一日目
LINEのアプリを消した。
それからツイッターのアカウントも消した。
今日から俺は、天国に行くんだ。そう思うことにした。
「昌行~! 暇じゃ。なんかしゃべれ」
スマホを操作してしんみりしていたというのに、かわいらしい声が急に振ってきた。
「なんだよ神さま、今ちょっとしんみりしてたとこなんだけど」
「? 何かしんみりするようなことでもあったかの?」
そもそもここは一応昌行の自室である。了承も得ずに勝手に入ってきたというのはいかがなものだろうか。
「ほら、今日からだろ、この町がほぼ正式になくなるのは」
「ああ~、そうじゃったかのう。確かに昌行以外の人間の気配が全然ないが、もうひと月くらいそんな感じじゃったから、忘れておったわ」
溜息に近い息がひとつ出てきた。今日を区切りの日と認知していたのは自分だけだったのだろうか。
「神さまの体には、なんもないの?」
昌行の目の前にいるのは、昌行と同い年くらい、中学生くらいの少女である。一見すると平気そうな顔をしてるが、ひょっとしたらこの町の扱われ方によってなんらかの影響を受けているかもしれない。
だって彼女は、この町の神さまなのだから。
「なんもないのう。昌行が近くにいるおかげかもしれんな」
そう聞いて昌行は、ちょっと誇らしいような、先のことを考えておそろしいような、複雑な気持ちになった。
「そっか、なんか複雑かな……」
なんとなく目線が下に向かってしまう。それをみて神さまは昌行の顔を両手で挟んで、無理やり引き上げた。
「何を言う昌行! 今日からはもう何も縛られることがないのじゃぞ。天国みたいなもんじゃ! 一年間めいっぱい楽しめ!」
そう語る彼女の顔には何の陰りも見受けられない。本当にそう思ってるんだと思うと、少し前向きな気持ちになった。
「そうだな、ねえ神さま! 今日はさっそく夜更かしでもする?」
「いいのう。ゲーム三昧しようかの!」
これから一年後、この町は終わり、俺は死ぬ。そして神さまもいなくなってしまうかもしれない。それだけが決まっている最後の三百六十五日が、始まる。