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1話 幼馴染は自称ダークネストワイライトプリンセス

 私の名前は、魔界大帝ヴァイオレット・ザ・インフィニティープリンセス。

 神々も見惚れる、花の乙女♪


 今日から高校生。

 新しいヴィクトリーロードが始まるわ。

 いったい、どんな運命の邂逅が待っているのかしら?


 わくわく。

 私の魂が歓喜と期待に震えているわ。


「って、いっけなーい。遅刻遅刻ぅ!」


 パンを咥えて全力ダッシュ。


 あーん、初日からこんなことになっちゃうなんて、私、漆黒の女神に魅入られているのかしら?

 でも、負けない。

 だって私は、輝きの円環を持つ宿命だもの。

 がんばるわ!


 ドンッ!


「きゃっ!?」


 誰かとぶつかり、転んでしまう。


「ちょっとあんた、どこ見てるのよっ!?」

「悪いな。俺の目は、片方、過去の大戦で使い物にならなくなっているんだ」


 やだ、イケメン。


 その時、私の胸の奥の魂が震えた。

 この人は……間違いないわ。

 前世で結ばれた、因果を超えし関係にある、運命の人。


 そう、彼こそは……

 竜の血を引き継ぎ、その右目に真紅の運命を宿して、その魂は闇の女神の戯れに汚されてしまい、しかし、全ての運命に抗うアカシックレコードの力を……




――――――――――




「意味がわからん」

「ぎゃあああああああああぁっ!!!?」


 ビリビリっと原稿を破り捨てると、美少女が美少女らしからぬ絶叫を響かせた。


 腰まで届く長い髪は絹のようにサラサラ。

 特に大した手入れはしていないのに枝毛もなにもないというのだから、世の女性は恨み妬むかもしれない。


 高校生とは思えないくらいのわがままな体。

 年頃の男であれば、ついついチラ見してしまうと思う。


 ただ、他のとある要素が全てを台無しにしている。

 顔が悪いというわけじゃない。

 これでもないかというほどの美少女で、17歳でありながら、魔性ともいえる魅力を有している。


 問題というのは……

 彼女のファッションセンスにある。


 腕と足に包帯が乱雑に巻かれている。

 そして、右手だけに指明けグローブ。

 極めつけに、眼帯。


 年頃の女の子とは思えない奇抜ファッションだ。

 しかし、それを好むのが、有栖川雫という女の子。

 俺、吾妻結城の幼馴染であり……そして、中二病という不治の病に侵されているのだった。


「なぜだ!? なぜ破り捨てた!? その原稿は、我が魂をこめてかきあげたもの! 言わば、我の半身。子供と言っても差し支えがない。それなのに、なぜ……!?」

「いや、つまらねえし」

「な、なんだと……!?」


 ガーン、とショックを受けたような感じで、雫は膝から崩れ落ちて、両手を床につける。


「な、なぜだ……なぜつまらないのだ!? くううう……この我は、漆黒の女神の眷属、ダークネストワイライトプリンセス! 我にできぬことなんてないというのに」


 ダークネスなんたらというのは、雫が考えた設定の一つだ。

 闇の女神がどうのこうの……いかん、どうでもよすぎて覚えてないや。

 まあ、そんな感じで、あれこれと設定を作り、のめりこみ、自らロールプレイをしている。


 そんな雫の趣味は、小説を書くことだ。

 最近になって始めた趣味というわけじゃなくて、昔から書き続けている。


 「私、絶対小説家になるんだから!」


 なんて笑顔で良い、原稿用紙と向かい合っていた。

 今はパソコン、もしくは携帯だけどな。


 俺は彼女の一番の読者であり、編集者的な立ち位置だ。

 俺なりに思うこと、アドバイスなどを考えて、彼女に告げている。


「いいだろ? どうせ、今のコピーなんだから」

「いいわけあるか! 結城よ!」

「人の名前、力強く呼び捨てにするなよ。どう反応していいかわからねーだろ」

「我が半身、ダークネスシュタインズナイトよ!」

「勝手に恥ずかしいあだ名つけるな」

「違うぞ、結城よ。これは魂の名前であり、真名という……」

「あー、はいはい。それはいいから、どうした?」

「我の書いた小説は、なにがいけないのだ? どこがつまらないのだ?」

「……センス?」

「ぐふっ!?」


 遠慮なしにストレートに告げてやると、雫は胸元をおさえるようにして倒れた。

 やばい。

 オーバーキルをしてしまったか?


