19.街へ帰還する
大変お待たせ致しました。
最近どこで切るかが悩みの作者、今回もまた大変ボリューム大のうえ、わりと中途半端なところで切れている感の強い19話でございます…。
妖精の森キャンプの一週間は、騒がしく楽しく忙しなく過ぎ去り。
アレフガルドにお帰りになった日からきっちり一週間後に再び妖精の森を訪れた女王陛下より、予定通り完成したらしい時空間魔法付与の特注鞄を下賜された私は、女王陛下用に包んだ甘味各種を献上、ありがたい事に大層喜んでいただいた。
女王陛下も甘味を好むとこっそり教えてくれたメルヘンジャーピンクさん、私の量産した菓子の中から、レア度が高い物を選んで確保してくれたレッド君にブルー君、ありがとう、ありがとう。
イエローとグリーンの双子には…うん、まあ、ことあるごとに色々と邪魔…愉快なイタズラで楽しませてもらいました。
そしてつい先程、女王陛下含め妖精達皆に名残惜しまれつつも、お礼を述べて妖精の森を後に。
道なき道を越え、石畳の街道へ。
そのまま森をぬけ、風渡る草原に延びる街道を歩みつつ、忙しなかった妖精の森での一週間を振り返る。
神器であるキャンプセットの特性“偏在”を活用して、呼び出しまくった銀木犀の花妖精の絹女中達と共に好評だったルバーブのジャムを量産したり、小羽妖精達と妖精魔法の練習という名目で遊んだり、石窯を作成して果物と蜂蜜のピザを焼いたり、泉の乙女達にリュートの演奏を習ったり、妖精郷産小麦粉とバターでクッキーを焼いたり、犬妖精に埋もれて昼寝をしたり、野生種のレモン?グレープフルーツ?…うん、シトラスでいいや、シトラスを見付けて砂糖漬けにしたり、仔猫妖精達+従者二人をもふったり、ここ妖精の森産金色林檎と鶏卵そっくりの実を付けるファンタジー植物『玉子樹』の実、そして妖精郷産小麦以下略でアップルパイを焼いたり、小羽妖精族長達と森を探索して写真や動画を撮ってレイ・ラインから〈審神〉でクロへ送ったり、妖精郷産以下略生地に砂糖漬けシトラスのスライスを乗せたパウンドケーキを焼いたり、土妖精達と鍾乳洞を探検中に助けた小さな魔物に懐かれて連れ帰ったり、その魔物からもらった素材で各種ゼリーやプリンを作ったり。
…あれ、ログイン時間の半分くらいは甘味を作成していた気が。
冷静になった今振り返れば、甘味の材料をいただく→甘味量産→妖精達に振る舞う→喜ばれてとっておき素材(甘味)を教えてもらい、皆で採集へ→道中得た素材も含めて新作甘味作成→振る舞う…という無限ループに陥っていた事がわかる。
道理で〈料理〉スキルががっつり上がったうえ、種族レベルもアップするわけだ。
私、“普段移り気な癖にはまると極めるタイプ(兄の言)”らしく、気付いたらテントの前の広場が複数の石窯や調理台、コンロとオーブンと水道を備えたキッチン複数(偏在)等がずらりと並び、その間を絹女中達やピンクさんをはじめ、この一週間の間に〈料理〉スキルを取得した妖精達が忙しなく動き回る青空厨房になっていました。
そしていつの間にか料理中はデザート主任と呼ばれていた私。解せぬ。
…うん、まあ〈料理〉スキルで計量や泡立ても簡単、かつ“発酵促進”とか“熟成”とかで時短が出来る上に、〈水魔法〉上位スキルの〈氷魔法〉を取得したので冷却も自在だし、つい楽しくなってリアルでデザートレシピ調べて青空厨房の皆で再現してみたり、アレンジしてみたりして、少なくないデザートを〈レシピ〉登録したのは確かだけども。
真面目な話、この『アナザーワールド』の料理のハードルは、リアルより大分低い。
リアルでは面倒くさ…あまり料理が得意とも好きともいえない私が、うっかりお菓子作りにはまってしまうくらいには。
