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悪役令嬢に転生してしまった。だから、私を裏切る婚約者の事を絶対に信じません!  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)


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授業初日

 翌日の朝、ミリアは自室で着替えをしていた。昨日は入学式で1日が終わったが、今日から本格的に授業が始まる。

 ミリアは覚悟を決めた。だから、その覚悟に相応しい服装を選んだ。それは、ミリアにとって戦闘服だった。髪を首の後ろでまとめ、男性の様にシャツとズボンをはいた。色は黒を基調としていた。その姿は、まさに男装の麗人だった。


「本当に、その姿で登校されるおつもりですか?」


 メイドのジェーンは心配そうに聞いてきた。赤いショートヘアの20歳のメイドでミリアが10歳の時から仕えている。アランの教育係でもあり、護衛と暗殺を得意としていた。


「もちろんよ。だって、これから戦いに行くのだから、ドレスなんて着ていられないわ」

「畏まりました。イリア様からも好きにさせるようにと仰せつかっておりますので、私からはこれ以上何も申しません。行ってらっしゃいませ、ミリアお嬢様」


 学院の門をくぐると、周囲から驚きの声が上がる。

「え?あれってミリア様?」「なんで男装なんかしているんだ?」「昨日は、綺麗なドレスを着ていたのに……」


 ミリアは、それらの声を無視して、教室に入った。当然の様に、アランが護衛としてついてきていた。そして、アランは余計なことを一切言わずにミリアの隣に座った。


 席について間もなくしてアルトが教室に入ってきた。そして、ミリアを見て、一瞬固まる。

(ミリアが本気で神域の迷宮に挑むと言ったのだ。訓練を行うのに相応しい服装をしているだけだ。なにも驚くことはない)

 アルトは心の中で、こう思った。そして、真剣な顔でミリアに挨拶する。


「おはよう。ミリア」

「おはようございます。アルト様」

 ミリアは、王族に騎士が挨拶するがごとく凛々しく挨拶を返した。そこには、一昨日までの恋する乙女は居なかった。そんなミリアの姿を見て、アルトはそれ以上声をかけなかった。

(彼女に認めてもらうまでは、何を話しても無駄だ。行動で示さなければ……)


 そんな、アルトの態度にミリアは少しだけ寂しいと思った。

(自分勝手よね。昨日、あれだけ拒絶したのに、アルトに優しくされる事を期待しているなんて……)

(そんなに、自分を責めないで、『私』が見た未来を受け入れるだけでも大変なのに、アルトへの想いを完全に断ち切るなんて無理なんだから……)

 自己嫌悪に陥っているミリアに対して『私』は慰めの言葉をかけた。


「おはよう。ミリアって、その恰好どうしたの?」

 教室にフレイアが入ってきた。フレイアは普通のドレスを着ていた。

「午後の選択科目で剣術を選ぶからよ」

「え?ミリアも戦士を目指すの?」

「少し違う。私が目指すのは暗黒騎士よ」


「え?なに、その邪悪そうな職業、聞いたことないんだけど?」

「そうね。闇の魔法に適性があって、かつ剣の才能も必要な職業よ」

「神域の迷宮を攻略するのに必要なの?」

「そうよ。私は貴方と違って土の魔法の適性が低い。だから、体を鍛える必要があるのよ」


「私も剣術習った方が良いかな?」

「いいえ、フレイアはロイと一緒に土の魔法を勉強して、ロイと親睦を深めて」

「え?それでいいの?戦士になるんじゃないの?」

「戦士の修業は、土の魔法を一通り使えるようになってからでいいわ」


「分かった。一通り習得したら、私も剣術を習えばいいのかな?」

「いいえ、フレイアには斧術を学んでもらうわ」

「斧?乙女に一番似合わなそうな武器ね……」


 『私』は知っている。ゲーム内で最強のタンクにして最強のアタッカー、それがフレイアだった。ゲーム内最強の攻撃力を誇る武器『黒曜』は斧だった。だから、フレイアは斧術を極めて欲しかった。


