スクープ
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翌日、学園に行くと、アルトに呼び出された。場所は学園の応接室だった。王国の学園に相応しく美しい絵画や調度品が飾られた部屋だった。
部屋の真ん中に大理石のテーブルが置いてあり、それを挟むようにソファーが置いてあった。
ソファーの右側にはアルトが座っていた。向かい側の席には貴族然とした中年男性が立っていた。身長は170センチメートルで贅肉の無い体をしていた。
「お初にお目にかかります。ゼクト・エルデランと申します。昨日は当家の家臣ゴンザレス・ポーンが大変失礼いたしました」
そう言って、ゼクトは深々と礼をした。
「初めまして、ミリア・ゼファールと申します。昨日の件は私にも非はあります。どうか、面を上げてください」
ミリアは昨日、ゴンザレスの股間を蹴り上げたことを後悔していた。言われた言葉は下品だったが、先に手を出したのはミリアだった。正確にはセリアが蹴り上げたのだが、蹴られた方にはどちらでも同じなので、その事は言わなかった。
「エルデラン公もミリアも一旦座ってくれ」
アルトは二人に座るように促した。
全員がソファーに腰を下ろすとエルデラン公が口を開いた。
「ゴンザレスのしたことは極刑に値します。そうされても仕方がないと思います。ですが、私は彼の実力を見込んで家臣としました。そして、彼はまだ若い。学園で騎士道を学べば立派な騎士になると思い入学させました。どうか、寛大な処置をお願いいたします」
そう言って、エルデラン公は深々と頭を下げた。
「私も極刑にするつもりはありません。ですが、今回の様な行いを改めるよう公爵殿からゴンザレスに言って頂けませんか?」
「畏まりました。それで、許して頂けるのなら、きちんと言って聞かせます。ミリア様もそれでよろしいのですか?」
「それで、構いません」
(本当にいいの?ミリア。あんなセクハラ野郎死んだ方が良いと思うけど?)
(私は姉さんほど怒ってないよ。それに、彼が粗野に育ったのは環境のせいだと思うし、更生して立派な騎士になるのなら許しても良いと思ってる)
(そう、なら何も言わない)
「本当にありがとうございます」
エルデラン公は再度、深々と頭を下げた。
「時間を取らせてごめん。でも、ミリアにも立ち会ってほしかったんだ」
エルデラン公が応接室を出た後で、アルトはミリアにそう言った。
「理由は分かっています。エルデラン公を庇ったのですよね?」
「なんだ、分かっていたのか」
「もちろんです。私は公爵令嬢で、あなたの婚約者なんですよ。宮廷内の権力闘争も理解しています」
(え?そうなの?)
(姉さんにも、記憶があるはずだけど、魂が分かれて記憶も失った?)
(あ、何となく派閥に関する知識があるわ)
(しっかりしてよね)
(ごめんごめん)
「心強いよ。ありがとうミリア。君が婚約者で良かった」
「私を選んでくださってありがとうございます。アルト様」
アルトとミリアはお互いを見つめあい近づき手と手を取っていた。そう、もう少し近づけばキスが出来る距離だった。
「はい、そこまで!甘い空気を出さない!」
セリアが、その空気に耐えきれずミリアの体を強引に乗っ取り真顔で発言した。
(姉さん!邪魔しないで!というか勝手に体を動かさないで!)
「君は、とことん邪魔して来るね~」
アルトは、少し残念に思いながらも怒るでもなく仕方ないといった仕草でそう言った。
「当然です!私はミリアのお姉さんなんだから、妹を裏切る婚約者なんて信じません!」
「お姉さん?」
「そうよ。私はミリアの双子の姉セリア。以後、ミリアにいかがわしい事しようとしたら邪魔するのでよろしく」
「ふ~ん。昨日、何か分かったんだね?」
「そうよ。お母様に会って色々教えてもらったのよ」
「詳しく、聞かせてもらえるかな?」
「それは、私からお話します」
(ちょっとミリア。話をするのは良いけど、アルトと仲良くしすぎないで)
(分かったから、体を勝手に動かさないで)
(は~い)
「なるほど、ずいぶん複雑な運命になっていたんだね」
「はい、ですから、私とアルト様が結ばれるためには幾多の試練を乗り越えねばならないのです」
「分かった。その試練を必ず乗り越えるよ」
「はい。信じております」
アルトとミリアは再び見つめあっていた。
(ミリア……)
(分かってるわ。姉さん)
「アルト様。授業が始まります。教室へ移動しましょう」
「ああ、そうだな」
午後になり、ミリアが訓練場に足を踏み入れるとゴンザレスが待っていた。ゴンザレスはミリアを見つけるなり、ミリアの元に駆け寄ってきた。そして、開口一番こう言った。
「姉御!昨日は大変失礼しやした。このゴンザレス!姉御に忠誠を誓いやす。どうぞ、何でも仰ってください」
(え?なに?なんなの急に?)