ちなみに、ハードルが低い理由としては、簡単な加熱や冷却なら機材なしでも出来る魔法スキルの存在や、〈料理〉スキルの促進系時短その他サポート、そしてゲーム的仕様――アイテム消費扱いで皿に残ったソースや出涸らし茶葉が消失するので片付け要らずなのと、インベントリに収納した調理器具や食器は自動洗浄されるので、洗い物もない事――ももちろんだが、一番の理由はスキル〈レシピ〉の存在だろう。
〈レシピ〉は、生産系の汎用スキル。
一度作成に成功した製作物を“登録”出来、登録したレシピは次回以降任意で“使用”出来るというシンプルな、しかし生産者には必須のスキルだ。
例えば、バターを小麦生地に挟んで幾層にも折り込んで作る、いわゆる“折りパイ”の生地を作るのはかなり面倒なのだが、一度作成を成功させればスキル〈レシピ〉へ“登録”し、二度目以降この〈レシピ〉を“使用”すれば、工程が大幅に簡略出来るという親切仕様。
ちなみに、この〈レシピ〉スキルは、『ひたすら捏ねる』とか『幾重にも折り込みつつ伸ばす』という工程を省けるというあくまで“簡略”であって、スキル〈レシピ〉と材料と設備があればプレイヤーは手を触れなくとも一瞬で料理アイテムが完成する私の知っているRPGとは違い、“アイテム作成”ではなく“料理している”感が強いため、リアリティも損なわれず良いバランスだと思います。私見だが。
あれだな、このゲーム――今はあえて『ゲーム』と言わせてもらう――のリアリティ追求とゲーム的利便性のバランスは、多分随時こんな感じ、〈スキル〉という便利機能のあるリアルファンタジー、みたいな。
そんな感じでリアルでは面倒…時間がなくてあまり凝った料理等作らない私も、この世界では簡単・短時間で調理可能な事と、この妖精の森の住人達の様に食材を料理するという文化がない地域もある事を鑑みて、私の『この世界でやりたい事リスト』に料理が加わりました。美味しい物食べたい。
そしていつの間にかサブ職が“旅人”から“パティシエール”に変わっていた件。
どうやらしかるべき手段をとらんと転職できないメイン職と違って、サブ職は簡単に変更出来る様だ。
あ、任意で切り替えも出来る。
…うん?付随スキル等はサブ職を切り替えても使えるっぽいな。
…このサブ職切り替え機能、何か意味があるのか?
リアル基準だとメイン職が職業でサブ職は趣味枠ってところだろうか?しかし趣味のパティシエール…“デザート主任”て、一体どこの所属なんだろう。趣味枠とは少し違うのか?
……………。
うん、まあいいか。サブ職の仕様とかわからなくても困らない。多分。
別に私、検証好きって訳じゃないし。
え?あんなに世界の仕組の解明に生きるとか騒いでいたのに仕様の検証は良いのか?
ゲーム的仕様の検証と世界の謎の追求は別物なんですよ!
美味しい鯖味噌煮の隠し味発見と謎の古代遺物の解明くらいジャンルが違うんですよ!
私のロマンは鯖味噌ではなく古代遺物にあるんですよ!
いや、鯖味噌美味しいけども。
キャンプセットに使っても無くならない調味料のセットと圧力鍋?的魔道具があったから、ログアウトしたら骨まで食べられる鯖味噌のレシピをGo○gle先生にきいてみて、こっちで作って食べようと画策しているけども。
どんな流通システムを採用したらそんな事が可能なのかはわからんが、冷凍でも塩漬けでもない、なかなかの鮮度の生の鯖が始まりの街(仮)の中央商区、食材商店通り(仮)で売っていた記憶があるので、神殿へ帰りがてら買っていこうと思います。
ついでに流通経路訊いてみよう。
まあ、買って帰ったからといっても、すぐに食べられる訳ではないのだが。
神殿の厨房を借りて魚を煮る料理をするのは大人としてちょっとアレだし。
クロの夢の中で鯖を煮たら怒られるだろうか、という考えもちらりと脳裏を過ったが…うん、駄目だな!勇者と魔王の決戦場――しかも荘厳な神殿――が魚臭いとか微妙すぎる。
次に街の外に出た時に作ろう。鯖味噌。
来訪者のインベントリの中は時間が止まっているので無問題のはず!
