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剣術訓練2

「では!始め!」


 ミリアは盾を持ってこなかった。木剣を両手で持って正眼に構えた。

「いや~~~~~~」

 ミリアは木剣を大上段に振りかぶって、ゴンザレスに近づき、木剣を振り下ろした。その一撃をゴンザレスは盾で軽く受け流し、体制を崩したミリアに容赦なく木剣を打ち込んだ。


 ミリアの左足の太ももに痛みが走った。だが、ミリアは歯を食いしばり悲鳴を上げずに痛みに耐えた。

「降参しろよ。あんたにゃ剣は似合わない。綺麗なドレスでも着て踊ってるんだな」


 ゴンザレスの言葉にミリアは怒りを覚えた。体勢を立て直して、再度、ゴンザレスに木剣を打ち込むが、やはり受け流されて攻撃を受ける。

 今度は右足の太ももを打たれた。『私』は手を出さないつもりだった。これは、ミリアの戦いだと思っていた。運動は嫌いだし、汗をかくのも嫌だった。


 それから、何十回と攻撃を受けた。だが、ミリアは悲鳴を上げることなく痛みに耐え続けた。

 そんな姿にカイエンは戸惑っていた。

(何故だ。何故降参しない。強くなりたい理由でもあるのか?)


「おいおい。いい加減、降参したらどうだ?」

 ゴンザレスはミリアをいたぶるように言った。

「私は負けない。あんたの様な三下に負けてなんかいられない!私は強くなる。強くなってみせる!」

「女が男より強くなれるわけね~だろ。さっさと降参してアルト様に守ってもらえよ」


 ゴンザレスの言葉に『私』はブチ切れた。

(ミリア。体、借りるね)

 『私』は深呼吸した。深く吸って、深く吐いた。そして、姿勢を正し、木剣を正眼に構えた。小学生の頃に習わされて嫌いになった剣道だったが、その動きは体に刻み込まれていた。腰を低く落とし、いつでも前後左右に動き出せるようにした。


 ミリアの動きが変わったことにカイエンは気が付いていた。

(なんだ、あの動きは……。まるで熟練の剣士の様ではないか)


「きぇ~~~~~~~~~い」

 『私』は大声で相手を威嚇した。ゴンザレスは『私』の突然の奇声に目を点にして圧倒されていた。

「いや~~~~~~~~~~~~~~」

 『私』は摺り足で、一瞬で間合いに入る。

「こて、め~~~~~~~ん」

 初手で、剣を持っている相手の右手首を切断し、肩口に一撃を加える。もちろん両方とも手加減して打ち込んだ。頭には打ち込んではいけないルールだったので肩口に打ち込んだが、掛け声は面にした。軽く当たっただけなのにゴンザレスは尻もちをついて倒れた。


「次は本気で当てるけどどうする?」

 『私』はゴンザレスを見下して言った。


「参りました」

 ゴンザレスは心が折れていた。

(動きが全く見えなかった。それに、あの剣速で手加減をされた。今までの動きは何だったんだ?急に別人のような動きになった。それに、このプレッシャー只者じゃない……。次に打ち込まれたら手首の骨と鎖骨は確実に折られる。無理だ。勝てない……)


 ゴンザレスの敗北宣言を聞いて、『私』とミリアは痛みで気が遠くなった。ふらふらと倒れそうになっているミリアを見て、アルトは駆け寄って抱きかかえた。

「ミリア!ミリア!しっかりして!今、回復魔法をかけるから」

<光の精霊よ。傷を癒したまえ。ヒール>

 光り輝く魔方陣が出現しミリアを包み込む。アルトは悲しそうな顔でミリアに魔法をかけた。

(ああ、温かい。そんな、悲しそうな顔をしないでアルト様)

 ミリアは薄れゆく意識の中で、アルトの頬に右手で触れた。そして、気絶した。




 ミリアが目を覚ますと、そこは保健室だった。ベッドを囲む白いカーテンが風に揺れていた。外からは、訓練を行っている生徒たちの掛け声が聞こえてくる。ベッドの横にはアルトが居た。


 金色の髪をたなびかせて、心配そうな顔をしてミリアを見つめていた。ミリアにとってどうしようもなく愛しい存在がアルトだった。ミリアは無意識にアルトの頬へ右手を伸ばした。

