暗殺者1
読み方
「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
ミリアは午後の授業に備えて準備をしていた。
(今週は、魔法の授業に出るの?)
(そうね。占いの結果、闇属性は魔法の訓練が良いって出たからね。それで、相談なんだけど、私、魔法を使ってみたかったのよね。授業は私が受けても良い?ミリアは基礎は出来てるんでしょ?占魔法使ってるぐらいだし)
(いや、姉さんも私の記憶共有してたんだから魔法使えると思うんだけど……)
(魂が一緒だった時は、そうなんだけど、分裂しちゃったから実感がわかなくって……)
(分かった。じゃあ、基礎の授業は姉さんに任せる)
(ありがとう。ミリア)
魔法の授業は座学ではなく実技の授業だった。魔法をぶつけるための的が置いてあり、講師が魔力の扱いについて説明し、呪文は各自、教科書を見て覚えるという形式だった。
(なるほど、魔力を集中させて呪文を唱えると発動するのか……)
セリアは魔力の扱い方のレクチャーを受けた後で、的に向かって右手を差し出し、左手に持った教科書を見つつ呪文を唱えた。
<深みへいざなえ闇の精霊、我が敵を打ち抜け!ダークネス・アロー>
セリアのかざした右手に漆黒の魔方陣が浮かび上がり、その魔方陣から漆黒の矢が放たれ的を射た。だが、的には傷がつかなかった。
(あれ?失敗?)
(違うわよ。姉さん。闇属性の魔法は精神を削る効果がメインなの、だから物理的に破壊する魔法を使わないと効果があるかどうか分からないのよ)
(ふ~ん。人間に試したらダメ?)
(ダメよ!最悪の場合、受けた人間は廃人になるのよ?)
(そっか~。ゴンザレスに試そうと思ったけど、やめとく)
(姉さん。ゴンザレスを人間だと思ってないわね……)
(いや~。最初の出会いがアレだったからね~)
(でも、ダメよ。アルト様にはエルデラン公の協力が必要なんだから)
(分かってますよ~)
心の中でミリアと会話している時に、セリアは何かを感じてとっさに身を低くした。次の瞬間、何もない空間から小さな少女が姿を現した。右手には短剣を持ち、身を屈める前にセリアの首があった場所を切り裂いていた。
「え?なに?」
少女は人間ではなかった。額に1本の大きな角が生えていた。
(完全な不意打ちを避けるなんて!これが、ご主人様が言っていた魔女の力……)
「死ね『破滅をもたらす魔女』め!」
そう言って少女は再度、短剣を振るった。セリアは後退して攻撃を避けた。
(魔女?なんのこと?ってか逃げないと不味いか……。アランはマリアに貸しちゃったしな~。とりあえず剣術の訓練場まで走るしかないか)
セリアは、少女に背を向けて全力で逃げ出した。
(服装、シャツとズボンにしてて良かった~。スカートだと絶対こけてたわ)
(やはり、逃げるか……。こちらも退くか?それとも追うか?あの『ゼファールの死神』が居ない千載一遇の好機、命を懸ける価値はあるか……)
「きゃ~~~。魔族よ!魔族が居るわ!」
セリアの背後で女生徒が悲鳴を上げた。
セリアが全力で走って逃げると、少女は真っすぐにセリアを追いかけた。学園内の廊下はとても広かった。だから、人が居てもセリアは人を避けて走ることができた。しかし、少女は徐々にセリアとの差を縮めていた。
(あと、一歩で、その首を……)
少女の短剣が、セリアの首に届きそうになったその時、セリアと少女の間にヒイロが割って入った。
「姉さん!敵か?」
ヒイロの問いにセリアが答える前に、少女はヒイロの首を狙って短剣を振るった。ヒイロは屈んで短剣を避けると同時に右拳を少女の腹部に突き出した。だが、少女は体を捻って拳を避け、ヒイロの右肩を左手で掴み、そのまま飛び上がって右肩を支点に前転し、ヒイロを飛び越えてセリアを追いかけた。
(ゼファール家の養子か……。取るに足らない相手だな、無視して魔女を追うか)
「逃がすか!」
「ヒイロ!無理はしないで!」
(無理して死なれたらアルティメットエンドにたどりつけなくなる)
セリアは、予定外のイベントで主要メンバーの誰かが死ぬことを恐れた。
(姉さんのピンチに『はいそうですか』と、引き下がるわけがないだろう!)
<吹き荒れろ風の精霊、我が敵を打て!ウインド・バレット>
圧縮された空気の弾丸が、少女に向かって放たれた。弾丸は少女に命中したが、少女は痛みを感じる素振りもみせずにセリアを追い続けた。
(クソ、なんなんだあいつは、痛みを感じてないのか?)
ヒイロは少女を止めようと、少女を追いかけながら拳と魔法で攻撃を繰り出すが、ことごとく避けられたが、セリアに追いつくのは阻害出来た。しかし、最終的には少女を打倒さなければならなかった。
そこへ、アルトが追いついた。セリアはアルトを無視して横を素通りして剣の訓練場に全力疾走した。アルトは即座に状況を把握し、腰に佩いている聖剣『陽光』を抜き放ち、短剣を持ってセリアを追いかけている少女へ大上段からの一撃を放つが、少女は難なく避けてセリアを追った。
(次から次へと面倒な!)
少女は苛立ちながらもミリアを追った。
「アルト様!捕縛の魔法を!」
「分かった」
<輝き導け光の精霊、我が敵を捕縛せよ!ホーリー・チェイン>
光り輝く鎖が出現し、少女をからめとったかに見えた。
<深みへいざなえ闇の精霊、我を包み守れ!ダークネス・クロス>
少女が闇の衣をまとうと、光の鎖が消滅した。
「ダメか」
アルトもヒイロと同じく少女の後を追いかけつつ、攻撃を繰り出すがことごとく避けられた。
セリアの目の前に剣術の訓練場の扉が見えてきた。そして、扉は閉まっていた。
(ヤバッ!このままじゃ追いつかれる)
セリアは、背中に迫る足音から、扉を開けている時間は無いと思った。
(アハ、運は私に味方してくれた。これで、魔女を殺す事が出来る。その後で死ねるなら本望だ。あの方に恩返しが出来て死ねるのだから、アハハッ)
少女は心から歓喜し、邪悪な笑みを浮かべた。
(不味い、このままではミリアが捕まってしまう)
アルトは扉の前でセリアが止まれば、少女の攻撃を受けることになると思った。
(クソ!このままじゃ姉さんが……)
ヒイロもアルトと同じくミリアがピンチだと思った。だから、二人は同時に魔法を放った。
<輝き導け光の精霊、我が敵を撃て!ライト・バレット>
<吹き荒れろ風の精霊、我が敵を打て!ウインド・バレット>
光と風の弾丸が、訓練場の扉を破壊した。
(アルト、ヒイロ、グッジョブ!)
セリアは、心の中で感謝して訓練場に飛び込んだ。
「もうダメ、無理~~~~」
訓練場にたどりついた時、セリアは息切れを起こして、スピードが落ちた。体力の限界だった。