そんな事をつらつら考えつつ草原を抜け、西門へ近付くにつれて、私の耳に門を出入りする人々、そして一部動物やテイム済みらしい魔物が放つ喧騒が飛び込んで来た。
「……」
「いや、“従魔”以外の魔物は、街に入れられないっス。隣の事務所で仮登録して、3日以内に所属に届け出すれば問題ないっスよ」
「……」
「主従じゃなく対等な友達で相棒だから、“従魔”じゃないって、それはそうかもだけど…。街の規則っスから、ちょっと俺に言われても」
「……」
「や、ジュンが信用出来ないわけじゃねっスよ!よく奉仕活動してるのも知ってるし、衛兵の訓練にだってよく参加してくれるし、口数少ないけどアドバイスも適切って若い奴等に好評っス!お陰でほとんどの衛兵は今やジュンの声を聞く為に〈地獄耳〉スキル持ち!ジュンは兵舎のアイド…じゃなくえーと、そう!街の治安に十分貢献してるんスから」
「……」
「うぐっ!上目遣いで涙ぐむの卑怯っス!ただでさえ【業】超過の一件で『威圧していじめた』って俺だけ風当たり強いのに、また泣かせたって更に強まる!もう暴風っス!だいたい隊長とレイヴン先輩だっていたのになんで俺だけ!」
猫耳スキルが仕事をしているのか、喧騒の中なのにやけにはっきり聴こえるなんとなく聞き覚えのある声が、こころなしか記憶にある出来事について嘆いているが、私に“ジュン”なる知り合いは居ないしきっと関係なかろう。
それに、なんだか厄介事の気配がするのでスルー。
現在時刻は午前10時。街の四方にある大門は午前6時に開いて午後7時に閉まるので、今西門は大きく開いていて、結構人通りがある…のだが、皆足を止めて街道脇で繰り広げられている一件に野次馬…注目している様だ。暇なのか。
まあいいか、他人は他人、私は私。
朝市は終わってしまっただろうけど、商店は開いている時間だ。新鮮な鯖他色々買い物をせねばならんから私は暇じゃないし、と人の間を縫って進むが、
「ジュン?!ちょ、どこ行くっスか?!」
遠くから掛けられた焦りを含む声と同時に、くん、と袖を引かれ、びっくりして立ち止まる。
見下ろせば、結構長いのに不思議と邪魔にならない神子衣の右袖を遠慮がちに握っている、金属の光沢を持つ銀の目と髪のちっさ…小柄で硬質な美貌の少年が。いつの間に。
プレイヤーメイドと思われる皮らしき素材の部分鎧は艶消しの黒、身体の要所のみ覆う左右非対称な作りだがシンプルでスタイリッシュ、レア度もなかなか。鎧下?は幾何学模様の刺繍の入った不思議な光沢のあるシルバーグレーのアオザイ風、ズボンは鎧と同様艶消しの黒。もっともズボンは上衣が膝下まであるので、ちらりとのぞく程度だが、品質を視るに妥協はない。
鎧も服もぴったりと身体に沿うデザイン、オーダーメイドだろう。人形の様な美貌に良く似合っている。
しかし今、その切れ長だが大きな銀の目に溜まった涙が決壊しそう。
結論:お姉様方に好まれそうなビスクドールの様な美少年。表情筋がほぼ仕事放棄しているが、目は口より遥かに物言う小動物。
「あああっ!聖者様!白の聖者様じゃないっスか!お帰りなさいっス!」
そして銀色の少年を追う様に賑やかにあらわれる、人懐っこい大型犬を彷彿とさせる鎧姿の青年。
大作りで繊細さは欠片もないが、各パーツがバランス良く配置されたくるくると表情の変わる顔。そんなに彫りは深くないので、日本人にも親しみやすそう。かなり大柄かつがっしりした体格含め、欧州系アメリカ人的容貌と言えば伝わるかな?
