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ツインソウル1

読み方

「」普通の会話

()心の声

『』キーワード

<>呪文


「あいたたた。カイエン教官のしごき、半端なかったな~」

 『私』の言葉にアルトが答える。

「そりゃあ、君のせいだ。強いところを見せてしまったんだからね」

「なに、しれっと一緒に帰ろうとしてるのよ。私は信じないって言ったでしょ」


「でも、ミリアは信じてくれている。だから、一緒に帰ってもいいよね?ね、ミリア」

「はい、アルト様」

(ちょっと!ミリア!そいつを信じちゃダメだって)

 『私』はミリアに体の主導権を奪われた。アルトが差し出した手をミリアはとった。それはミリアとアルトの望んでいた事だった。『私』は二人の幸せそうな姿を見て、何も言えなくなった。


 アルトに送られてミリアが家に着き、アルトの姿が見えなくなるとアランが姿を現した。『私』は驚いてアランに話しかける。

「アラン、いつから姿を消していたの?」

 アランは護衛の時、常に姿を消して居る事を『私』は知っていた。そして、護衛の必要がなくなると姿を現すのだ。


「午後の授業からずっとですよ」

 アランの言葉を聞いて、『私』は文句を言いたくなった。

「なんで!ゴンザレスに絡まれた時、即座に対応しなかったの?」

 アランの言葉が本当なら、ゴンザレスに絡まれた時、アランは護衛をしなかった事になる。


「あの時は、アルト様が居られましたので、私が出る必要は無いと判断しました」

 アランは淡々と意見を言っていた。そこに感情は無い。ただ、事実だけを言っていた。『私』はミリアの記憶も持っていた。そして、ミリアはアランに命じていた。


~~~~回想 ミリア12歳の時 自宅中庭にて~~~~


「アルト様がいらっしゃる時は私を守らないでね」

「なぜですか?」

「アルト様は、私を守ると約束してくださいました。ですから、アルト様が居られるときは、アルト様に守られたいのです。分かりましたか?」

「はい、ミリア様」


~~~~回想 終了~~~~


 アランは、その約束を今でも守っているだけだった。

(アランが約束を守ったせいで、アルトとミリアの信頼関係が深まってしまった。ならば、この約束を反故にすれば……)

(させません)

 魂が分離してからは体の主導権をミリアが握っていた。『私』は勝手な事が出来なくなっていた。


 何も出来ないまま玄関から屋敷に入ると、そこにはミリアの母イリアが居た。

「おかえりなさ……」

 イリアはミリアを見て、信じられないものを見ていた。ミリアの中に二つの魂があった。今までは一つだった。だが、確実に二つに分かれていた。イリアには、それが見えた。


(ああ、なんていう事、あの子が居る。5歳で死んでしまったあの子が居る)


 イリアは涙を流していた。無理もない。それは死んだはずのミリアの双子の姉の魂だった。

「お母様、どうなさったんです?」

 ミリアはイリアが突然泣き出したので心配して聞いた。イリアはミリアに駆け寄り、優しく抱きしめて、こう言った。


「セリア、セリア。ごめんね。守ってあげられなくてごめんね」


 セリアという名前を聞いた時、『私』とミリアに、5歳の時の記憶が蘇った。殺意に満ちた赤い目、青白い肌、全身を覆う黒い布、そして、血だまりで仰向けに倒れて死んでいるミリアが居た。だが、『私』とミリアは、それがミリアではなくセリアだと知っていた。


(ああ、セリアお姉ちゃん……)

 ミリアは忘れていた記憶を思い出し、悲しみがあふれ出していた。『私』は突然体の主導権を得て、混乱していた。

(今の記憶は何?セリアってゲームには出てこなかった。それに、この感覚は……)


「お母さん……」


 『私』は何も理解できないまま、感情だけが暴走していた。前世の記憶ではなく、この世界での記憶があった。突然、涙が溢れて、訳も分からず泣いていた。




~~~~回想 ミリア5歳の時 自宅中庭にて~~~~


 暖かい春の日差しの中で、セリアとミリアが遊んでいた。黒いお揃いのワンピースを着て、中庭の花々を見て回っていた。黒い真っすぐな髪もお揃いのショートヘアだった。二人は合わせ鏡のようにそっくりだった。セリアとミリアを見分けられるのは母親のイリアだけだった。


「みてみて、ミリア。この赤い花、とっても綺麗ね」

「そうだね。セリア」


「あ、あっちには青い花が咲いているよ」

 セリアはミリアの手を引いて引っ張っていった。そんな二人をイリアが見守っていた。黒目黒髪の美女は、嬉しそうに二人を見つめていた。日焼けしないために日傘を差して微笑んでいた。


「あんまり、遠くに行ってはいけませんよ」


 イリアの優しい言葉にセリアが元気に返事をした。


「は~い。お母様~~」


 セリアとミリアは双子だが性格が正反対だった。セリアは活発で、ミリアは大人しかった。必然とセリアがミリアを連れ出す事が多かった。


 セリアとミリアが遊んでいるのは屋敷内の中庭だった。危険は無いはずだった。だが、イリアの側から離れて花を見に行ったセリアの前に黒い殺意が立ちふさがった。セリアはとっさにミリアの前に立ちふさがった。

(あぶない!ミリアを守らないと)


「ここは、お姉ちゃんに任せて逃げて!ミリア!」


 セリアの言葉を聞かずともミリアは逃げたかった。だが、足が動かなかった。そして、恐怖で声も出せなかった。


「許せとは言わない。恨んでもいい。だが、我があるじの未来の為に死んでもらう」


 黒い殺意は、短剣でセリアの胸を一突きした。吹き出す鮮血、仰向けに倒れるセリア。


「セリア?」


 何が起こったのか理解できないまま、ミリアにも凶刃が迫っていた。


(胸が熱い、力が抜ける。でも、ミリアはやらせない。私はお姉ちゃんなんだから)


 セリアの胸から1枚のカードが飛び出した。それは19番太陽のカードだった。そのカードは、セリアが気に入ってお守り代わりに持っていたものだった。

 カードには煌めく太陽と馬に跨った半裸の少年が描かれていた。カードから太陽が抜け出し黒い殺意を飲み込んだ。


(馬鹿な!これが子供の力だというのか!ああ主よ。あなたの命令は間違っていなかった……)


 黒い殺意はチリ一つ残さずに消滅した。ミリアはセリアに駆け寄り手を取った。その時、すでにセリアは死んでいた。

「嫌だ。セリア。行かないで」

 ミリアは死を理解していなかった。だが、なんとなく会えなくなると理解していた。


(分かった。ずっと側にいるね)

 セリアの魂はミリアを見ていた。そして、ミリアの願いを聞いて、セリアの魂はミリアと融合した。


~~~~回想 終了~~~~




 ひとしきり泣いて、イリアも『私』もミリアも落ち着いた。周りで見ていたメイドたちは意味が分からずオロオロしていた。


「私はセリアだった」

「セリアお姉ちゃん?」

 セリアとミリアは心の中ではなく互いに言葉に出して確認した。

「そうよ。ミリア。あなたの中にあるのは幼いころに亡くなったセリアの魂よ」

 イリアには見えていた。一つになっていた時には気が付かなかったが、二つに分かれた魂はミリアとセリアだった。


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