嫉妬1
読み方
「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
(今週も水曜日が来たわね。今週こそ、マリアの行動が記事になっているはず)
(いや、お姉ちゃん。無理でしょ。今週のトップ記事は『暗殺者現る』だと思うよ?)
(やっぱ、そうなるのかな~)
ミリアはセリアと心の中で会話しつつ、新聞部の部室に足を運んだ。
「今週も大活躍だったね。ミリア譲」
新聞部の部長、アリエルは今週も机の上に腰かけ足を組んでいた。
「部長は、私以外に興味が無いんですか?」
「いやいや、学園内の出来事は大体把握しているとも、君が目立ちすぎているだけだよ」
「まあ、そうですね」
「そうそう、君が気をかけてるマリア譲だけど、面白い事実が分かったよ」
「面白い事実?」
「ああ、彼女は『黒田流農殺法』の使い手だったんだ」
「それって、すごいの?」
「なんだい、知らないのかい?戦国の世に生まれた農民たちの武術さ。その一撃は風よりも速く、あらゆるものを切り裂き打ち砕く。鎧を着た騎士を鎧ごと粉砕したという逸話もあるんだ」
「そうなんですね~」
(姉さん。知ってた?)
(知ってる。ゲームの中でマリアの両親の職業を選べるんだけど、農家、冒険者、商人の3つがあって、農家を選ぶと黒田流農殺法を習得した状態で始まるんだよね)
(強いの?)
(武器が鎌と鍬でゲーム内ではネタ扱いだったな~。私はマリアをいつも聖騎士にしてたから、ゲシュタルト流剣術のレベルが最初から高い冒険者を選んでたのよ。だから、黒田流農殺法の強さは分からない)
(そっか)
「それでね。マリアが黒田流農殺法でアルト殿下を負かしたんだよ」
「え?アルト様が負けたんですか?」
「ああ、それに君の義弟ヒイロも負かしているよ。今、1年生で最強の人物はマリアだよ」
「マリア。そんなに強かったの?」
(マジデ?マリアって序盤、こんなに強くないはず……。いや、黒田流農殺法が凄いのか?分からない)
「後、これは噂なんだけど、アルト殿下がマリア譲と親密な関係になっているとか言われてるんだよ。あ、婚約者のミリア譲には嬉しくないニュースだったかな?」
アリエルの言葉を聞いて、ミリアの心はざわめいていた。
(大丈夫。アルト様は裏切っていない)
「なにか、証拠があるの?」
ミリアは平静を装ってアリエルに聞いた。
「ただの噂さ、何の証拠もないよ。でも、剣術の練習を見たことはあるかい?アルト殿下はマリアに負けてから、もっぱら彼女と手合わせしているよ」
(アルト様は負けず嫌いだから、ムキになって戦いを挑んでいるだけ)
(でも、それはゲーム内のイベントで、アルトがマリアを意識し始める切っ掛けだったはず)
(姉さん……)
(事実は事実として受け入れないと……)
(確認して来る。姉さんも見ればアルトがマリアをどう思っているのか分かるはず)
(分かった。今日の授業は終わっているから、アリエルとの約束を果たして、明日、見に行きましょう)
「来週の記事を読み終えたら、占いを始めるわ」
「ああ、よろしく頼むよ。君の占いのお陰で新聞の発行部数はうなぎのぼりだ。感謝するよ」
次の日、午後の選択授業でミリアは剣術の授業には参加せずに遠くから授業を眺めていた。すると、アルトがマリアに手合わせをお願いしていた。その顔は真剣そのものだった。そして、マリアも真剣に戦っていた。ヒイロも加わり、交代で練習していた。
(ほら、やっぱり真面目に練習してるだけよ)
ミリアは、自分が正しいと思った。
(でも、マリアもアルトも楽しそうに会話してるわね。あれじゃあ、噂になるのも無理ないか……)
セリアの言葉でミリアは自分の心の中に黒い感情が芽生えたことを自覚した。
(ダメよ。ダメよ。ミリア。嫉妬なんかしたらダメ。この感情のままに動いたら、嫌な未来が待っているのよ)
ミリアは自分の心を制御しようと必死になっていた。
「ミリア、おはよう」
次の日、廊下でミリアとすれ違ったマリアは笑顔で、いつも通り挨拶をした。
(姉さん。お願い)