麦の穂の様な金髪はすっきり短く、爽やか体育会系?春の空の様な薄い青の目は少し垂れており、優しそうと見るか頼りなさそうと見るか、意見が別れそうだ。
街の衛兵さんの揃いの鎧はまだ新しいのかピカピカだが、不思議と着られている感もなく良く似合っている。
結論:犬っぽいところが気にならなければなかなかのイケメンではなかろうか。
はい、いずれも知り合いですね!
来訪者との出接点がなさすぎて、なにげに私の唯一のフレンド(!)たるはぐれさんと、来訪初日に隊長さんに拳骨食らっていたわんこ系青年衛兵さん。
あれ、衛兵さんに呼び止められてるはぐれさんと、通り掛かって巻き込まれる私の図って、なにこれデジャヴ?
というか、さっきから愚痴っていたのはわんこ衛兵、貴様か!
そして何だその『白の聖者』って。一応振り向いても誰も居ないし、ひょっとしてそのただただ恥ずかしい呼称は私の事ですか?
あと、私に向かって膝を付いて礼を取るな!それ騎士が王侯貴族とかにする最上位の礼だろう!
そして周りの人々は指をささないで下さい!
人々の視線が痛いので、西門の脇に設けられている衛兵詰所に場所を移しました。
「それで、今回は何が問題なんだ?」
「…西の森、奥で…出会って、戦って、仲良くなった…ともだち…。自分に、ついてきてくれるって…」
相変わらずちっさい声でぼそぼそ喋るはぐれさんの視線の先、衛兵詰所の窓の外に鎮座するのは大きな白い犬…ではなく“エルダーウルフ”。西の森の魔物の2大勢力(抗争中)のベアー系とウルフ系の魔物、そのウルフ系の頂点に君臨する魔物であり、どうやら唯一個体らしい。
抗争中なのに首領が西の森から離れて良いのか?と思ったそこの貴方。私もそう思ったので、詰所に入る前にご本狼に聞いてみました。猫耳大活躍だな。
触れていた方が思念伝達はしやすいので、それを口実…理由にその毛量の多いちょっと固めの毛質をもふらせてもらいつつやり取りをしたところ、長年の宿敵だったベアー系魔物“オーガグリズリー”の特殊個体、通称《赤鬼熊》が最近討伐されたらしく、もう自分が居なくとも西の森のウルフ達はやっていける、むしろ次代の首領を育てる為には自分の存在は邪魔だと考えていたところに強者があらわれ、決闘したが引き分けた。
そんなはぐれさんに“導きの星”を見出だしたこのエルダーウルフさん(雌でした。もふるのをやめる気はないが、お腹と尻尾をさわるのは泣く泣く遠慮しました)は、ついていく事にしたそうです。
うん、情報量多いな!
まあ、ゲーム的に考えれば、赤鬼熊とやらが倒された事でフラグが立ち、何らかの条件を満たすと“テイム”が出来るユニーク個体なんだろうな。
そんな無粋な事、口には出さんが。
あと気になるワード“導きの星”、これは『アナザーワールド』における“運命”の表現で、あまねく星の化身であり、運命を司る神でもある創世神アルカディア様から賜った転機、という意味だそうな。
もっとも、既に慣用句となっているので、『私は○○に導きの星を見た』という様に割と気軽に使われているらしい。ナンパとかに。おい、神様ナンパのダシにするな。
そしてアルカディア様、星神様だったんですか?私、アルカディア様の使徒始めて一週間オーバーなんだが、初めて知りましたよ?
