03。展望デッキで
船が揺れる度に、ヨロヨロと力なく壁に寄りかかる。
乗り物酔いってこんな感じなんだぁ。
素直な感想が頭に浮かんできた。
物心ついてから十数年。遊園地でも山道を走る車内でもケラケラ笑っていられる子供だったのに。
いつかなんて、いたずら好きの父が遊園地のティーカップを派手に回して、フラフラ目を回しながら従業員のお姉さんと母に怒られていたっけ。
「はぁ…」
幼い頃の記憶を掘り返してみても今のような状態は体験したことがない。
湖のボートや湾内の釣船なんかは乗ったことがある。いや、頻繁に乗っていた。
釣り好きの父が僕と夕飯のおかずをだしにして、つれ回された。
『海に選ばれし少年、海人よ。いざゆかん……』
父のいつもの口上である。
もちろん、僕が選ばれたのではなく、父が僕に海人という名前を選んだのだが。
ちなみに読み方が「うみびと」ではないのは賢者足り得る母の苦闘の賜物である。
「はぁ。海に選ばれたのなら大海原の大航海にも耐えられるはずでしょうに。」
父への細やかな悪態を呟きつつ、到着した展望デッキへの扉。
一呼吸整えて扉を開き外へでた。
雨は小降りになっていたが、海風が吹くと肌寒く感じる。
先生が持たせてくれた上着とレインコートを羽織り、ジッパーを首元までしっかり閉める。
「おやっ?」
いい香り薫ってきた。
香水だろうか。ほんのり薫るそれは主張しすぎない優しい香りで先生にぴったりだ、と男子生徒の誰かが話していたっけ。
展望デッキは雨で濡れている。こんな天候のなかここで、海を眺めようなんて考える変わりものはいない。
僕を除いてはね…。
船の外は真っ暗闇だ。近くに島などなく明かりと言えば少しかけた月明かりだけ。
展望デッキの縁には腰のたかさの手摺がある。それに手を添えながら海を眺め歩く。
ひんやりとした風と新鮮な空気で今までの気持ち悪さは治まってきた。
気分がよくなると回りが見えてくる。ベンチとテーブルが設置されていて、一定の間隔で建てられた柱には白地に赤いストライプ模様の『船舶用救命浮環』が掛けられている。
何気なくに浮環を手に取る。少しの重みとなんだか頼りなさが不安をかきたてる。
だが、それを手に持ったまま海に投げ出された時を想像してみた。すると先程までの頼りなさが嘘のように消えて安心感が強くなっていく。
「ごめんな」
あらぬ評価を下してしまった寡黙なヒーローに謝罪の言葉をかけ微笑んだ。
ザッバーン
船が大きな波を受けたのか激しい音とともに船体が揺れた。
三話目の投稿です。
二、三日で一話投稿していけるように頑張ります。