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ひとりぼっちの修学旅行  作者: よしあき煎餅
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08。漂流はつづく

 波が体を揺らす。どこへ運んでいこうとしているのか。波は穏やかになってきたが時折、大きな波もやってくる。


 さまざまな出来事が起こったあとの静寂は海人を油断させていた。


ザッパーン


 油断させてからの手痛い仕打ちにまんまとはまり、波にもまれて海中へ放り込まれた。


「うぶげぇ」


 あわてて腕に抱いている浮環を引寄せて、身体が流されるままに耐える。

 もうそろそろ息が続かないとなる前に、なんとか海上に顔を出すことができた。


ハァア、ハ、ハァア


「な、なんとか……溺れずに…すんだ、かな…ハァ」


 やっとの思いで捕まえた浮環に通していた腕を離し、輪の内側に頭から体を通して身体を預けた。


「はぁ、死ぬかと思ったぁ」


 月明かりだけのくらい海に浮かんで漂いながら身体にまとわりついた布を剥がしていく。


 引き裂かれた横断幕のいちぶだったそれを睨み付けて投げ捨てると、波がどこかへ押し流していった。


「チッキショー。なんでこんなことになってんのよぉぉぉ!」


 暗闇に向けて力いっぱい叫んでみても虚しく響き、闇に吸い込まれていくだけだった。


─────

────

───

──


 どっちを向いても海、海、海、海。唯一、空を見上げればきれいな月が微笑んでくれている。これまでの嵐はどこへいったのか、波は穏やかで満点の星空が堪能できるまでに天候は回復していた。


 浮環を装着して溺れる心配が減った直後は、意欲的に辺りを見回していた海人も今では諦めてぼんやりと星を眺めているだけとなっていた。


 というのも、島影はおろか船の姿も見られない。汽笛やエンジンの音なども聞こえてこない。

 フェリーから落ちたときの位置も把握できておらず、多くの波に流された今では場所の特定など不可能である。

 それに、現在地を把握できたとしても連絡するすべは持ち合わせていない。つまりは、他力に任せるしかないのだ。


 上空からの捜索が始まれば、見つけてもらえる可能性が高まる。その時がくるまで今は動かず、体力の低下を抑えることが海人にできる唯一の行動である。

 決めた方針の通り、ただただ流れに身を任せている。暇をもて余し、星空を眺めてもため息ばかりが生産されるだけだった。


「はあ、あぁああ」


 もし、海人が星空と水平線以外に目を向けていれば、赤い眼を光らせた巨大な影が近くを通りすぎたことに気付いたかもしれない。


 知らない方がよいことも世の中にはたくさん転がっているものだ。


 空腹は我慢するしかなく、孤独にも勝ち目はない。そして、眠気にも負けた。身体に固定された浮環は肉厚で輪っかの部分は小さいため、小柄な海人の胸部がピッタリ収まっている。

 それゆえ引き抜こうともがかなければそうそう外れそうにはなかった。

 そんな安心感と疲労が重なれば、重たくなったまぶたを支えることなど出来なくなるのは時間の問題だった。


「…スゥーヒィー…グゥーヒィー…」


静かな波間に気持ちの良さそうな寝息が響いていた。

手がシワシワのおじいちゃんになった少年

早く出たい

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