お茶会 クルルとエース
読み方
「」普通の会話
()心の声、システムメッセージ
『』キーワード
<>呪文
「エース様~。ご入学おめでとうございます」
「ありがとう。クルル。来年は君も入学する歳だね」
「はい、クルルはエース様とご一緒にお勉強できるのを心待ちにしております」
「いや、クルル。それは無理だよ。学年が違うし、君は魔法も学ばないだろう?」
「そうなんですか?でも、クルルもお姉さまの為に魔法を習うんですよ」
「そうなのか?私だけじゃなく、君の力も必要としているのか?」
(いや、それはない。ミリア様はクルルの性格を知っている。とても戦闘など出来ない。なら、これはクルルが勝手にそう思っているだけ……。なら、話を合わせておくか)
「はい!お姉さまは、クルルも迷宮に連れて行ってくれるって約束しました」
「そうか、なら魔法の授業で一緒になるかもしれないね」
「その時は、エース様がクルルに魔法を教えてくださいね」
「良いよ」
「約束ですよ」
「分かった、約束する」
「じゃあ、今日は魔法と魔力の関係についてお話してくれませんか?」
「またかい?」
「はい」
クルルは無邪気に笑っていた。
「同じ話を何回もしてきたけど、まだ飽きないのか?」
「全然飽きません」
「なぜ?」
「だって、エース様がとってもカッコいいから」
クルルは顔を赤らめて嬉しそうにエースを見ていた。
「しょうがないな」
エースはクルルと幼馴染だった。そして、クルルは頭が悪かった。物覚えは悪いし、14歳だというのに心はまだ5歳児ぐらいのままだった。
エースが10歳の時、クルルと出会った。その時からエースはクルルの異常に気が付いていた。エースが12歳になった時、クルルを一生守ると誓った。だから、ミリアがアルトと婚約した後で、エースはクルルに婚約を申し込んだ。理由は、とても単純だった。
純粋で優しいだけのクルルを守りたい。ただ、それだけだった。
~~~~回想 エース10歳の時 春の花見会にて~~~~
王家が主催する春の花見会、そこには有力貴族が家族ずれで招待されていた。貴族同士の親睦を深めるのが目的だった。大人たちは大人たちで子供たちは子供たちでそれぞれ自由に花と料理を楽しみながら交流を深めていた。
エースは一人木陰で本を読んでいた。本のタイトルは『魔法と魔力の関係について』だった。本を読みつつ、エースは貴族の子供たちを観察していた。
(バカばっかりだな……。自分の親の爵位は何だとか、服はどこの仕立て屋で買ったとか、剣はどこの刀匠に頼んだとか、自慢話ばかり、僕と会話のレベルが合いそうなやつは居ないな……)
エースは子供たちの会話をくだらないと思っていた。権力と財力の自慢話、そうして誰が誰と仲良くするか、将来の派閥抗争を子供時代からやっていた。
そんな中、一人会話についていけていない子供が居た。緑色の髪、緑色の瞳の可愛らしい女の子だった。エースはその子を知っていた。ゼファール家の次女、クルルだった。赤髪赤目の少年、フラム・アプリルがクルルに話しかけていた。
「俺はフラム・アプリル。侯爵家の跡取りだ。君の名前は?」
「クルルはクルルだよ?」
「はぁ?まともな挨拶も出来ないのかよ?」
「なにかおかしいの?」
「家名を言ってないし、爵位も言ってないじゃないか」
「えっと、家名はゼファールで、爵位は……。忘れちゃった」
クルルは無邪気に笑いながら答えた。
「馬鹿なのか?そんな年になって自分の爵位も言えないなんて……」
「だって、難しいもん」
クルルはあっけらかんと答えた。
「あはは、こいつ自分で馬鹿だって認めやがった。お~い、みんな~、ここに馬鹿が居るぞ~」
(こいつ馬鹿だ。イジメて泣かしてやろう)
フラムは最低な性格をしていた。
(はあ、バカばっかりだな……)
様子を見ていたエースは、フラムの低俗な振る舞いに腹が立ち、本を閉じて立ち上がり、フラムとクルルとの間に立った。
「おい、何だよ?文句でもあるのか?」
「ああ、あるとも、バカはお前の方だ」
「何だと?」
「お前が馬鹿にしたこの子は、クルル・ゼファール様で、公爵家の令嬢だ。そんなことも知らずに馬鹿にしていたから、ワザワザ忠告に来てやったんだ。感謝しろ」
「なんだと?そういうお前は何様だ?」
「僕はエース・ミラージュ。一流の貴族なら家名が分かれば爵位は当然分かるだろ?」
「はあ、分かるわけないだろ?お前は全ての家名と爵位を知ってるっていうのかよ?」
「当然だろ、それが分からないなんて馬鹿すぎて話にならないな」
