02。船旅のはじまり
時は遡り、学園では出発式が長引いていた。
大きな学園旗が風になびく校庭で、学園長の永いながぁい話が続いていた。
「……で、あるからして諸君らは本日からの旅行を大いに満喫し、高等学園生活二年目のよき思い出に……」
「はぁ」
同じ内容を何度も聞かされていればため息のひとつもつきたくなるものだ。
同じ思いに至った前列の生徒からも非難の囁きが漏れてくる。
「つーか、学園長の話しなげー」
「しっ!聞こえるよ」
「大丈夫だって。だぁれも聞いちゃいねーって。まわりみてみろ」
「そうだけど……」
促された女子性徒は少しばかり視線を巡らせる。確かに、視界におさまった生徒たちの多くは力なく立ち尽くし、今にも倒れだしそうだ。周りの声も耳に入ってないだろう。
そのような状態は先生たちも例外ではなく、一様にうんざり顔だ。
ただ独り、生徒指導の先生以外は……。
もはや絶滅危惧種に登録されているのではないか、上下同色ジャージの角刈り頭。そして片時も手放さない竹刀は7代目(?)だと本人が話していたとの噂である。
「ひゃっ」
目が合った。
いやいや、まてまて、落ち着け。睨らまれているのは僕じゃない。はすだが……慌てて姿勢をただし壇上の方へ向きなおる。件の生徒たちはその視線に気づきもせず喋り続けている。
あぁ、御愁傷様です……そっと心のなかで手を合わせておく。
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ボッ、プォー
僕たちを乗せたフェリーが汽笛をならして進んでいく。
荒れ狂う大海原を……。
校庭に掲げられていた大きな学園旗がはためき、船体の側面には学園名の書かれた横断幕がバッサバッザと揺れている。なんとも主張の強い学園であることか。
大きな波を乗り越え、突き破り進んでいく………
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転覆……
してない、してない…まだ大丈夫、ちゃんと浮いてる…たぶんこの先も…。
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「うぅぅ……はぁ、はぁ…うっ……」
おおぇぇー
……
おぇぇ
…
もう何度目かわからない。すでに胃のなかは空っぽで、たまに胃液のような液体がでるくらいだ。
「大丈夫?」
「……うぅぅ……はい…」
情けない。本当に情けない。
僕は担任の先生に背中をさすられながら船酔いに耐えている。
案の定、と言うか当然と言うべきか、荒れ狂う大海原を進む船は揺れている。
もはや、転覆せずに進んでいるのが不思議なくらいに揺れている。
『いったい誰が出向の許可を出したんだよ』
『今後のスケジュールやキャンセル料の関係で学園長が強行したらしいよ』
『あぁ、やっぱりか。ケチなくせにいろんなところに顔が広いらしいからな』
『どっかの会社の会長だっけ』
『え、元議員だって聞いたぜ』
出港直後に噂好きな生徒たちが集まって話していたっけ。
ガチャリ
ドアが力なく開かれ誰かが入ってきた。
「せ、せんせい…薬、酔い止めの薬もらえ…ウップ」
「あらあら、大変。そんな状態になるまで我慢してぇ」
青い顔したクラスメイトに先生がかけより抱き抱えるように支える。足元も覚束ないようだ。
「困ったわね。ベットの数が足らないわね」
部屋のなかを見渡し困り顔だ。すでに先客たちが力なくよこたわり呻いている。
僕はまだふらつく足のだるさと吐き気を飲みこみベットから起き上がる。と、
「先生、ここに寝かせてあげてください」
「あら、あなたは大丈夫なの」
「まだ、気持ち悪いけれど…ちょっと外の空気に当たりたいかな」
「薬が効いてきたのかしらね。でも、外はまだ雨よ」
「うん。でも、ここにいるよりは気分がよくなるとおもうから…」
多くの同級生たちが船酔いで寝込んでいる。そこかしこから「うぅぅ」とか「おぇぇ」とか聞こえてくる。そんな音を聞いていても気分がよくなるとはおもえない。
壁に寄りかかりながら立ちあがりドアの方へと歩いて行く。
「外は寒いから、私の上着とこれを羽織っていきなさい。」
僕が先程まで使っていたベットに新たな患者となった生徒を寝かせ、先生が駆け寄ってくる。
大揺れの船のなか、ひとり奮闘している我がクラスの頼れる担任の新米先生。
彼女は少しばかり幼い感じの顔立ちで、同級生か?と勘違いする保護者も少なくない。本人はそんな勘違いを楽しんでいるようだが。
ありがとうございます。先生の厚意を腕に抱いてふらつきながら部屋を出た。
二話目の投稿です
読んでいただきありがとうございます。文脈や言い回しなどまだまだですが頑張ります。よろしくお願いいたします。