九日目
なんとなく二人で昌行の自室にいる時間だった。昌行はスマホをいじり、神さまは本を読んでいた。といっても、もう何度も読んでいる本を流し読みしているような感じだった。
「神さまってさあ」
「ん」
「誕生日ってあるの?」
昌行はベッドで横になっていた。昌行の勉強机のセットの椅子に座っていた神さまは、本から顔を上げ、視線を上のほうにやった。
「……わからん。藤咲町の制定日とかじゃないかの」
本をぱたんと閉じて昌行のほうを向く。回転いすは音もなく回転した。
「誕生日祝ってもらったことないの?」
「そもそもこの国に誕生日を祝う文化はなかったんじゃよ。織田信長がイエスキリストの生誕祭を聞いてやってみたのが始まりじゃと聞く」
「へえ、実際にみたの?」
「なわけあるか。単なる知識じゃよ」
昌行はスマホをいじったり、時々神さまのほうをみたり、だらけた様子だった。
神さまは昌行のスマホが気になったようで、立ち上がり昌行のほうに近づいた。上からのぞきこむと、画面にはたくさんのペンギンが映っていた。
「昌行もやっておったのか」
「神さまがやってるのが気になってさ。結構癒されるね」
画面を切り替えるとグーグル検索を呼び出した。そして藤咲町の制定日を調べる。細々とした文字をざっくり読むと、九月三日ということがわかった。
「もうすぐじゃん」
昌行は立ち上がると食卓のある部屋のほうへ向かった。神さまはなんとなくついていく。
食卓の端に置かれたメモ帳を前にして、昌行は固まっていた。
「どうしたんじゃ?」
「神さま、どんなケーキが良い?」
八百屋のおじさんに材料を発注しようと思ってるようだった。
「手作りするんかの?」
「どうせ時間だけはたっぷりあるんだから、それくらいやったほうが楽しいよ」
メモ帳の端にペンをトンと突き立て、微笑んだ。
「そうじゃな~。スタンダードにイチゴショートにしようぞ! 生クリームたっぷりのな!」
「いいねいいね~」
スマホでレシピを調べながらメモに材料を書き連ねていく。きっと三日には間に合わないが、それでも楽しい誕生祭ができそうだと思った。