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入学式2

読み方

「」普通の会話

()心の声

『』キーワード

<>呪文

「どうして、友達になってくれないの?」

「え?普通に身分が違い過ぎます。恐れ多くて友達なんて無理です」


 ミリアは身分の差を忘れていた訳ではない。それでも、自分から声をかければ何とかなると思っていた。しかし、甘かった階級社会の壁は思ったよりも厚かったのだ。ミリアは何としてもマリアとの親密度を上げる必要があった。そうしなければ幽閉か処刑の運命が待っているからだ。


「どうしたら、私と友達になってくれるの?」

「どうか、お許しください。私の様な平民には、あなたは眩しすぎます……」


 マリアは自分の身なりを恥じていた。目の前のミリアは綺麗なドレスに身を包み宝石の付いた指輪とネックレスを身につけていた。とても自分が隣に並び立って良い相手では無いと感じていた。


 そんなマリアの想いをミリアも感じ取った。いまさらながら自分の服装を恨めしいと思った。そもそもミリアの母親とメイドのジェーンが入学式には貴族に相応しい服装が必要だと『私』に押し付けた服装だった。

 『私』自身はもっとカジュアルなワンピースにカーディガンといった服装で良いと思っていたのだ。だが、貴族のメンツがあるという事で押し切られてしまった。


「分かった。今は諦める。でも、私があなたと友達になりたいと想っている事だけは忘れないで欲しい」

「分かりました。忘れません」


 そう言ってマリアはミリアの元を去っていった。ミリアの計画は最初から頓挫してしまった。




 ミリアが失意のままに教室に戻るとアルトがうなだれたまま椅子に座っていた。教室の入り口がある前方には教壇があり、生徒が座る机は三人掛けで、それが三列並んでいた。アルトは一番後ろの5段目の席の窓際に座って負のオーラを発していた。


 ミリアが教室に入ると茶髪を三つ編みにした茶色い目をした落ち着いた雰囲気の女性が声をかけてきた。そばかすが目立つが整った顔立ちで眼鏡をかけていた。服は薄緑色のドレスで肩には黄色いショールをまとっていた。

 彼女の名前はフレイア・ビスマルク。宰相の娘にして、ミリアの親友の15歳の少女だった。身長は150センチと少し小さかった。どことなく、タンポポを連想させるような印象の少女だった。


「アルトと喧嘩したんだって?」

 フレイアはミリアにそう問いかけた。


「喧嘩じゃないわ。絶縁よ」

 ミリアは自分が思っている事を言った。


「何があったの?今までアルト様~。アルト様~って言ってたのに……」

 フレイアはミリアがアルトに冷たくする理由が分からなかった。12歳の時、アルトとの婚約が決まってからずっと、ミリアはアルトに心酔していた。それが、急にアルトに冷たくなった。その理由が知りたかった。


「単純な話よ。アルトの父と叔父は浮気者、アルトも浮気者に決まっているわ」

 ミリアは鬼の首を取ったかのように勝ち誇って言った。


「はぁ~。それが喧嘩の原因?なら、断言するわ。アルトは絶対に裏切らない。これは女の勘ってやつよ。さっさと仲直りしていつも通りラブラブしてなさいよ」

「残念ながら、その勘は外れるわ。私、知ってるもの……」


 フレイアはミリアの異常に気が付いた。ミリアは絶望していた。フレイアはそれに気が付いてしまった。それは、幼いころからの友達だから気付けた事だった。


「どうしたのよミリア。何でそんな悲しい顔をしているの?」

 『私』は自覚していなかった。それは『私』の記憶を知ったミリアの感情だった。そこからはミリアの言葉だった。


「私、知ってしまったの、アルトが私を選ばない事を……。他の人を好きになるって事を知ってしまったの。だから、だから……」

 『私』の意思を無視してミリアはフレイアに感情を涙と共に吐露してしまった。


 そんなミリアを見てフレイアはミリアが抱えている何かを知った。

「予言でも聞いたの?」

「それに近い」

「なら、そんな未来ぶっ壊しましょう」

「そんな簡単に出来る訳ないじゃない」

「ああ、もうどうしちゃったのよ。ミリアは唯一アルトの心を掴んだ女なんだよ。なに自信無くしてんのよ?どんな美女が求婚しても拒絶したアルトの心を射止めた唯一の女がミリアなの、何度も私に自慢したでしょ?」

 フレイアは正しい。この時点ではミリアはアルトの心を完全に虜にしていた。だが、マリアの出現によって、ミリアは自信を失っていく。そして犯罪に手を染めて見捨てられるのだ。


「無理だよ。私は弱いの……」

「なんで、そんなに自信を失っているか分からないけど、私に協力出来る事があったら言ってね。私はいつでもミリアの味方だから」


 そう言ってフレイアはミリアの頭を抱いた。ミリアはフレイアが親友で良かったと思った。だから、お願いをする。


「なら、お願いがあるの」

「なに?」

「マリアって平民と友達になりたい」

「マリアって光の魔力を持つって言う平民よね?」

「そう」

「なんで友達になりたいの?面倒な事しか起きないと思うんだけど?」


 フレイアの言う事は正しかった。貴族が平民と対等な関係を築くのは難しい。だが、ミリアはマリアと仲良くしないと不幸になるのだ。


「彼女が学年主席を狙える逸材だとして、仲良くなりたいと思うのは不自然?」

「それも予言?」

「だとしたら?」

「本当にそうなるのなら友達になるべきだ」

「だから、協力して」

「いいよ。それでアルトとミリアが元通りになるのならね」

「元通りには成らないかもしれないけど、少なくとも私は不幸にならない」

「まあ、アルトとの仲は置いておいて、マリアと仲良くしたいのなら悪者になるのが近道ね」

「悪者?」

「権力を振りかざすしかないって事よ」


 フレイアの提案で『私』はやるべきことが分かった。


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