6.異世界へ降り立つ
やっと主人公のゲームがスタートします。長かった…。
未説明の称号、スキル等は必要になった時に順次解説します。
それから、〔管理者〕さんにスキルの使い方だとか、世界の常識的なこととか、多岐にわたり説明を受けました。大変お世話になりました。
最終的にはお金の使い方や近付いてはいけない場所なんかにも説明が及んで、神々しい美人さんが子供(幼児)を心配するお母さんみたいになってたんだが。私、そんなに頼りなさそうだろうか。
これでもリアルでは頼れる町のお巡りさんとして評判…かどうかはわからんが、おやっさん(※上司)からは『やたら勘と運が良い』とお褒めのお言葉を頂戴し…あれ、これ褒め言葉なのか?
まあうん、そんなわけでお忙しいだろう〔管理者〕さんに、かなりのお時間を割いていただいて、私は『アナザーワールド』の歩き方を理解した。…した、と思う。多分。メイビー。
説明を受ける間、ずっともふらせてもらっていた羽根付き真っ白毛玉を――ひとつ?一匹?まあひとりでいいや――ひとり【従者】として貰い受けたので、モフと名付けたり、そのモフを鑑定的使い方が出来る【使徒スキル】〈神眼〉で視たら、種族〔御使い〕でびっくりしたりしたが、まあ、うん、問題ない。
キャラネームも付けたし、使徒としての洗礼名?的名前も〔管理者〕さんにつけていただいた。
…ここまで来ると、〔管理者〕さんは運営チームの方じゃないんじゃないかな、とそこはかとなく感じなくもないが、私の魂の平穏の為、全力でスルーする。
では、異世界へ降り立とう。
まだ見ぬ景色とグルメが私を待っている!
「ログイン!」
無駄に気合いを込めてしまった私は悪くない。
微笑ましげにこちらを見る〔管理者〕さんに感謝を込めてお辞儀を返し、いざ異世界!
…ちょっと恥ずかしいのは内緒です。
まず感じたのは微風。
次に日差しと音、滲んでいた視界が晴れてゆく。靴底を通して感じるのは、固い大地。構築されていくアバター…違うな、形作られていくのは私だ。
私は異世界を旅する為に来た。ならば、この身をアバターであるとか、この世界がゲームであるとか、そんな考えは無粋だろう。
私は、私として、この世界に向き合おう。
私にとって、ここは異世界。観光地だ!
決意を新たにしたところで、いきなり目の前に開いたウインドウにびっくりする私。
なんか以前もこんな事があったなと思いつつ、
「いきなり目の前に何かが現れるとか、驚くのでやめていただきたい」
と、小さくこぼした呟きに、思いがけず反応があった。頭上で。
もふもふもふ。
私には見えんが、私の頭に乗ったモフが動いている。
わかった!みたいな思考がなんとなく伝わって来ると同時に、目の前のウインドウが消えた。
なるほど、こうやってサポートしてくれるのか。ありがたい。
パタパタと小さな羽根を羽ばたかせて目の前に降りて来たモフを捕まえて撫でまわす。
「ありがとう」
もふもふもふ!
うれしい!と私の手にスリスリと懐くモフ。愛い奴め!
あ、突然開いて私をびっくりさせたテキストウインドウは、『ようこそ『アナザーワールド』へ』的歓迎メッセージでした。歓迎感謝。
さて、暫く従者と戯れてモフモフを堪能したので、行動を開始しよう。
私が立っているのは円形の噴水のある広場、綺麗に石畳で舗装されており、ベンチやテーブルも設置された、かなり広いエリアだ。
広場の向こうには、石造りっぽい洋風の建物が並んでいるのが見えるし、噴水を取り巻く様に、何やら良い匂いのする屋台が立ち並んでいて、わくわくが止まらない。
大勢の人々が行き交うざわめき。定番のエルフにドワーフ、ケモ耳、尻尾の生えた獣人たち。
皆似たような衣装に身を包んでいるのは、私同様初ログインのプレイヤー、来訪者だからか。
次から次へ、空間から涌き出る様に人が現れる様は異様だが、私もこの『パーソナルエリア』から一歩踏み出せば、あんな風に見えるのだろう。『パーソナルエリア』は、初ログイン時、転移使用時、死に戻り時に飛ばされて来る、名前の通り一人用エリア、混雑防止の為のシステムだと〔管理者〕さんが言っていた。なので、はっちゃけるならここがいいぞ!誰も見てない、聞いてないここで上がったテンション処理してから澄まし顔でおそとに出ましょう。ストップ、黒歴史。
…しかし、目の前横切った猫耳の生えた厳ついおっさんに、誰得かと考えてしまうのは私だけだろうか。
まあうん、世の中色々な趣味趣向があるよねと思いつつ、気を取り直して異世界第一歩めを踏み出す私。
瞬間、押し寄せる情報の波。薄い膜を突き抜けた様に、一気に現実みを帯びる世界。音も、色も、匂いも。現実並、いやもしかすると現実以上の圧倒的リアリティ。
思わず立ち止まりそうになるが、いきなり停止したら周りの迷惑になると、無理やり二歩めを踏み出す。
見上げた空はどこまでも青く澄み、香ばしい何かの肉が焼ける匂いを運んでくる風に食欲を刺激され、雑踏のざわめきには聞き取れる単語が混じる。遠くで誰かが笑う声、地鳴りの様な大勢の靴音、すぐそばから聞こえる説教。
…は?なんかすぐ目の前に怒られてる人がいるんですが。地面に正座させられて、衛兵さんらしきお揃いの鎧着た方三人に囲まれて説教されてるのは、装備から見るに多分来訪者。
あなた早速何かやらかしたんですか?
女神様の正体にうっすら気付く主人公。
しかしリアルで培ったスルースキルを遺憾なく発揮する主人公…。
あ、そういえば主人公の名前どこにも載せてないな!