6話 スーパーにて
学校を後にして、途中まで陸と一緒に帰る。
それから陸と別れて、俺と雫は近所のスーパーへ。
カートに買い物カゴを乗せて、それを俺が押す。
雫は虚弱体質かと思うくらいに体力がないからな。
最初はともかく、あれこれと荷物を乗せた後だと押すのに一苦労だ。
なので、いつも俺が押している。
「今日の買い物は?」
「えっと……にんじん、たまねぎ、キャベツ。ナス、キュウリ、ピーマン。適当なきのこ。適当な果物。カレールー。マーボー豆腐の元。焼き肉のタレ。サラダドレッシング。米5キロ。牛乳、納豆。適当な菓子パン。サンマ、サバ、イワシ。刺身セット。豆腐、豆乳。はちみつ、ジャム……以上である!」
「……」
「どうした、変な顔をして?」
「毎回思うんだが、雫の母親は俺を運び屋と勘違いしてないか?」
ガチの買い物すぎるだろう。
娘に頼むものなら、もっとこう、簡単で種類が少ないだろう?
これ、雫一人だと絶対に持って帰れない量じゃないか。
俺がついていくこと前提で頼んでやがるな。
「まったく……あの親にしてこの子ありか」
「ふむ。よくわからぬが、そう褒めるでない。はははっ!」
「褒めてねーよ」
雫の高笑いで周囲の客が何事かと振り向くが、気にせずに奥へ進む。
最初は恥ずかしいと思っていたが……
もう慣れた。
買い物に付き合うのを断るという手もあるが、それをやると、雫がガチ泣きするんだよな。
コイツ、将来は独り立ちできるのだろうか?
時々心配になる。
「まずは野菜だな」
雫の言う通りに、買い物かごに野菜を放り込んでいく。
一通りの品を入れると、野菜だけでけっこうな量になった。
さらに、そこに魚が加わり、米や牛乳などの大きなものが足されていく。
今回は特に多いな。
俺達だけで持って帰れるだろうか?
「コレ、ホントに買ってこいって言われたのか?」
「うむ、そのようなウソを吐いても仕方なかろう?」
「とはいえ、おばさんがこんな無茶なこと言うとは思えないが……ちょっとメモ見せてくれ」
「いいぞ、ほれ」
雫からメモを受け取り、目を通す。
確かに、雫が言った通りの品物が記載されていて……ただ、それだけではなくて二枚目があった。
「二枚目があるぞ?」
「うん? それは知らないぞ。なんて書いてある?」
「えっと……」
あえてたくさんの量を頼んでおいたから、ここぞとばかりに結城君を頼り甘えて、できればそのまま既成事実を作っちゃいなさい。
母より。
「なっ、あ!? うううぅ、お母さんはなにを考えているのぉ!?」
一瞬で素に戻り、雫が恥ずかしそうに叫んだ。
そのままあわあわとしつつ、こちらを見る。
「ちっ、ちちち、違うからね!? 私はなにも知らなかったからね!? 結城を頼りにするとか甘えるとか……き、既成事実とか……そんなことは考えてなかったからね!? 本当だよ!?」
「わかった……わかっているから、少しは落ち着いてくれ」
「むぅううう……そこまで落ち着かれると、逆にムカツク」
どうしろと?
「おばさんのことはよく知っているからな。雫の母親だけあって、色々と規格外だ。こんなことをしてもおかしくはないさ」
おばさんは、一見すると穏やかで優しい人だ。
性格はその通りなのだけど……
おっとりとしすぎていて、とことんマイペースという問題がある。
なにしろ、雫の中二病を見て、「個性があることは素敵よねぇ」なんて笑顔で言うような人だ。
そんな人だから、突拍子のないことをしてもおかしくはない。
「ほら、それよりも、さっさと残りを買うぞ」
「うむ。少々腑に落ちぬところはあるが、そうしようか」
落ち着きを取り戻したらしく、雫は中二病モードに戻っていた。
いや。
雫に言わせるならば、ダークネストワイライトプリンセスモード……か?
「……なあ、結城よ」
「うん?」
買い物を続けていると、ふと、雫が足を止めた。
どことなくせがむような視線をこちらに。
何事かと思い周囲を見てみると、そこはお菓子売り場だった。
「ちょっとくらい良いとは思わぬか?」
「別に俺は構わないが、おばさんに怒られたりしないのか?」
以前、勝手にお菓子を買って怒られたことを覚えている。
あれ以来、雫は勝手な行動は謹んできたのだが。
「心配ならいらぬぞ。今日は、きちんと許可をとってきた」
「それならいいか」
「わーい♪」
許可を出すと、再び素のモードに。
にこにこ笑顔でお菓子を選ぶのだけど、その姿はまるで子供だ。
とても高校二年生とは思えない。
「やっぱ、チョコは欠かせないよねー。あと、ポテチも欲しいし……あっ、駄菓子とかも久しぶりに食べるとおいしいんだよねー」
「まだか?」
「もうちょっと待ってよー。乙女の買い物は長いの」
お菓子を選ぶ時も長いというのか?
「ねえねえ、結城はどれがいいと思う?」
「なんでもいい」
「つれない返事。いっそのこと、全部買っちゃおうかなー?」
「それだけの金があるのなら構わないと思うが、ただ、太るぞ?」
「っ!?」
雷でも受けたような顔をして、雫が胸元を押さえてうずくまる。
「くっ……お、おのれ。乙女に言ってはいけないワード、ナンバーワンをさらりと口にしおって……許せぬ! 我が怒り、天の雷となりて汝の魂を砕かんっ」
大仰なポーズをとることで、ますます雫は注目を浴びた。
そんな雫と……そして、俺を見た人達は、微笑ましい感じで言う。
「見て、あの二人。とても仲良さそうね」
「制服を着ているから、高校生かしら? カップルよね」
「いいわねー、青春ねー、すごく幸せそう」
「……」
ヒソヒソ声はしっかりとこちらにも届いていて、雫がみるみるうちに赤くなる。
笑っているような怒っているような不思議な顔をして、振り上げた手をぷるぷると震わせていた。
「かっ、かかか……」
「か?」
「カップルちゃうし!?」
「あー、はいはい。そうだなー、違うよなー」
「適当! 返事が適当!」
まともに相手をしていたら、いつまで経っても買い物が終わりそうにない。
なので、最終手段を使うことにした。
「早く買い物を終わらせて帰るぞ。おばさん、今日はカレーを作るみたいだぞ」
「カレー!? わーい、カレー♪」
大好物が夕食と知り、素に戻るどころか幼児退行を起こした雫は、にっこりと笑うのだった。
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