あれか、だから大聖堂の天井には神話的彫刻でなく良く反射する輝石で満天の星が描かれているのか。
ちなみに、天空より上の空…宇宙だな、これはマナ濃度が高過ぎて他の物質…例えば酸素等が存在しないため、基本温度は氷点下、重力も水も光もなく、少なくともこの星の生物の生存には適さないのがわかっており、“空の果て、死の空間”の意を込めて“空の終焉”とも呼ばれているとか。
…うん、マナでいっぱいで、呼び名が終焉って、それ破壊神様ですよね?
星の化身の創世神様、宇宙の化身の破壊神様…違うか、二柱は元々同一存在で、破壊と創世の後別たれたのだろう。だってクロがアルカディア様を“我が半身”呼びしてたし。
だから原初は惑星含めた星…物質及び物理法則担当、陰陽でいうところの“陽”の神アルカディア様、マナ…魔素やら魔法、精神領域等物理法則外のあれこれ担当、“陰”の神クロ、って感じだったのだろうと推測。うん、そこはかとなく日本神話的。
もっとも、今は二柱が司るのは“運命”と“天罰”…ざっくり言えば《因果応報原則》と全体の取り纏めだけで、他の権能は数多の神々が分割して担当していると、アルカディア様とクロから世間話的に聞いている。
アルカディア様曰く、『主なる神々7柱が下位の神々にうまく役割を割り振ってくれたので、来訪者の皆様が多少羽目を外されても大丈夫です』クロ曰く、『うむ、もう処理落ち寸前まで稼働する必要はないな』…『アナザーワールド』初期、ブラック疑惑。
まあ、今は大分ホワイトな様で良かった良かった。過労死ダメ、絶対。
いや、AIは死なんけど。
大分話が逸れてしまったが、つまりは。
「はぐれさんとエルダーウルフさんは夕焼けの河川敷で殴り合った不良少年よろしく互いを認め合い、熱い…違った篤い友情を築いたわけだが、そんな2人の前に街の規則という名の理不尽が立ち塞がった!…と、いう事でいいか?」
「…ん。おおむね、そう。親友と言っても、いい…。だから、従魔…違う」
「なるほど?」
「いやこっち見られても困るっス!
“ヒト種に従属していない魔物を街中に入れない”、“従属済みの魔物は必ず“従魔登録”をする”ってのは、街の治安維持の為の規則なんで、俺にはどうにも出来ません。というか、街中に入った従魔登録のない魔物は無条件で冒険者や衛兵の討伐対象なんスよ…」
ああ、うん。まあ、魔物って野生動物みたいな扱いで、かつ動物より強い生き物だしな。そんなのが野放し状態で街中にいたら、武力なしの住人にはかなりの脅威だろうし。
現にゲーム設定的に最弱の魔物であろうすぐ外の草原の角兎ですら、低レベル冒険者(来訪者)を死に戻りさせていたりするのだし。
あれだ、野良魔物が街に侵入=リアルで野生の熊が人里に乱入した様なものと考えれば…うん、少なくとも大捕物、最悪大惨事。射殺も已む無し、と判断される事態ですね!