「悲しそうな顔をしないでアルト様」

「大丈夫なのか?」

 アルトはミリアの右手に自分の左手を優しく重ねた。


「ええ、アルト様のお陰で痛みも無くなりました」

「そうか、良かった」

 ミリアにとってアルトは掛け替えのない存在だった。裏切られる未来を見ても信じたいと思っていた。だから、ミリアは涙を流した。信じたいのに信じられない。それが、耐えられないほど苦しかった。


「ミリア……」

 涙を流すミリアにアルトは、それしか言えなかった。


「どうして、貴方が私を裏切る未来が見えてしまったんでしょう。こんなにも愛しているのに、こんなにも信じたいのに……」

 ミリアの感情は限界に来ていた。もう、どうしようも無くなっていた。アルトを信じたい。その想いを止めることが出来なかった。


「なら、もう一度、君と約束をする。幼き日にした約束は、死が二人を分かつまで一緒に居ようだった。

 その約束を変える。私は君だけを生涯愛すると誓う。死が二人を分かつとも魂になっても君を守り君の幸せを願う。私の魂にかけて誓う。何があっても絶対に裏切らない」


 アルトの決意にミリアは嬉し涙を流した。


「嬉しい。その言葉信じます。私も貴方だけを愛します」


 アルトとミリアは信じあっていた。だが、ミリアの表情が一変する。


「『私』は信じない」

 ミリアがアルトを完全に信じたことで、曖昧に混ざっていた『私』とミリアの魂が分かたれた。ミリアと『私』は、それを感覚的に理解した。


 『私』の言葉を聞いて、アルトが抱いていた疑念が確信に変わった。


「君は誰だ?ミリアではないな?」

「だから何?私はミリアじゃないけど、ミリアの未来を知っている。貴方はミリアを裏切るの、だから絶対に信じない」


「どうしたら信じてくれるんだ?」


「聖騎士。それに成れることが条件よ。王族の権限を使ってなったら軽蔑する。実力で聖騎士になれる?」

「ミリアと結婚できるのなら、喜んで聖騎士になるよ」

「もし、それが出来たのなら、私は貴方を少しだけ信じることにする」

「少しだけかい?でも良いよ。少しでも信じてもらえるのなら、私は聖騎士になる」

 アルトはミリアの為に覚悟を決めた。


「それにしても驚いたよ。君が二重人格だったなんて……」

「さっき迄は明確に分かれていなかったんだけどね」

「さっきまで?」

「そうよ。あなたがミリアを信じさせちゃったから、『私』は分離してしまった」

「そうなのか?もっと前からだと思っていたよ。さっき、最後にゴンザレスを倒したのは君だろう?」


「まあ、そうだけど。それでも、アルトを信じないって気持ちはミリアと一緒だった。あの時はまだ一人だった」

「そうか、なら君からも信頼を勝ち取ることにする」

 アルトは自信に満ちた表情で、『私』に宣言した。

(ずるいよな~。こんなにカッコよくて、誠実で、紳士的で、強くて、頭が良い王子様が、こんなこと言うんだもん。ミリアは簡単に信じちゃうよな~。でも、『私』は信じない。ミリアは私が守るんだ)


「期待しないで待ってる」

 『私』はアルトを突き放すように言った。

「そうか、では信頼を勝ち取るためにも私は授業に戻るよ」

「私も戻ります」

 ミリアはアルトの決意を聞いて、自分も強くなるために休んでは居られないと思った。アルトはミリアと『私』を完全に分けて認識できるようになっていた。だから、今の発言がミリアのものだと分かっていた。


「ミリア。もう一人の君が活躍したせいで、教官は直々に指導すると言っていた。素人の君には荷が重すぎると思うのだが?」

「ああ、どうしましょう?」

「いいよ。手を出したのは『私』なんだし、当面の間はお姉さんに任せなさい」

 『私』は30歳でミリアは15歳だった。だから、お姉さんと言ったのだが、その言葉をミリアは何故か懐かしいと思ってしまった。

「お願いね」

 そして、『私』も何故かミリアを妹の様に思っていた。


(それにしても、またしてもイベントが変わった。なんで、ミリアとアルトのイベントになってるんだろう?)

 『私』の疑問に対する答えは無かった。


 ゲームではアルトをミリアが応援していた。そして、アルトはミリアにカッコいい姿を見せる為に張り切りすぎてマリアに怪我を負わせた。今回はミリアがアルトを応援しなかった。だから、マリアは怪我をせずに済んだ。

 代わりにミリアが授業へ参加したことで、いたぶられ結果的にアルトがミリアを助ける形になった。


 運命の歯車は回りだしていた。マリアとミリアの運命は、それぞれが思いもしない結末に向けて転がりだしていた。


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