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お茶会1

読み方

「」普通の会話

()心の声、システムメッセージ

『』キーワード

<>呪文


 マリアが誰との親密度を上げて、誰との親密度を下げたのか、それはミリアとセリアにとってとても大切な情報だった。

 皆がハッピーになれるアルティメットエンドを迎えるには全員の親密度を上げる必要がある為、親密度が上がっていない攻略対象とマリアが仲良くなるように、セリアは裏から工作するつもりだった。


 その情報源である新聞がセリアの活躍で役立たずになってしまった。なので、別の方法で親密度を強制的に上げることにした。


 ちなみに、マリアがヒイロと結ばれるハッピーエンドでもミリアは幸せになれるが、選ぶのがマリアなので、ミリアとしては、確実に皆が幸せになれるアルティメットエンドを目指すしかなかった。




「ねぇ、マリアさん。今週の闇曜日なんだけど、お茶会に来てくれないかしら?」

 ミリアは、平民の教室でマリアに話しかけていた。

「あの、ミリア様。困ります……」


「どうして?」

「前もお話いたしましたけど身分が違いすぎます。私など放っておいてください」

「それは出来ない相談ね。公爵令嬢である私の誘いを断るなんて、それこそ不敬よ」

「そんな……」

 これがミリアの作戦だった。友達になれないと言うのであれば貴族の立場を利用して無理やり仲良くなればいい。やっていることは悪役令嬢そのものだが、背に腹は代えられない。何としてもマリアと仲良くなり、マリアが誰を狙っているのか聞き出すしかなかった。


「闇曜日の朝、あなたの住んでいる家に迎えの馬車を送ります。必ず来てくださいね。来なかったら分かりますよね?」

 ミリアは、嘘をつくときのクセで漆黒の扇子で口元を隠していた。元々マリアに危害を加えるつもりはなかった。だが、口元を隠したせいでミリアの切れ長の鋭い目しか見えなくなった為、マリアにはミリアが平民をいたぶる邪悪な貴族に見えた。


(なんて恐ろしい顔でにらむの。逆らったらきっと私だけじゃなくお父さんやお母さんも処刑されてしまう。お茶会に出るのも怖いけど、出なければ死ぬのなら従うしかない……)

「分かりました」

 マリアはミリアに逆らうことが出来ずに承諾した。


「闇曜日、楽しみにしてるわね」

 ミリアは上機嫌で教室を去った。


(これで良いのよね?セリア姉さん)

(ええ、これでマリアの動向が分からなくても問題ないわ)


 お茶会はゲーム内でマリアと攻略対象の親密度が一定以上になると選べるコマンドだった。効果は、攻略対象とライバル両方の親密度を上げるという効果があった。アルティメットエンドを目指す場合、序盤から全攻略対象との親密度を上げてお茶会をしまくる必要があるのだ。

 セリアは、親密度を上げるという手順を吹っ飛ばしてマリアと強制的にお茶会を開き、強制的に全攻略対象とライバルたちの親密度を上げるという強硬手段にでた。


(ゲームでは出来ないけど、私がセリアだから出来る事、そもそもアルティメットエンドを迎える条件が厳しすぎるんだし、これ位のアドバンテージはもらわないとやってられないわ)




 闇曜日となり、マリアの家の前にミリアが寄越した馬車が止まった。家の玄関にはマリアとマリアの両親、それに弟と妹たちがマリアを見送っていた。

「お父さん。お母さん。行ってきます」

「マリア。ああ、マリア。どうしてこんなことに……」

 マリアの父はマリアを抱きしめて泣いていた。

「マリア。マリア。愛しているわ……」

 マリアの母もマリアを抱きしめて泣いていた。

「お姉ちゃん。帰ってくる?帰ってくるよね?」

 弟と妹たちもマリアの腰にまとわりついていた。その光景は、貴族に召し上げられる姉を見送るようだった。


「今生の別れの様な挨拶の途中に訳ありませんが、当家のお嬢様ミリア様はマリアさんとの友情をご所望です。死ぬことはありませんのでご心配なさらずに」

 炎のような赤い髪と赤い目をした端正な顔立ちのメイドが物静かにマリアたちに話しかけた。身長は160センチ、服は黒のメイド服を着ていた。その姿は燃え盛る炎を連想させる美しさがあった。メイドは馬車から降りてマリアたちを見ていた。


「ですが、なにか粗相をしたならどうなるか……」

 マリアの父は知っていた。貴族に呼ばれた者がどうなるかを……。大抵は行方不明となるのだ。平民に人権は無かったのだ。それは平民の共通認識だった。


「ミリアお嬢様は、そんな方ではありません。使用人である私にも良くしてくださりますから」

 そう言ってメイドは笑顔を作った。


(この人は嘘を言っていない。そんな気がする……)

 マリアはメイドの事を信じようと思った。そして、家族の顔を見た。両親も弟も妹たちもメイドの言葉を信じたようだ。顔からは不安が消えていた。

「私、行ってくるね」

「気をつけてな」「気をつけるんだよ」「お姉ちゃん行ってらっしゃい」

 挨拶を済ますとマリアは馬車に向かった。


「あの、貴方の名前は?」

「私は、ジェーン・ドゥと申します」

「私はマリア。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ」




 馬車に乗ると、ジェーンがマリアに話しかけた。

「どうか、気を悪くしないでくださいね」

「え?」

「お屋敷に着きましたら、湯浴みとお着替えをしていただきます」

「やっぱり、みすぼらしいですか?」

 マリアは、入学式に着ていた服でお茶会に参加するつもりだった。だが、ミリアの服に比べるとみすぼらしく見えてしまうのだ。


「失礼ながら、本日のお茶会にはアルト様の妹君、アンネ様もいらっしゃいますので、それなりの服を着ていただく必要があるのです」

「分かりました。けど、アンネ様って、どんな方なんですか?」

「そうですね。何を考えているのか分からない方です」

「そうですか、機嫌を損ねないように気をつけます」


「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。アンネ様のお気に入りに手を出さなければ大丈夫ですから」

「お気に入り?」

「ええ、見ていればすぐに分かります。とっても可愛いんですよ」

「えっと、動物か何かですか?」

「いいえ、騎士団長の御子息ジーク・フリード様です。彼にちょっかいを出さなければアンネ様の機嫌を損ねることはありませんから」

「分かりました」


「それで、服を着替えるにあたって体のサイズを測りますけどよろしいですか?」

「あ、はい」




 屋敷に着くと、ミリアがマリアを出迎えた。

「来てくれてありがとう」

 そう言って、ミリアは馬車から降りたばかりのマリアの手を取って嬉しそうに笑った。

「あの、ミリア様。ご招待いただきとても光栄なのですが、どうして私なんですか?」

「私はあなたが優秀なのを知っている。だから、今のうちに友達になりたいの」

「それが、理由になんですか?」

「そうよ」


「やっぱり、分かりません。優秀な方なら他にも居ます。私じゃなきゃダメな理由になっていません」

「分かった。もっと簡単にしてあげる。私はあなたを気に入ったのよ。理由なんてない。単純にあなたと友達になりたいと思った。それじゃダメ?」

「分かりました。身分不相応ですが、謹んでお受けいたします」

「そんなに、畏まらなくても良いわ。私はあなたと友達になったのだから」

 ミリアの心底嬉しそうな顔を見て、マリアは少しだけミリアのいう事を信じることにした。

「はい」


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