 ただ、下手な嘘をついても仕方ないからな。

 コイツは、本気で小説家になることを目指している。

 ならば幼馴染である俺は、その夢を応援して……そして、全力でサポートするべきだろう。

 正直な感想を口にして、一つでも上に登れるようにするだけだ。


「ぐすっ、ひっく……」


 やばい、泣き出した。

 雫はうつ伏せのまま、ぷるぷると体を震わせて、嗚咽をこぼしている。


 これはこれで、いつもの光景なのだけど……

 いつもながら胸が痛む。

 もう少し、オブラートに包むことができればいいのだが、どうも俺はそういう性格ではないらしい。

 雫が相手だと、特に無遠慮になってしまう。


「あー……なんだ、ほら。言葉のセンスがおかしいだけで、他は悪くないと思うぞ?」

「……本当か?」

「本当、本当」


 実際のところ、雫はいい小説家になれると本気で思っていたりする。

 小さい頃から文章を書き続けているからか、文章力はきっちりと備わっている。

 たまに言葉を間違えて覚えていたりするが、それはおいおい修正していけばいい。


 それに、雫が描く物語はそれなりに面白い。

 今回の作品も、中二病全開な台詞にイラッとして、ついつい破ってしまったものの……

 それさえなければ、わりとまともなのだ。


 ありきたりなラブコメではあるが、王道というものをキッチリと押さえている。

 独りよがりにならず、きちんと読者を意識して書くことができている。

 中二病要素がなくなれば、かなりいい感じになるのではないか?


 ……と、それらのことを伝えてみる。


「むう……我に我であることを捨てろというのか?」

「難しいか?」

「無理だな。なにしろ、我はダークネストワイライトプリンセスなのだ! この身、この魂、漆黒の女神のもの。我が自分でどうこうすることはできぬ」


 まあ……中二病あってこその雫とも言える。

 普通になった雫というのは、今更ながらまともに想像できないな。


「まあ……ひょっとしたら、今の文章センスでもうまくいくかもしれねえな」

「本当か!?」

「今の時代、文章のうまさっていうよりは、作家の個性が求められているところもあるからな。雫は個性全開だ。ひょっとしたら、そこが気に入られるかもしれない」

「おぉ!」


 フォローしてみると、途端に雫は元気になった。

 一喜一憂するところも、彼女らしいと言える。


「しかし、我が投稿している小説は、ぜんぜんポイントがつかない……PVもほとんどないのだ。なぜなのだ?」

「んー……まあ、内容が王道すぎるのかもな」


 良くも悪くも、雫が書くラブコメは王道だ。

 さっきは、そこが良いというようなことを言ったけれど……

 同時に弱点でもあるのだ。


 王道の物語というものは、なにかしら目を惹くようなポイントがないといけない。

 そうでなければ他の作品の中に埋もれてしまい、見つけてもらうことができない。


 あるいは、徹底的に、とことん内容を深く掘り下げることだ。

 作品の設定を、辞書くらい分厚くなるほどに作り込むとか……

 実際に起きているかと勘違いしてしまうほどに、リアリティある描写をするか。


 そうでもしないと、なかなかに厳しいものがある。


「ふむふむ、なるほどな……」


 俺の話を聞いた雫は感心するような顔になり、こくこくと頷いてみせた。

 そのままの体勢で考えること少し。


「うむっ、閃いたぞ!」

「ほうほう、なにを?」

「我はラブコメが好きだ! 故に、ラブコメを書きたい! が、しかし、我は恋愛をしたことがない」


 そう……こんな残念な性格をしているために、とびきりの美少女ではあるが、雫に彼氏がいたことはない。


「だからリアリティに欠けている、説得力が足りぬ。そこが問題なのだ!」

「おぉ、わりとまともな意見」

「だから、その問題を克服するために……結城よ、我とデートをするぞ!」

初日だけ、3話投稿します。

2話は、19時に投稿します。

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