八日目
「思ったんだけどさ」
夜の食卓での会話だった。
「ひょっとして、結構不便な生活になるのかな?」
今日は中華風に麻婆豆腐と卵と玉ねぎのスープを用意していた。八百屋のおじさんから用意された食べ物の中から、テキトーなメニューを編むのもそう簡単なことではなかった。自分で買い物に行かなくてもいいのはありがたいことだが、手抜きしたいとおもってもそれができるようなものがなかったらどうしようもないのは結構大変なのではないか、という予感がしていた。
「何を言う昌行、電気も水もガスもネット環境も通っておるんじゃぞ。これ以上求めたら罰が当たるわい」
レンゲで麻婆豆腐を救い、ふうふうと息を吹きかけてからぱくりと食べる。表情はそんなに変わらないが、食べる速度が速いので気に入ってるんだろうなということが伝わってくる。
「それはそうだけど……たとえばサプライズで何か買いたいと思っても、ばれちゃうんだよ」
必要なものはメモに記して八百屋のおじさんに渡すという形式で成立しそうな気配がしていた。通販を使ってみたい気持ちはあったが、一般の人を本来存在しない住所にいざなうのは罪悪感がする。
昌行は気が付いてなかったが、実際それでもし何か問題が起きたときにだれが責任をとれるのか、ということもあった。
「その場合は材料を買って、作るしかないのう」
「材料でばれちゃうときは?」
「諦める」
ときどき神さまは妙に潔いところがある。迷いのない応答だったので、本当に諦めるしかないと思っているのだろう。
「神さまってたまにすごくあっさりしてるよね。長生きのせい?」
「そうかもしれんのう、まあ、長生きしてても諦めの悪いタイプもおるじゃがの」
いつの間にか皿の中身は空になっていた。神さまは丁寧に手を合わせてごちそうさまを言う。
「今日はうちが皿洗いをやろうかの」
「お、じゃあお願い」
料理は二人で作ることもあったが、皿洗いは一人でやる方がスムーズだった。当番は特に決めずに、その日の状況で決まっていく。
「~♪」
どうやら相当ご飯が美味しかったのか、それとも単にそういう気分だったのか、鼻歌交じりに皿は洗われていった。