ミリアはゴンザレスの態度の変化に困惑していた。
(これは、あれだな、倒したモンスターが仲間になるイベントだ)
(姉さん。モンスターってひどすぎない?一応人間だよ?)
(いや、でも見た目はモンスターに近いじゃん?)
(ひどい、口に出したらダメだよ?)
(ハイハイ)
「ゴンザレスさん。昨日の事は、お互い水に流しましょう。ですが、あなたはエルデラン家の家臣でしょう?私に忠誠を誓ってはいけませんよ?」
エルデラン家は武家として名を馳せていた。ゴンザレスは粗暴で強く地元で魔物を討伐した実績を買われて公爵の家臣となっていた。だが、素行が悪いので学園で騎士道を学ばせるために入学していた。
「ですが、旦那から、ミリア様に謝罪するのと、普段の行いを改める事と、ミリア様の言う事を何でも聞くようにと言われたんでさあ」
「それは、忠誠を誓えという事ではありませんよ」
「それじゃあ、あっしはどうしたら良いんで?」
「とりあえず言葉遣いから勉強してください。そんな話し方では立派な騎士になれませんよ?」
「へえ、分かりやした」
(全く分かってねえなこいつ)
(姉さん。人は急には変われないものよ……)
そんなことがありつつも授業は滞りなく進んでいった。
水曜日になり新聞部の部室に顔を出した。目的は、マリアの今週の動向を探る為だった。
「やあ、ミリア譲、今週はご活躍だったみたいだね」
新聞部の部長、アリエルは机の上に腰かけ、足を組んだ状態で、赤い目をギラギラさせながらミリアに話しかけた。
「活躍?大したことはしてないけど?」
「またまたご謙遜を。貴族の令嬢で初めての剣術訓練参加と武名名高いエルデラン公爵家の家臣ゴンザレスの撃破、これを活躍と言わずしてなんと言うんでしょうね?」
アリエルは大仰に体を動かしながら、ミリアが成したことを言葉にした。
「そんな大げさな……」
「あらあら、当のご本人は事の重大さが分かってないようですね~。これは、来週が楽しみです。クフフ」
アリエルはとても楽しそうに笑った。
「それはいいから、来週の新聞記事見せて」
「仰せのままに」
そう言ってアリエルは執事の様にミリアにかしずき、推敲した新聞の原稿をミリアに渡した。ミリアは原稿に一通り目を通して愕然とした。
「ねえ、マリアについての記事が無いけどなんで?」
「マリアって光の魔力を持っている平民の新入生のことかい?」
「ええ」
「光の魔力を持っていること以外、記事にするような事は何も無かったよ。ミリア譲の方がよっぽど面白い事してるからね」
(え?姉さん?どういうこと?)
(待って、私も混乱している)
ミリアとセリアはマリアが誰の好感度を上げたのか知るために新聞から情報を集め対策を行おうとしていた。だが、ミリアとセリアが起こした行動のせいで、マリアが目立たなくなり、結果、マリアに関する記事が無くなっていた。
(どうしよう。これじゃあ、攻略情報なしにゲームを進めるようなもの……)
(大丈夫なの?姉さん)
(分からない……。マリア対策は今週末の作戦にかけるしかない)
「さあ、約束は果たしたよ。再来週の占いを頼むよ」
アリエルは新聞の発行部数が伸びる事だけが望みだった。
「分かりました」
ミリアは必要な情報を得られなかったが、原稿は読ませてもらったので、再来週の運勢占いを行った。