5.アバター完成
ようやく主人公のアバター完成。
どこからともなく、真っ白毛玉複数が青い封筒を抱えて――抱えてで良いのか?見た限り手足とか確認出来んのだが――帰ってきた。
〔管理者〕さんの手のひらの上に浮いていた、惑星『アナザーワールド』が、ふっと消え、代わりに青い封筒が展開する。
『あなた様のアバターが完成したようです。種族特性やスキル構成などをご説明させていただきます』
〔管理者〕さんの声と共に、私の目の前に白い光の粒が集まって、全身が映る大きさの鏡?の様なものが形成された。
何故疑問形なのかって?映っているのが明らかに私じゃないからですよ!
身長は私と同じ位、つまりわりとでかいのだが、私より細身のため、威圧的には見えない。
毛先だけ緩やかに波打つ長い髪は、真珠に虹の光が滲む不思議な色彩、つまり〔管理者〕さんと同じ色。
白い肌、通った鼻筋、形の良い薄い唇。綺麗に曲線を描く眉の下、切れ長の目の色は、右が金にも見える琥珀で左が蒼、藍より淡いが青より深い。
うん、派手!
え?これ私?マジで?
これただの旅人の容姿ちゃう!変に目立つの勘弁して欲しいのですが?!
『デザイナー達がかなりこだわったようですね。それぞれの主張が対立した際など、話し合いが物理的にまで発展したそうです。目の色とか』
は な し あ い(物理)。
それ話し合いじゃないですよね?
そうか、物理に発展するほどこだわってくれちゃったか…。
まあ、よく出来たアバターなのは私にもわかる。確かに派手な美形だが、作り物めいた無機質さとか冷たさの見受けられない穏やかな容貌。デザイナーの方々のこだわりが伝わって来る。派手だけど…派手だけど!
だが物理的話し合いの話を聞いてしまった今、ちょっと派手過ぎるので変更して欲しいとか言い出せない。特に目の色。
じゃああれだ!パッと見一番目立つ髪色を地味な茶色とかに変えて、長さもすっきり短くしてもらおう。それならめっちゃ浮いたりはしないはず。
『わたくしの申請が認可されたので、髪色は白虹、〔創世神の使徒〕特有色。職業を神官系に設定したので、長髪となっています』
だめだこれ、どこも変更きかないやつだ…。
遠い目になる私。
『では、『ステータスオープン』と唱えてください』
「…ステータスオープン!」
ちょっとなげやりになってしまったのは仕方ないと思います!
そして突如目の前に現れた半透明の板にびっくりする私。光の粒が集まって形になるとかの演出はないんですか?ないんですね。
名前:〔未定〕 種族:猫妖精 レベル:1
メイン職:神官〔創世神の使徒〕 サブ職:旅人
HP:9/9 MP:20/20 EP:21/21
腕力:1 体力:2 敏捷:3
器用:3 知力:12 精神:6 幸運:214
【従者】〔未定〕
【称号】《世界の恩人》《神々の祝福》《慈悲の化身》
【種族スキル】〈猫の体捌き〉[常時擬態:ヒューマン][幸運を告げる猫][猫妖精の耳]
【使徒スキル】〈神託:創世神〉〈神眼〉〈神聖魔法〉
【称号スキル】[世界の守護]〈降臨〉[経験値取得増加]
【職業スキル】魔法系〈回復魔法〉〈聖属性魔法〉 特殊系[収納上手]
【スキル】補助系[魔力消費軽減]〈歌唱〉〈楽器演奏〉 魔法系〈妖精魔法〉 特殊系〈全力全開〉
※[]内スキルは自動発動スキル、〈〉内スキルは任意発動スキル
突っ込みどころは多々あるがとりあえず、幸運値バグってない?
そして種族。猫?私、猫ですか?
『ご確認いただいたように、あなた様の種族は〔猫妖精〕、幸運を振り撒く猫型の妖精です。成体になると、種族特性的に定住を好まず、各地を放浪して巡ります。この種族特性が、幸運と不運の偏りの調整に有効なため、運命を司る〔創世神〕の加護が付く事が多いので、聖職者からは丁重に扱われます』
招き猫かな?
まあ、何処の地域にも神殿はあるって話だし、大事に扱って貰えるなら招き猫だろうが灰だらけ猫だろうがかまわな…すまんやっぱり灰だらけは嫌だ。なんかこう、全身かさかさになりそう。
とにかく、デメリットとかなさそうで良かった良かった。
『しかし、幸運を我が物としたい権力者や犯罪組織から狙われ続けたため、個体数が激減してしまいました。〔猫妖精〕は魔法は得意ですが体力は少ないので、多数で時間をかけてじっくり追い込めば捕獲は難しくありません。そうして多くの〔猫妖精〕が奴隷に落とされ、ストレスにより衰弱し、死を迎えました』
デメリットォー!めっちゃあったよデメリット!
レベル1の来訪者猫妖精が、奴隷狩りから逃げ切れるとは思えん。
あれ、おかしいな?ゲーム始める前から詰んでいますよ?
『スキル〈神託〉により、眷族の〔猫妖精〕から状況を知った〔創世神〕は、事態を重く見て[猫妖精]へ二つの種族スキルを授けました。[常時擬態]、[幸運を告げる猫]です。[常時擬態]は別種族に常に擬態を行うパッシブスキル、上位の〈鑑定〉スキルでも見抜けません。[幸運を告げる猫]はもともとの種族スキル、無差別に幸運を振り撒くパッシブスキル[幸運を招く猫]に『自身が好意を持つものに』という条件付けを加えたスキルです。結果、彼等を奴隷としていた多くのもの達は幸運に見放され破滅し、生き残った〔猫妖精〕達は解放後、擬態により他種族に紛れて生きています』
開始即詰みは免れたようです。
しかし種族の歴史が重い!猫なのに。猫はもっと気楽でいいと思う私。
だがあれだな、事態はあまり好転してないんだろうな。〔管理者〕さんも〔猫妖精〕を奴隷としていた多くのやからが破滅したと言った。全て、ではなく。
[幸運を告げる猫]の条件付けには穴がある。『好意』なんてさ、結構簡単に抱くものだろ?
例えば、手でも足でも失って一人では生きるのが困難になったとして。甲斐甲斐しく世話を焼かれたら。親身になって話を聞いて、優しく励ましてくれるその人に、好意を抱かないでいられるだろうか?
無理だろう。少なくとも私はころっと落ちる。
種族バレ、ダメ。ゼッタイ。
よし覚えた。監禁されて喜ぶ趣味は私にはない。そもそも旅をするためにしているゲームで監禁って、ログインしなくなる待ったなしですわ。
だがまだゲーム始められない…。
いつになればタイトル回収出来るのか…。