わざわざ従魔登録しなきゃならないのは面倒だが仕方ない。
そもそもテイムの有無なんて、それなりの技量の〈鑑定〉持ちでもなければわからんのだ。つまり、従魔登録前のテイム済魔物と野良の魔物との区別がつかんという事で、治安維持側の把握と責任の所在確認の意味でも従魔登録は必須だろうし、まあ妥当だろうな。
まして今回の対象は、西の森で最強(多分)、ユニーク個体のモフモf…エルダーウルフさん。
いくらはぐれさんに人望があっても、登録無しで通行許可なんざ出んだろうな、と納得する私。
「あと、この規則は街のヒト種の心身や治安だけじゃなくて、個人に従属している魔物…“従魔”を『ヒト』から守る為のものでもあるっス。
野良の魔物は基本討伐自由だけど、誰かの“従魔”として登録してある魔物を害した輩は『他者のものを損傷した』っていう扱いで“犯罪者”になってお縄っスから。
さっきジュンはこの街が駄目なら他の街に行くって言ってたけど、これ割と原則的な部分なんで、多分どこの街でも変わらないんじゃないかと思うっス。
だからジュン、後生なんで!他の街に行くとか言わないで、従魔登録して欲しいっス!俺を助けると思って!」
説得通り越して懇願されているはぐれさん。
しかしそれより遥かに気になるのは、私とはぐれさんの視線の先でほぼ半泣き土下座状態のわんこ衛兵さん、先程自己紹介し合ったのだが、エリック君というそうだ。なんと御年18歳、しかも小隊長だそうな。さては貴様エリートか!全然そうは見えんけど。
まあ、初対面から若そうだと思ってはいたが、まさかはぐれさん(リアル)より若かったとは!いやはぐれさん(リアル)の年齢知らんけど、ゲーム規約の仕様上二十歳以上は確実。
え?はぐれさん(『アナザーワールド』内)の年齢?
2ヶ月と8日だそうですよ!
あれだ、ベータテスト、クローズドが1ヶ月、オープンが1ヶ月だったらしい。はぐれさん、クローズドベータから参加してるのか。道理でゲーム開始初日からレベルが高いわけだ、…ではなくて。
はぐれさんの見た目はどう見ても十代前半、きっとはぐれさんは真面目に誠実に真実を答えているのだろうけど、それ私の様な来訪者にしか解りませんよね?
はぐれさん、わんこ衛…エリック君はじめこの世界の方には、ちょっとイタい厨二びょ…夢見がちな子に見えている。確実に。
だって自己紹介以降衛兵さん達の目線がぬるいんですよ!
リアル基準だと高校生(!)なエリック君からも『しょうがないなあこの子』って慈愛の眼差しを向けられている二十歳オーバー。
いやまあ、ドン引きされてないだけマシかも知れんが。
そしてそれに気付いてなさげなはぐれさん、割りと天然ですよね、貴方。
あ、私は年齢申告しておりません。
2人よりは上だと言ってごまかしました。この身体の設定年齢聞いてない事に今更気付いたので。
見た目から二十代後半くらいだとは思うが、今度アルカディア様に聞いてみるか。…うん、忘れる予感しかしないな!
ちなみに余談だが、衛兵として働ける最低年齢は成人と見なされる16歳から。この世界、成人早いな…。
14歳から受けられる適性試験に合格すると衛兵見習いとして兵舎入りし、2年間、領主と神殿(!)が共同運営?する士官学校的施設(魔物や野盗の討伐等実戦多数あり)に通いつつ、兵舎の雑用等を熟しながら衛兵の仕事を間近で学ぶ。
そして卒業と同時に衛兵見習いから『見習い』が取れ、晴れて『衛兵』を名乗れる様になる、らしい。
なので、来訪者から見れば未成年な18歳のエリック君だが、14歳からしっかりと訓練しているらしくレベルが高い。50に届きそうだ。
称号効果で出会い難い私は忘れがちだが、『アナザーワールド』には魔物や、ヒト種を敵視する魔物がそこかしこに存在する。
なので、この世界でヒト種が生きるのには、どうしても武力が求められるのだ。うん、世知辛い。
