21話 落ち着かない
雫が投稿した賞は、年に四回、募集が行われている。
四回に分けて作品を幅広く募集して、そして、最後に大賞などを発表するという形式がとられているのだ。
雫が応募したのは、一期の締め切りギリギリ。
一次選考の結果は一ヶ月後に発表される。
今は、投稿して数週間後。
つまり、そろそろ一次選考の結果が発表されてもおかしくない、というわけだ。
「むぅ……」
その日も、いつもと同じように雫と一緒に家に帰る。
普段なら、雫は尊大な態度で高笑いを響かせているのだけど、最近はそうしない。
ソワソワ、アセアセ。
とても落ち着かない様子で、とても挙動不審だ。
ぶっちゃけ、何度か職質された。
「っ!」
マンションの入り口に到着したところで、雫が駆ける。
そして、ポストを見て……
「……はぁ」
なにもないことを確認して、肩を落とす。
選考結果の通知が来ていないか、ずっと気にしていたのだろう。
「まだなのか? まだこないのか? くっ、運命にこうも翻弄されてしまうなんて……これでは、ダークナイトトワイライトプリンセスの名が泣くな」
中二病モードを維持しているところを見ると、まだ余裕はありそうだ。
「うぅ……モヤモヤするよぉ、焦らされているよぉ……あうあう」
いや。
やっぱり、余裕はないのかもしれない。
「あうぅ、結城ぃ、不安だよぉ落ち着かないよぉ……」
「あー、よしよし」
「はううう」
中二病モードを維持できないどころか、幼児退行を起こしているような気がした。
それくらい不安なのだろう。
まったく。
いつもいつも問題を持ち込んでくれる。
幼児のように目の離せない幼馴染だ。
放っておくことができれば楽なのだけど、それもできない。
雫の元気がないと、俺もつまらない。
毎度のことだけど、笑顔でいてほしいと思う。
ホント、面倒な幼馴染だ。
まあ……俺も大概、面倒な性格をしているのかもしれないが。
「なあ、雫。明日の休み、ヒマか?」
「むぅ……? ヒマといえば、ヒマだぞ。今の我は、死刑執行を待つ身……なにもすることなんて、できることなんてないのだ」
「とことんネガティブだな……まあいい。ヒマなら、デートでもするか」
「うむ」
流されるような感じで、雫が小さく頷いて、
「……ふぁ!?」
はっと我に返った様子で、大きな声をあげた。
「え? 今なんて? え? デート?」
「デートだよ、デート。ヒマなんだろ? いこうぜ」
「……にゃっ!?」
ぼんっ、と雫が赤くなる。
それからもじもじと恥じらう。
「えっと……なんで、デートを?」
「気分転換だよ。毎日毎日、しかも一日に何度もポストを見ていたら、頭がおかしくなるだろ?」
「それは……」
「たまには、そういうのは忘れて、ぱーっと遊んだ方がいい」
「そうかも……」
少しずつ雫の心がデートに傾いていくのがわかる。
あと一押し、というところか?
「俺は、雫とデートしたい」
「にゃ!?」
「雫はどうだ? イヤか?」
「……イヤ、じゃない」
「なら、オッケーか?」
「……うん」
顔を赤くしつつ、雫はコクリと頷いた。
普段はあれだけ元気なのに、こういうことになると、途端におとなしくなるんだよな。
まったく、どうして中二病なんてものになったのやら。
「えへ」
「どうしたんだ?」
ふと、雫が笑う。
とてもうれしそうだ。
「ううん、なんでもないよ。ただ……結城とデートがうれしいから。えへ、えへへ」
「……そうか」
たまに、こういうとてもかわいいことを言ってくるから困る。
本人はなにも意識していないのかもしれないが、言われる方はとても困る。
破壊力抜群だ。
中身は中二病とはいえ……
見た目は完璧な美少女だからな。
幼い頃から一緒にいた俺でも、時折、ドキッとしてしまう。
「はっ!?」
だらしない顔をしていた雫が、キリッとした顔に戻る。
「べ、別に結城と一緒なのがうれしいわけじゃないぞ!? ただ単に、遊びに行くことがうれしいだけだ、勘違いするなっ」
中二病なのかツンデレなのか、この幼馴染、忙しいな。
「はいはい、ツンデレツンデレ」
「ツンデレ違うし!」
「なんでもいいよ。とにかく、問題ないんだな?」
「……ない。デートしたい」
そこで素直になるのは反則だろう。
「どこに行く?」
「決めてないの?」
「今思いついたばかりだからな。目的地は未定だ。雫に行きたいところがあるなら、それでいいぞ」
「うーん」
特にコレといって思い浮かばないらしく、雫は悩ましげな声をこぼす。
そのまま考えること少し。
「っ!」
ピコーン、と閃くような感じで、雫が目を大きくした。
「行きたい場所、思いついた!」
「どこだ?」
雫は、たっぷりの笑顔で言うのだった。
「温泉っ!」




