2.〔管理者〕にサポートを約束される
キャラクリまでいかなんだ…。
目を開くと、そこは宇宙だった。
正確に言えば、宇宙空間っぽい見た目の、緑に光るグリッド線で囲まれた広い部屋、昔の宇宙戦争もののアニメに出てくる、艦隊運用を俯瞰で見渡せる戦略シミュレーションルームっぽい場所に、私は立っていた。
一言で言うなら、すごくSFです。
あれ、このゲームファンタジーって聞いたんだけど、気のせい?
私、艦隊指揮とか汎用人型兵器の操作とか、全く出来る気がせんのだが。
と、少々困惑していたその時、立ち尽くす私の二メートルほど前方に、光の粒だか白い粒子だかが集まって、一人の女性の姿を形作る。
ギリシアのトーガを複雑化した様な純白のドレスを纏った、まさに女神様!といった容姿のその女性は、真珠色に七色の光が揺れる、優しげな瞳を私に向け微笑んだ。
『ようこそ『アナザーワールド』へ。ここは『アナザーワールド』へ降り立つあなた様の分身、アバターを作成する為の空間です。わたくしはあなた様のアバター作成のお手伝いをさせていただく〔管理者〕です。そして』
〔管理者〕と名乗った女性は、私に深々と頭を下げる。
瞳と同色の長い髪がさらりと肩からこぼれる様が幻想的で、ため息がこぼれるほど美しい。
『あなた様がわたくし達の世界を守って下さったことに、深い感謝を。『アナザーワールド』に携わるもの全てが、あなた様に助けていただいたこと、けして忘れません。いつかご恩に報いさせていただきたいと、わたくしをはじめ、皆も申しております。本当に、ありがとうございました』
ああ、この方は運営チームの人なのか。
まさか全ユーザーひとりひとりに運営チームのサポートが付くわけない、というかそんなこと出来んだろうから、わざわざ私の手伝いに来て下さったのだろう。
このゲームの関係者の方々は、本当に律儀だ。
どちらかと言えば下町にある私の部屋まで、なんと社長さんが菓子折持ってお礼に来て下さったし。やり手というより、優しそうな壮年の男性だったけど、何か纏う空気というか、オーラというかが違ったな、やっぱり。
あと、私のマンションのエントランス前に停まったリムジンのオーラも只事ではなかった。通行人が皆二度見してた。
そんな律儀で誠実なゲーム関係者の方々に、最近のゲームとかさっぱりわからんと伝えてあるからな!
まあそりゃサポートの方来て下さるよね!あれ、私、良く考えなくてもすごくめんどくさいユーザーじゃね?あれ、私、機材からソフトから好意でいただいたものを使用してるだけで、現在何一つ先方の会社の利益に貢献してなくないか?それユーザーって言わないんじゃ…。
だ、大丈夫、ゲーム機材とソフトこそ頂き物だが、月額ゲーム利用料とか課金要素追加とかは、頼み込んで自己負担にしてもらったから!
これからしっかり貢献してく所存だから!
「〔管理者〕さん、頭を上げて下さい。こちらこそ、皆様の至宝であるこの世界に招いていただいた事に、心よりの感謝を」
なにせ、自分の命をついでとか言っちゃう方々の、“メインの方”なので。
「皆様のお気持ち、受け取りました。ですが、私は私の出来る事をしただけです。そして、お礼でしたら十二分にいただいておりますので、どうか恩などと難しく考えず、気楽に接していただければ幸いです。皆様がご無事で本当に良かった」
私も大人なので、表面上穏やかに言葉を返す。
心の中は嵐だが。
『ありがとうございます。あなた様にそのようにおっしゃっていただけて、わたくしども一同、感謝の念に絶えません。あなた様が望まれるのなら、表立った恩返しは控えるよう皆に通達いたしますが、わたくしどもの世界にて、あなた様が心地よくお過ごしいただけるようサポートする事はどうかお許し下さい』
うん、まあそれくらいなら。別に特別扱いは要らんが、私、VRMMOとか、聞いた事はあっても何の事かは知らんかったし。放り出されたら何をすれば良いかもわからんので、正直運営チームの方のサポートはありがたい。
べ、別に私、時代遅れの化石じゃねえし!ちょっと、あくまでちょっとだけ機械類に疎くて、ゲームとか疎遠だっただけだし!
「ありがとうございます。実はオンラインゲーム自体、こちらが初プレイなので、サポートしていただけるのは本当にありがたい。では早速ですが、私のアバター?の作成を貴女にお任せしてもよろしいでしょうか?お手数をおかけして申し訳ありませんが、何をどうすればいいか、私には全くわかりませんので」
必殺、丸投げ。
私がやったことのあるゲームはと言えば、ドラゴンな冒険の旅とかファイナルな幻想譚とかのオフライン専用版。
ストーリーがあり目的があり、何より主人公のキャラクターは既に出来上がっており、名前さえ付ければ直ぐに始めることが出来るというお手軽感が私に合っていたのだろうと思う。
いちからのキャラクター…じゃないや、アバタークリエイトめんどくさい。
ちょっとこのゲームの取説眺めてみたけど、種族とかステータスとかスキルとかその他諸々、決めなきゃいけない事多すぎるし、更にそれらが複雑に影響しあう、奥深いシステムなんですって奥さん。
うん、私には無理。根気的に。
故に、お任せさせて下さい。宜しくお願いします。
主人公は運営チームの誰か(中身入り)だと思ってる女神様はAIです。
そして、ガチで女神。