表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/5

青い空

私はまるで、巣立ちが出来ない小鳥のようだわ。













「青い鳥って見たことある?」


このときの彼の顔を、私は忘れる事ができるだろうか。

彼は、笑顔で。楽しいのか幸せなのか悲しいのか、私には良く分からない笑顔で笑っていた。


部屋には古い畳が敷き詰められていた。テーブルどころがちゃぶ台一つ無い、私の実家の一室。今時珍しい、広くて平屋の和風な家だ。今の季節、クーラーも無いこんな家の、しかも一番日当たりがいい部屋で日向ぼっこなんて、死ぬほど暑いはずなのに、彼は気にせず太陽の光に当たる。まぁ、今に始まった事じゃないけれど。

彼は、私の実家のこの場所を大変気に入っていた。暇があれば、必ず私を呼び出して実家へ行く。私が一人暮らしするアパートから実家まで、近いわけでもないのに。なんだかんだで彼と付き合って三年が経つのも、この場所のおかげかもしれない。



――――その日は、雲なんて一つも無いくらいの、快晴で。


彼はそんな空を見上げてから。私へと話し掛けた。


「あるわけ無いでしょう、そんなの。それとも何? 悠は見たことあるの?」

「うん、あるよ」

「嘘つき」


私が冷たくそう言ったら、彼はほんとだよ、と更に食いついてくる。

嘘ばっかり。

あなたの言う事は嘘ばかりよ。一体、その笑顔でどれだけの女を騙してきたのかしら。


「ほんとだってば。由梨は夢が無いなぁ」

「二十歳を過ぎてまで夢を追う女なんてイタイだけでしょう」

「そうかなぁ。夢見がちな子って、結構好きだけど」


あなたの趣味になんて興味、無いわ。

どうせ、……どうせ、意味なんて、ないもの。


「それで。青い鳥がどうしたって?」

「ああ、うん。青い鳥の探し方を教えてあげようかな、って」

「探し方? そんなのあるの?」

「うん、あるよ」


そんなのがあるなら、びっくりだ。

青い色の鳥がいないのは、世界の科学界も認めていることなのに、探し方があるなんて。

その探し方で、あなたは青い鳥を見たことがあるのかしら?


「紙とペンとはさみを用意して」

「その辺にあるわ」


そう言って、私はその辺を指差した。

彼は私たちが座る畳の上に、紙を置いてペンで何かを書き始める。

すごくいびつな落書きを書き始める、悠。そして、その落書きの形にはさみで切って行く。

五分もせずに、それは完成した。


「ほら!」

「……何、その落書き」

「何って。鳥に決まってるじゃん」

「鳥? そのいびつな丸が?」

「うわ、酷い、由梨」


悠はそう言って、私を隣りに呼んだ。

それでなくても暑いのに、日差しに当てられてますます暑くなったような気がした。

私の頬に、彼の髪が触る。くすぐったいわ。


「ほら、見て」

「見てるけど」


彼は、そのいびつな紙の鳥を頭上へと掲げた。

見ろと言われたので、私はそれを見る。

何の変哲も無い、白い紙で作られた手作りの鳥。




――――嗚呼、でも、




「ほら、青い鳥発見!」

「え? 何処に?」


どれだけ目を凝らしても、青い鳥は見つからない。

私はもう一度悠に何処、と尋ねる。

しかし、彼は此処に居るじゃん、というだけ。


「だから何処にいるの?」

「ほら、これが青い鳥だよ」


彼は紙の鳥を私に手渡す。

これ、が、青い鳥?


「どうみても白い鳥じゃない」

「これだけ見るとね。だけど、空にかざすと、たちまち青い鳥に大変身――――」

「しない! 背景が青の白い鳥よ!」

「細かい事は言わない言わない。ほら、由梨に青い鳥をプレゼント」

「ただの子供の工作じゃない……」


呆れた。

こんな子供でも言わないような事をするために、私を付き合わせたのか。子供っぽいにもほどがある。

私は大人しくそれを受け取り、出口のちかくに置いてある棚の上に置いた。


「じゃ、由梨には幸せをプレゼントしたから、」

「白い鳥が幸せを運ぶなんて話、聞いたことないけどね」

「由梨は、もう大丈夫だね」

「――――、?」


もう、大丈夫? 何の、話?

私は言い表せない不安にかられる。


何で、何でそんなこと言うのよ。

やめてよ、なんだか、まるで、悠がいなくなるみたいじゃない。

そんなのやだよ、…………嫌、だから、


「――――そんな不安そうな顔するなって! 俺は、どこにも行かない」

「……、ほんとう、?」

「ほんとほんと」


彼はいつもの笑顔で私を宥めた。


ああ、私はダメね。

彼に甘えてばかりで。



私はまるで、巣立ちが出来ない小鳥のようだわ。













その日は、雲なんて一つも無いくらいの、快晴で。



人の手によって空を飛ぶ、青で白の紙の鳥に見惚れてしまっていたから。





私は、つい、彼が嘘つきだったことを忘れてしまっていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