(分かった)
「おはよ~。マリア」
挨拶を返したのはセリアだった。この日からミリアはマリアと口を利かなくなった。
~~~1週間後~~~
「姉さん。マリアの護衛の事なんだけど」
「なに?」
「僕が護衛を始めて1週間たったけど、初めのころにユリアが、ちょっかいかけてきたけど、僕が護衛についたと知ってから来なくなったんだ。もう、護衛は要らないんじゃない?」
「そうね。もういいと思う」
ミリアは興味なさそうにヒイロに答えた。
(あれ?やけにあっさりと了承したな……)
~~~さらに1週間後~~~
毎週行われるお茶会で、マリアは異変に気付いていた。最初は気のせいかもしれないと思っていたが、2週間も続けば気のせいではなくなる。
「それでね、ゴンザレスがね。少しづつ言葉遣いが良くなってさ~。いや~人間って成長するもんだね~」
セリアはお菓子を食べつつマリアと会話していた。
「あの、セリア。間違ってたらごめんなさい。ミリアは私を避けてる?」
「え?なんで?」
(ああ、やっぱり気づくよね~)
「だって、この2週間、セリアとは会話してるけど、ミリアは私と会話していないもの」
「う~ん。そうなんだよね~。でもね~。複雑なんだよ」
「何か気に障るようなことをしたのならごめんなさい。でも、友達になるって言ったのに、話もせずに絶交するのは勝手すぎると思う」
(とマリアは申しておりますが、どうでしょうミリアさん)
(ごめんなさい。今はダメ。話せばきっと姉さんが見た未来の通り、私はマリアを……)
「マリア。ミリアはあなたに言いたいことがあるんだけど、キツイ言い方になりそうだから、心の整理がつくまで待って欲しいって」
「私と話さない理由は分かったけど、ミリアは他人が悩んでいる時は占いで解決するのに、自分が悩んだときは占わないの?」
(そういえばそうね。この前、剣術の授業の時に占ったみたいに解決方法を探ってみたら?)
(出来ないの)
(え?なんで?)
(占いは、直感でカードを引き当てて解決法を探るんだけど、思い入れの強い事柄を占うと自身の願望が反映されて自分に都合のいい結果を引き当ててしまって、本来の解決法が見えなくなるの……)
(なら、私がミリアを占ってあげる。それなら、大丈夫じゃない?私はアルトを信じていないし、アルトへの思い入れも無いから、正確に占えると思うよ)
(でも、姉さん。占いのやり方分かるの?)
(大丈夫、魔法の基礎は覚えたし、ミリアの占い魔法も何回も見てる。だから、出来るよ)
(なら、お願い……。私はどうしたら嫉妬しなくなる?)
「マリア。ありがとう。ミリアの心の問題、私が解決できそう。ちょっとだけ待ってね」
「分かった。待ってる」
セリアは、ミリアがいつもやっているように懐からタロットカードを取り出して、カードに魔力を込め、知りたいことを念じた。セリアの体から黒い魔力が立ち上り、カードがセリアの手から浮き上がり、球形を描いてシャッフルした後で、セリアを中心に一列の円形になり、回転を始めた。
そして、一枚のカードがセリアの眼前に現れた。そして、セリアはイメージを見た。それは、ミリアが可愛らしくアルトをポカポカと殴りながら文句を言っているイメージだった。
「1番、魔術師、逆位置、コミュニケーション不足、ミリアがすべき事はアルトとの会話」
(アルトとの会話?マリアとじゃなくて?)
(そうみたいね。アルトに気持ちをぶつけるしかなさそう。ミリアもイメージを見たでしょう?)
(え?見えなかった。姉さんは何を見たの?)
(ミリアがアルトを殴りながら文句を言ってる姿だった)
(そんな事したらアルトに嫌われるじゃない!)
(アルトにぶつける事が出来ないから、マリアに当たるの?)
(う……)
(さあ、観念して嫉妬の原因を作ったアルトに思いっきり甘えてきなさい。それで、ミリアを嫌いになるようなら、そこまでの男よ)
「マリア。今までごめんなさい。私、アルトと話してくる」
「行ってらっしゃい」
(ああ、やっぱりミリアが私を無視した原因って嫉妬だったんだ……。気をつけよう)