「言ったな!なら、これから家名を上げるから爵位を言ってみろよ」
「ああ、良いとも」
「おい、みんな、こいつが家名を言えば爵位を当てると言ってるぞ!本当かどうか確かめたい、協力してくれ!」
「面白そうなことをしているのね。良いわ協力してあげる。私はユリア・アウグスタですわ」
「アウグスタ家は公爵でしたね」
「当たっているわ」
「なら、次は私、フレイア・ビスマルクよ」
「ビスマルク家は公爵ですね。お父上は宰相閣下でしたね」
「すごい!正解よ」
「では、次は僕を当ててください。ロイ・クルセイドです」
「クルセイド家は男爵ですね」
「正解です」
「ふふ、すごい記憶力ですね~。僕はアリエル・フォルセティだ」
「男爵ですね」
「正解!」
フラムは、周りの子供たちに協力を仰ぎ、エースの化けの皮を剝がそうとした。だが、エースは言葉通りに全ての爵位を当ててみせた。
「自分が馬鹿だと認識できたか?」
エースはメガネの位置を直しつつ、冷たくフラムに言い放った。
「うるさい!うるさい!俺は、侯爵家の跡取りだぞ!魔法だって使えるんだ!お前なんかに負けるもんか!」
フラムはそう言って右手を突き出し、エースに向けた。エースは左手を突き出した。
<燃え盛れ火の精霊!我が敵を焼き尽くせ!ファイヤー・バレット>
フラムが呪文を唱えて魔法を放った。無数の炎の弾丸がエースに向かって放たれた。
<従え土の精霊、我が盾となれ!ストーン・ウォール>
フラムとエースの間に、石の壁が出現し、炎の弾丸を全て防いだ。
<従え土の精霊、我が敵を打ち砕け!ストーン・バレット>
エースの左手の先に石の塊が出現し、石の壁を迂回してフラムの腹部に命中した。
「うげぇ」
フラムはお腹を抱えてその場に崩れ落ちた。そして、石の壁と石の塊は消滅した。
「これで、理解できたな?お前は馬鹿で弱い。分かったらクルル様に謝罪しろ」
「う、クソ、覚えてろ!」
フラムは謝ることなく捨て台詞を吐いて逃げようとした。
「私は覚えていますけど、君はすぐ忘れるでしょうね」
「絶対!忘れないからな~!」
エースの反撃に最後の言葉を残してフラムは逃げて行った。
「あの、ありがとうございます」
「いいえ、ですが、クルル様もご自分の爵位は覚えた方が良いと思いますよ」
エースは自分が伯爵家でクルルが上位の公爵家だと知っていた。ゆえに、下位の者としてクルルに接していた。
「でも、クルルは馬鹿だから」
クルルは笑顔でエースに答えた。
「馬鹿にされて悔しくないのですか?」
馬鹿にされても笑顔でいるクルルをエースは不思議に思った。
「だって、事実なんですもの、それにお母様が言ったの。クルルは馬鹿のままでいいって」
「なんでですか?」
「クルルが弱くて馬鹿だから、他の誰よりも優しい人間になれるって教えてくれたの。そして、そういう人間には最強の騎士が付いて守ってくれるから大丈夫だって教えてくれた。だから、クルルは弱くて馬鹿でも良いの」
クルルは嬉しそうに語った。
「弱くて馬鹿な存在を最強の騎士が守る理由が無いと思うのですが?」
エースはクルルを否定しようとした。弱くて馬鹿なままでいい訳がない。強くて賢くなければ生きていけないと思っていた。
「エース様は守ってくれましたよ?」
(ああ、そうだった。僕はうかつにもクルル様を守ってしまった)
「僕はクルル様を守ったのではありません。フラムの態度に腹が立ったから行動を起こしたのであってクルル様を守ったのは結果でしかない」
「クルル。難しい事は分からない。クルルに分かるのはエース様が守ってくれたって事だけです」
そう言って、クルルはエースに笑顔を向けた。
(はぁ~。仕方ない。一度、守ってしまったんだ。彼女が困っていたら、それとなく助けてあげるか……)
「ねぇ、エース様。持っているその本は?」
「ああ、これは『魔法と魔力の関係について』という本だよ」
「どんな内容なんですか?」
「ああ、魔力には属性があって……」
「すごい。難しい内容を理解されてるんですね。カッコいい」
「いや、僕は知っていることを言っただけだよ。勉強すれば誰でも分かる事だ」
「それでも、尊敬します。クルルには出来ない事だから……」
そう言ってクルルは尊敬の眼差しをエースに向けた。
(普通は、僕の言ったことを嫌みと受け取るんだがな……。変わった子だ)
この日から、エースとクルルは互いをかけがえのない存在だと意識するようになった。
~~~~回想 終了~~~~




