09。夜が明けて
ミャーオ ミャーオ
「………ん?」
ミャー ミャー
「………うん?」
ザザーッ ザーザー
「おおわっとと」
お目覚めの時間だよ、とばかりに波が海人の身体を優しくもてあそぶ。
眼を擦り、大きな口を開けて欠伸をしながら。
「ぉはよう…」
まだ寝ぼけているのだろう。返事を返すものもない、広大な海に向かって挨拶をする。
「……そっか…ははは、あぁ…」
誰に気恥ずかしさを見られるわけでもないのに、頬をかきながらの苦笑いで誤魔化した。
水平線の先には星空と月から交代した太陽が、空に昇りはじめている。
ミャーオ ミャーオ
鳥が鳴いている。ぼんやりした頭で聞いている。
「鳥かぁ、…鳴いているのは」
空を見上げるが姿は見えない。
「……んっ?……鳥」
海人の意識が完全に覚醒する。頭を左右に振って鳴き声の主を探す。
その鳴き声はとても近くから聞こえる。後ろを振り向くと、いた。
水面にたっていた。
羽ばたいているわけではなく、文字通り水面にたっている。
「えっ!なんで?」
水鳥が水面に浮かんで、足で水をかいて進む姿を見たことがある。しかし、目の前の鳥は二本の足で水の上にたっているのだ。ハッキリと覚醒したはずの意識に混乱が混じる。
「なんで?どうなって……!」
「……………ッ!」
海人は突然動きだした。息が荒々しくなり異常なほどに激しく。
海人は目の前の鳥のことなど忘れて、腕を動かし続けた。それは鳥から見れば自分を捕まえようと腕を伸ばしてきたように見えただろう。
バッサバッサ
鳥は羽ばたき飛んでいった。そんな事も、いまの海人は気にならなくなっていた。鳥がいた場所に伸ばした腕が水ではなく、水面ギリギリまで突き出た岩の先端で、それを掴んでいたとしても…。
ただただ前に進むことだけに集中していた。
今は目の前の光景から眼が離せない。まばたきしたら消えてしまうのではないのかと錯覚するくらいに。
海人の前に現れた陸地。
助けがくるまで待つしかないと諦めた昨晩の苦い思いが消えていく。
何度も命の危険を感じた苦しい思い出が消えていく。
「助かったぁ」
海人の視界は涙で歪んでいた。
意欲に燃えた(1492)、海人