夏合宿(遠泳1)
読み方
「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
土の季節1の月『こちらの世界でいう4月』から始まった1学期も終わりを迎え、火の季節2の月『こちらの世界でいう8月』になり、夏合宿が始まった。場所は、ネータサッシ海岸だった。
アルト、ロイ、エースはロイヤルホテルに各自部屋を取り、ミリア、フレイア、マリアは、民宿『しおかぜ』に1部屋とって3人で一緒の部屋に泊まることにした。護衛のアランはミリアたちの隣の部屋にメイドのジェーンと二人で泊まることになっていた。
さらに、合宿の話を聞いたヒイロが勝手について来てロイヤルホテルに宿泊していた。
アルト、ロイ、エース、ヒイロはアロハシャツと短パン、ミリア、フレイア、マリア、ジェーンは、薄手のワンピースを着ていた。アランは半そでのシャツとズボンを履いていつでも戦える服装のまま姿を消していた。
各自、宿にチェックインして荷物を預け、海水浴場に集合した。
「それで、どんな特訓を行うんだ?」
アルトは、こんな日差しの強い砂浜でセリアがどんな特訓を行うのか疑問だった。特訓であれば学院でも出来る。訓練施設も無い砂浜で何を行うのか興味があった。
「全員、水着を着てきたわね?」
「ああ、言われた通り、準備してきた」
「じゃあ、まずは遠泳を行うわ」
「遠泳?」
「そうよ!遠泳を行うことで最大HPとスタミナが大幅に強化されるわ」
「エッチピー?」
「ああ、通じないか……。とにかく体が鍛えられるのよ」
「まあ、君がそう言うのならやってみよう」
「あの、セリア。私、カナヅチなんだけど……」
おずおずと手を上げて告白してきたのはフレイアだった。
「え?そうなの?じゃあ、フレイアにはロイが泳ぎ方教えてあげて」
「私で良いのか?」
「他に適任者は居ないわ」
セリアは自信満々に言った。これは、ミリアと事前に打ち合わせた流れだった。フレイアがカナヅチなのを理由にフレイアとロイの恋が進展するように二人きりにする作戦だった。そして、他のメンバーには根回し済みだった。
「分かった。じゃあ、浅瀬で練習しようか、フレイア」
「はい」
(ロイに泳ぎを教わるの?どうしよう嬉しいけど、恥ずかしい)
フレイアは顔を赤くしうつむきながらロイについていった。
「さて、二人は行ったようね。じゃあ、みんな、遠泳で特訓よ!」
(ミリア、泳ぎは任せたからね)
(え?姉さんが泳げるんじゃないの?)
(え?ミリアも泳げないの?)
((え?))
セリアとミリアは二人ともフレイア同様にカナヅチだった。
(何で泳げないの?)
(いやいや、姉さん。私の幼少期からの記憶も持ってるでしょ?いったい何時、私が水泳なんてやってたのよ?)
(あれ?海にはよく来てたよね?)
(ちゃんと思い出してよ。海には来てたけど、主に砂浜を歩いたり、少し足を海につけたりする程度で、水着を着て泳いだ事なんて一度もないわ)
(ああ~~、そうだった~)
(姉さんも泳げないの?)
(う~ん、背泳ぎは出来るけど息継ぎが苦手で、クロールとか出来ないんだよね~)
(仕方ないわね。アルト様に教えてもらう♪)
(ちょっと、水泳にかこつけて、アルトと仲良くなろうと企んでいるわね?)
(ふん、姉さんが悪いのよ。泳げもしないのに遠泳なんて提案するんだから)
(ぐぬぬ、仕方ない。教えてもらうのは良いけど、キスとかハグとか禁止だからね)
(はいはい、分かりました~)
(くっ、キスしそうになったら邪魔してやるからな~)
「あの~。アルト様、ごめんなさい。私もセリアも泳げないんです。泳ぎ方、教えてくださいませんか?」
ミリアは、少し恥ずかしそうにしながらアルトにお願いした。
「ちょっと待って姉さん。泳ぎなら僕も教えられるんだけど?」
ミリアの申し出にヒイロが名乗りを上げた。
(おお、ヒイロ。お前が居たか、セリア姉さんは、お前を応援する。アルトは絶対ミリアを裏切る。これ以上、仲良くさせてたまるか!)
だが、ミリアはセリアに体の主導権を渡さなかったのでセリアの声はヒイロには伝わらなかった。
「ヒイロ、君は無理やり付いてきただろう?本来、合宿に参加する必要は無いんだ。それに、ミリアは私を指名した。君の出る幕はないよ」
アルトはヒイロに諭すように優しく言った。
「いや、僕の方が教えるのに向いてると思いますよ。だって、僕は風の魔法が得意なんです。おぼれかけた時とか、魔法で助けることが出来ますよ」
「なるほど、確かに君の魔法は便利だ。だが、魔法に頼ってしまっては訓練にならないんじゃないのか?」
アルトとヒイロは表情こそ穏やかだが、激しく戦っていた。
(ヒイロめ、今まで大人しくしていたのに今日はやけに突っかかってくるな)
(アルトの野郎!これ以上、姉さんとの接触の機会を与えてたまるか!)
そんな二人を見てマリアが手を上げた。
「あの、私はよく弟たちに泳ぎを教えていました。ミリアも異性に教わるよりは同性の私から教わった方が気楽なんじゃないかな~と思います」
マリアの提案を聞いて、アルトとヒイロはミリアを見た。そして、一瞬、ミリアは考え込んでしまった。
(アルト様から教えて欲しいけど、ヒイロは簡単には引き下がらないだろうし、マリアの提案を受ければ丸く収まりそうだけど……)
「私はマリアから教わりたい!」
ミリアが考え込んでいる隙をついてセリアは体の主導権を奪い、勝手にマリアから教わることを決めてしまった。
(あ、姉さん。勝手に決めて!)
(ミリアも分かってたでしょ?あのままだとアルトもヒイロも引かないし、無理やりアルトに教わったらヒイロがすねちゃうでしょ?)
(それは、そうだけど……)
(それに、アルトには合宿に集中して体を鍛えて貰わないと……)
(分かった)
ミリアは拗ねながらもアルトにトレーニングが必要な事を認めた。




