犯人捜し
読み方
「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
「君の差し金じゃないよね?」
ヒイロは人気のない校舎裏で、ユリアに質問していた。
「なんの事かしら?」
ユリアはとぼけてみせた。
「姉さんに暗殺者を差し向けたのか聞いている」
(もし、そうだったならアウグスタ家を潰す)
「そんなわけないじゃない。私もお父様も自ら墓穴を掘る趣味は無くてよ?」
「姉さんが居なくなれば君たちの権力は増すだろう」
「それは、そうだけどデメリットの方が大きいわ。気に入らない政敵を暗殺したなんて知れたら、お家断絶よ?そんなリスクを冒してまでアルト様との結婚を推し進める理由は無いわ。今でも、十分な権力を持っているんですもの」
「なるほど、それは信じても良い。だが、暗殺者を差し向けた貴族が誰なのか心当たりがあるんじゃないか?」
「いいえ、全く心当たりはないわね」
ユリアは、そう断言した。
「分かった。信じるよ」
「それで、アルト様とミリアの仲を裂く作戦は何か妙案がありまして?」
「面白い情報がある。姉さんはアルトを信じたい気持と信じられない気持ちが半々らしい」
(魂の分裂や二重人格って説明するとややこしいし、ユリアにはこの程度でもやるべきことは伝わるはず)
「なるほど、良い事を聞いたわ」
(さて、誰かをアルト様に近づかせて嫉妬心を煽る方が良いか、それとも今ある材料で手を汚さずにミリアを疑心暗鬼に陥れるか、どちらが効果的かしら?)
ユリアはヒイロの言いたいことを理解し、策を考えていた。
「それと、マリアにちょっかいを出すのをやめてくれないか?」
「あら?なぜかしら?」
「君がマリアにちょっかいを出したせいで、僕がマリアの護衛をしなければならなくなった。このままではアルトと姉さんの仲を裂くための時間が取れなくなる」
「ふ~ん。そんな事になっているのね~。まあ良いわ、あなたが自由に動けないのは私も困る。だから、マリアにちょっかい出すのは止めてあげるけど、一芝居打たないとマリアから離れる口実が作れないのではなくて?」
「その通りだよ。だから、協力してくれ」
「良いわよ。じゃあ、適当なタイミングであなたとマリアにちょっかい出して上げるから、適当に追い払ってね」
「分かった」
「マリア、ちょっと良いかしら?」
ユリアが教室でマリアに声をかけた。
(ええ~。また、ユリア様が絡んできた~~~~~~)
マリアは涙目になりながら、怯えていた。
「彼女に何か用か?」
ユリアとマリアの間にヒイロが割って入る。
「はぁ~~~、今度はあなたが邪魔するのね……。姉弟そろって迷惑だわ」
「彼女に手を出すな」
「はいはい、分かりました。金輪際手を出しませんわ」
ユリアは面倒くさいとばかりにため息をついて教室を出て行った。
「あの、ヒイロ様。ありがとうございます」
「良いんだよ。姉さんからの頼みだしね」
ユリアは教室でミリアを見つつ考え事をしていた。
(魔族の暗殺者に狙われるなんて、何をしたのかしら?犯人に心当たりはあるけど、あの人が何故ミリアの命を狙っているのか分からないわ。あの人にとって権力闘争なんて意味のない事なのに……。まあ、良いわ。ミリアの弱点も分かったし、早速仕掛けるか、とりあえず噂を流すだけで良さそうね。マリアって子、面白い事してるみたいだし)
ユリアは邪悪な笑みを浮かべつつ、ミリアがどんな反応をするのか楽しみにしていた。