「女戦士の最新のトレンドは斧で敵を一撃で粉砕する事なんですって」

「え?そうなの?じゃあ、トレンドに乗っちゃおうかな~」

 ミリアは知っていた。フレイアがトレンドに流される性格だということを……。




 午前中は座学で、算数や国語、それと歴史を習う。ミリアは、算数や国語を苦手としていたが、『私』はそれが得意だった。というよりは、この国の算数や国語が日本で習ったものよりも簡単だったと言うべきだった。そして、歴史の授業は『私』にとってゲームの設定からは読み取れなかった知識の宝庫だった。


(『私』の知らない情報がいっぱい。勉強になるわ~)

(未来を知っているあなたでも知らないことがあるのね)

(そうね。外から傍観していたから、詳しいことは知らないのよね)

(そう)


 この事実に、ミリアは希望を抱いた。『私』が知らない事が未来を変える力になるかもしれないと……。


 座学が終わり、午後の選択科目で剣術を選んだミリアは、訓練場に移動した。そこには騎士になるために剣術・槍術・斧術・弓術を訓練するための設備が並んでいた。藁人形に弓の的、筋力を強化するためのトレーニング器具が並んでいた。


 参加者の9割が男性だった。女性は少数で、貴族はミリアだけだった。騎士を目指すのは貴族も居るが平民も多かった。そして、平民の男はマナーなど知らない。年齢は15歳だが、見た目がおっさんのブサメンが、ミリアに話しかけてきた。


「綺麗なお嬢さん。剣など握らずに俺のナニを握ってくれないか?」

 ミリアは、あまりの下品さに怖気が立った。だが、『私』は怒りが先行した。

(ふざけんな!このセクハラ野郎!)

『私』は心の中で悪態をつき、思いっきり相手の股間を蹴り上げた。


 男は甲高いニワトリのような悲鳴を上げた。


「死ね!」


 『私』は、そう吐き捨てて去ろうとした。だが、男は股間を押さえつつも、ミリアの腕を掴んだ。さすがの『私』も背筋が凍った。力で劣るミリアが男に捕まればどうなるのか知っていた。


「そこまでだ」


 静かな怒りを感じさせる声で、アルトが男の腕を掴んだ。男は苦痛に顔を歪めて、ミリアから手を離した。アルトも男の腕を離し、ミリアと男の間に割って入った。


「ふざけるな!この女が先に手を出してきたんだ!」

「そこまでだと、言ったのが聞こえなかったのか?私の権限で、処刑してもいいのだぞ?」


 アルトは、怒りを理性で押し込めていた。アルトは意識して腰に佩いてある聖剣『陽光』の柄に手を伸ばした。

(ミリアへの暴言に加えて、ミリアの腕を掴んだ。本来であれば、その場で腕を切り落とすところだが、それは王者の振舞ではない。今は脅しだけで許してやる)


 アルトの殺気に押されて、男は逃げた。


「無事かい?」

 アルトはミリアを心配して声をかけた。


「大丈夫。ありがとう」

 ミリアは嬉しさを感じていた。そこへ、マリアがやってきた。彼女の目的は、体を鍛えることだった。昨日とは違い今日はくせっ毛で、服装も貧相な体操着のようなものを着ていた。


 そして、『私』は思い出す。今、ミリアの身に起こったイベントはマリアに起こるイベントだった。ミリアは本来午後の授業に出ることがないキャラクターだった。だから、ミリアが午後の授業に参加したことで運命が変わったのだ。


 これから起こるのは、マリアにとってのチュートリアルのハズだった。攻略対象との掛け合いと選択肢の出現、親密度についての説明、それに、授業でのミニイベントの説明が開始されるのだ。


 さっきの男の暴言に対してマリアの選択肢は「きっぱりと断る」と「無視する」だったが、『私』のとった行動は「股間を蹴り上げる」だった。『私』は反省した。

(どうもお嬢様と呼ばれるには行動がアグレッシブすぎた。会社員をしていた時、セクハラ親父たちに辟易して啖呵を切っていた事を思い出すな~。きっと、その時のストレスが私にあんな行動をさせたのだ。うんうん)

 『私』は反省すると共に責任転嫁を完了させた。


 最初のミニイベントは、剣術対決だった。その相手はアルトだった。マリアは必ず負ける。だが、負けることによって親密度と剣術のレベルが上がる。そういうイベントが待っていた。


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