そんな世界で“衛兵”は、モンスターの群れからも、武力持ちの悪人からも、酔っ払って暴れる冒険者や意味不明な言い分で横暴に振る舞う来訪者等アホども…あー、えっと、価値観が一般から逸脱している状態のヒト種からも、街とそこに住む人々の身と治安を守らなくてはならないので、誰よりも高い武力が求められる。
役割的に強くなければ務まらない仕事なので、エリック君のレベルにも納得なのだが、そうすると来訪者の中では高レベルだが、衛兵さん方の平均より低レベルなはぐれさんが、兵舎でバイト指導員?をしている理由がわからん。
「え?いやいや、ジュンは衛兵の指導員として来てる訳じゃなくて、むしろ衛兵の使うスキル〈手加減〉を教えて欲しい、って学びに来てるんス。
…まあ、それは割りとすぐに覚えちまったんで、今はその〈手加減〉スキルを使って対人戦の訓練というか、若手や見習い衛兵との組み手なんかを中心にしてるんで、指導してると言えるかもっスけど」
「…対人戦、勉強に…なる…。楽しい、し…」
楽しそうに頷くはぐれさん。
うん、貴方対人戦大好きだものな。
「だが私の視る限りはぐれさんよりその若手?衛兵さん達の方がレベルは高い様だが、指導出来るのか?」
「…ん。レベルが、全てじゃ…ない、から…」
「まあ、確かにレベルが上がれば身体・精神的能力は上がるけど、技量や咄嗟の判断力や対応力なんかは別っス。ジュンは技量もですが、咄嗟の判断力やら対応力やらその他諸々の能力も異常に高いんで、多少のレベル差はものともしませんし、他人の動きを見てどうすればより向上するかを見極めるのも上手で助言も的確にしてくれるっスから、愛され…あー、慕われるんです。あと、ちまくて可愛グフっ…!」
「…ちまく、ない…!」
咄嗟の判断力と対応力…ああ、純粋にプレイヤースキルというやつか。
はぐれさん、実は何気にトッププレイヤーらしいから、それは凄く高いだろうな。
そう、それは妖精の森での事。ふいにぽっかりと時間が空いた私はふと、そういえば他の来訪者達は今何をしているのか、と思い立って、モフに頼んで幾つかの掲示板を見せてもらったのだ。
攻略板?や考察板?とか職業板?なんかが賑わっているらしい。まあ、私には関係ないから見てないけど。
雑談板?もたくさんあり、ちらっと覗いただけだが、他の来訪者達も非常に楽しげにこの世界を謳歌している様子が見て取れた。
そうそう、旅人の集う“異世界○るぶ編集局”っていう団体の掲示板“る○ぶ アナザーワールド”っていうスレッド?を見つけました。そのタイトル著作権的に大丈夫なのかと思わないでもないが、その活動はこの世界の見処というか観光名所?や土地の食べ物の写真とコメントを募ってまとめ、旅行雑誌風に編集しているという、まさにそのものなので、まあ分かりやすいし、いいかなと。一応伏せ字にしてあるし、運営に削除されてないって事はOKなんだろうなと。いや、私著作権まわりの取締り担当したことないんでよくわからんのだけども。
私も妖精の森や土妖精の鍾乳洞等で撮ったSSを投稿してみたり、投稿されていたいい感じの裏路地のSSを眺めたり、見た目がアレな料理のレポートを読んでみたり、楽しませていただきました。
じゃれついてくる毛玉二人を構いつつ、お茶を片手に、他にもあれやこれや色々なスレッド?を眺めていた私。途中までは非常に楽しかったのだが…、
はぐれさんはどうしているだろうか、と思い立って、モフに調べてもらったところ、なんと“有名人板”にはぐれさんについて語るスレッドが!
なんか“個人最強プレイヤー”とか、“中身入りのエリアボス”とか説明されてて二度見した思い出。
まあ、その後モフに『あるじのもある!』と“謎の白猫仮面神官を探すスレ”を見せられて飲んでいた茶を吹いたので、正直あまりインパクトはないのだが、はぐれさんの戦闘力が非常に高い事は理解しました。
現に今エリック君の脇腹?にねじ込んだであろう攻撃も、私の目には捉えられなかったし、流石は最古参かつソロ最強来訪者。
だがすまんはぐれさん、私もはぐれさんはちっさいと思います。
多分主人公はもう二度と見ないが、いつか書いてみたい、有名人掲示板。
めっちゃ難しそうだけど…。




