04。手が滑りました
「おわっと…」
予想していなかった揺れに体が傾ぐ。足に力を込めて踏ん張り、柱に手を伸ばす。
スカッ
しかし、伸ばした手は空を切っただけ。
「あっ…」
期待していた手応えを獲られずに、海人はデッキ縁の手摺に脇腹あたりをぶつけて止まった。
「イテッ…あっぶな…まったくもう」
手摺の向こう側をチラッと覗いて安堵のため息をつく。と同時に突然の波に恨み節をぶつける。こんな状況で外にでている自分が悪いのだが……
「あっ…あれ…浮環がない」
先程、信頼度が乱高下した寡黙なヒーロが手元から消えていた。辺りを見渡してもデッキに姿は見当たらない。
「えっ、嘘でしょ…まさかねっ」
手摺に手をかけ海の方へ体を乗り出す。明かりのない暗闇のなかに漂っているだろうヒーロを捜索する。近くには見当たらない。
不慮の事故とはいえ、まさか自分が捜索の対象になろうとは思ってもいないだろうが。
「あぁ…嫌だもう…なにしてんのよぉ」
自分に対して悪態をつき、頭を抱えた。
「どこかにうまいこと引っ掛かってたりしないかなぁ」
そんな逃避の思考を巡らせつつ捜索を続ける。
だがしかし、海に浮かぶ彼を見つけても救助するすべが僕にはない。
ながい棒状のもので引っ掛け手繰り寄せるものか。小舟を降ろして拾いに行くものか。
いずれの方法を取るにしても先生や船員さんたちに頼るしかない。
そんな考えが纏まってくると、途端にこの事態に対する言い訳が頭のなかに浮かんでくる。
まったくもって嫌な性格だ。
ダメダメと頭を左右に振って考えをただしていく。
一先ずは船内に戻り先生に相談しよう。
扉の方へとむきなおろうとしたそのとき、またそいつはやって来た。
ザッパーン
先程よりも大きな揺れ。転覆するのではと思わせるほど船体が傾いた用に感じた。
両足の踏ん張りも効かずに背中から手摺へ叩きつけられる。
それでも勢いは止まらず僕の体は手摺の向こう側へ放り出された。
「うわあああああぁぁぁ」
誰もいなくなった展望デッキに悲痛な叫びが響いていた。