に追ってるな、何かあったのか?)
ヒイロは物凄い勢いで泳いでいくフレイアに異常を感じ取り、後を追うことにした。
フレイアが冷静さを取り戻した時、フレイアは砂浜を見失っていた。
(あれ?ここどこ?どっちに戻ればいいの?)
フレイアは途方にくれていると、ロイが追ってきていた。
「フレイア!動かないで、今からそっちに行くから」
(ああ、ロイが来てくれた。あれ?私、なんで浮いてるんだろう?)
フレイアは自分が泳げない事を思い出した。
(まあ、いいか。なんか疲れて動けないや。ロイ様が来てくれるのを待とう)
フレイアが脱力して浮いていると、そこへ黒い影が近づいてきた。それは、海の魔物クラーケンだった。クラーケンはフレイアを獲物と定めて触手を伸ばした。フレイアは、それに気が付かなかった。
(不味い!フレイアが狙われてる!助けないと)
ロイはクラーケンの存在に気づき、フレイアを助けるために魔法を使った。
<静かに従え水の精霊、我が同胞を守れ!ウォーター・スフィア>
水の球がフレイアを包み込みクラーケンの触手を防いだ。
(あ、私、襲われてる)
フレイアは自分の置かれた状況を理解した。
クラーケンはフレイアを諦めずに水の球ごと、フレイアを触手で締め上げた。
(ぐう!なんて力だ!だが、フレイアは私が守るんだ!)
ロイは防御魔法に魔力を流し込み、フレイアを守った。
(ふむ、フレイアを追ってきたら妙な状況になったな……)
ヒイロは、魔法で空を飛んで状況を見ていた。
(二人の関係を進めるためには、見守るべきなんだろうけど、たぶんロイにアレを倒せない。ロイは回復や防御の魔法は得意だが、攻撃魔法は何も使えない。僕はフレイアの王子様になりたいわけじゃない。だが、姉さんの親友が死ぬのを黙って見てられるほど、薄情でもない)
<吹き荒れろ風の精霊、我が敵を切り刻め!ウインド・チョップ>
ヒイロの魔法でクラーケンは刺身になった。
「ロイ様、フレイア様を助けてくださいね。僕は、訓練に戻りますよ」
そう言って、ヒイロは二人を残して、訓練に戻った。
ロイは、フレイアの元に泳いで駆け付けた。
「すまない。遅くなった」
「いいえ、私こそすみません。急に逃げて……」
フレイアは、先ほどの事を思い出して赤面していた。
「とりあえず。沖は危険だ。砂浜に戻ろう」
「はい」
「さっき、泳いでいたみたいだけど、砂浜まで泳げるかい?」
「あの、さっきのはまぐれです。今は、無理です」
「分かった。私が魔法で、連れて行くよ」
<静かに従え水の精霊、我らを運べ!ウォーター・ボート>
ロイの魔法で出現した水の船に乗って、二人は砂浜まで戻った。




