18.キャンプ
大変、大変長らくお待たせしました!
どこで切ったらいいかわからんかったので、今回も大変ボリューミーでございます…。
猫妖精は幸運猫とも呼ばれ、種族スキルとして一定以上の好意を持つ――多分住人の方々には、個人ごとに友好値的隠しステータスが設定されてる――周囲の人々に幸運を振り撒く[幸運を告げる猫]持ち、運命調整の一端を担う妖精種。
過去奴隷目的に狩られ、個体数が激減してしまった事実もあって、猫妖精種の“幸運”に対する信奉は、もはや信仰と言って差し支えない。
…「?」と思った貴方。大丈夫、私も最初そう思った。
奴隷狩りに追われた際、膂力も体力もあまりない猫妖精は、魔法頼りで逃げた訳だが、MPは無限ではないし、〈妖精魔法〉には直接殺傷力を持つ魔法はあまりない。
故に、追跡のプロである奴隷狩りを、目眩ましや足止めに魔法を使ってMPが切れるまでに撒く。
それが出来ない場合、捕獲→売却→奴隷コースまっしぐら、逃げ延びて自由の身と捕獲されて奴隷、明暗がはっきり分かれてしまう訳で。
そんなギリギリの状況で、最後に明暗を分けるものとは何か?
そう、幸運値だ!
幸運値が高ければ、目眩ましや足止めにも補正が入り、逃亡確率が高くなる。そもそも見付からない可能性も出て来るだろう…と、猫妖精達はそう考えた訳だ。
…「え、運頼み?」と思った貴方。猫妖精種、基本猫なので、その性質は享楽的かつ移り気。
努力とか根性とか、小さなことからこつこつとか。そういうの、理解出来ないらしいのです。
まあ仕方ないね、猫だから。
そんな幸運値教信者の猫妖精達が、自らの幸運値を増加すべく行った事、それが“王の制定”。
うん、再度「?」ってなった貴方は正しい。
誰もがレベル上げとかではなく王の制定って何それどんな意味が?って思うだろう。私もそう思った。
まあ、ざっくり言えば、猫妖精種の中で一番幸運値の高い個体を王…《猫妖精の王》に設定する事で、《猫妖精王の加護》…幸運値補正効果のある称号獲得を図った、という事だ。
『王から加護を得る』のではなく、『加護を得る為に王を作る』という猫妖精の発想力には脱帽するが、いいのかそれ。
そんなんで称号や加護って得られるものなのか?
…得られるものらしいですよ!
私の懐ですやすや寝ている仔猫妖精達の称号欄にばっちりありました、《猫妖精王の加護》。称号効果も幸運値補正、まさに彼等の狙い通り。
実はついさっきまで灰色になってたんだが、今は白表示、効果発揮中って事らしい。
あれか、猫妖精種最大幸運値(幸運値バグ疑惑あり)が《猫妖精の王》を顕在化したからか。
真面目な話をすると、【称号】は『アナザーワールド』に『認知される』事で獲得するもの。
具体的には多くの住人にその称号に相応しいと認められる、または影響力の大きい住人――神々とか教皇とか王様とか――に以下同文、等で称号獲得となる。
称号効果についても基本は同じ、この世界に認定される事、あと《○○の加護》系は、加護を与える対象の承認が必要。
…いや、私承認していませんが?
まあ私的には、猫…じゃない、猫妖精の安全の為ならば加護を与えるのも吝かではない。
ヒューマン他多くのヒト種の《王》と違って、《猫妖精の王》には政治とか不要みたいだし。
…代わりに、出会ったらもふらせてもらおう。
話が逸れたが、《猫妖精の王》の場合、前者に当たるのが“猫妖精種全員”――どうやら猫妖精は直感的に種族最大幸運値所持者の出現がわかるらしい。いや、私にはわからんのだが――、後者が“妖精女王陛下”だそう。
…どうやら猫妖精は少数種族なので、“猫妖精種全員の認定”だけでは『世界に認知』されるまでには至らなかった模様。
元々猫妖精は妖精種だから、《猫妖精の王》制定以前は妖精女王陛下の加護――称号効果は知力微増――をいただいており、制定時にも女王陛下に認定をお願いしたらしく…、度々お世話になります、女王陛下。
いち妖精種の王の制定を妖精女王陛下がそんなほいほい認めてくれるの?と思った貴方。
ほいほい認めてくださったそうです。
普通は…というか、リアルの国家や他のヒト種のコミュニティでならば、領民が減ると税収も減るし、マンパワーの総量と比例する国力も落ちてしまう。
その為、よっぽどの事情がない限り独立の承認などあり得ないが、こと妖精種に関してはその常識が当てはまらない。
なにせ妖精種、別に国家形成とかしていない。
故に、いち種族の独立?にデメリットなどないので。
妖精種ごとに代表者なんかはいても、王はいない。
妖精は、どちらかと言えば動物的。その種の特性に沿って行動するのが当然…というか必然。それを無理に抑えようとすると、最悪命に関わる。
奴隷に落とされ、一ヶ所に繋ぎ停められた猫妖精が、ストレスで弱り果てた様に。
まあ姿形からして、小人型、猫型や犬型他動物型、植物型、またはその併用型、さらに影やらなにやらの非実体型等々バラエティに富む妖精達。
妖精郷を起源とする知性ある種族全てが“妖精種”と雑にひと括りにされているのだが、その姿形や生態はまさに多種多様。
習性から価値観まで、それぞれ全く異なる妖精達が、ひとつに纏まって国家を作るとか無理ゲーもいいところなわけで。
加えて、どの妖精種も妖精郷に住まう原種は基本的に自給自足で事足りてしまうので経済活動不要、そして妖精郷に居る限りは種族を越えて纏まらなければならない様な種の断絶的危機もない。
つまり、国家を作る意味がないから、妖精種に国家はない。
当然国家のトップである王もいない。
「え、妖精女王陛下居るよな?」と首を傾げたそこの貴方。
女王陛下の称号は《妖精郷の守護者》、『妖精女王』は種族名だ。
始まりの街(仮)はじめ、物質世界…日本人風に言うなら“現世”に重なって存在する、半物質世界、“隔離世”のひとつである『妖精郷』。
種族『妖精女王』は、その『妖精郷』そのものが生み出す個体で、いち世代に一人のみ。前代の妖精女王が消滅しない限り、次代妖精女王は生まれない。
つまり『妖精郷の守護者』とは、“妖精種の女王”ではなく、妖精郷そのものの妖精、“妖精郷に生きるもの全てを守護し統べる者”。
要は『アナザーワールド』に内包された小規模世界の管理者、立場的にはシステム管理統括者や根底システム管理者に近い…つまり神様的な方と理解して、内心おののく私。
ついでに、妖精女王陛下の、私含め妖精達に向ける容姿――気の強そうな艶やか豪奢系超絶美少女――にそぐわぬ、鷹揚かつ慈愛に満ちた表情の意味にも気付いてしまい、微妙な気分に…。
オブラートに包みまくり、かつ綺麗に言うなら、妖精郷に生きる庇護対象を見守る慈母の微笑。オブラート剥いだら百戦錬磨肝っ玉お母様の不動の笑み。
…うん、オブラートって大事。
さて、内心おののいたり、建前の重要性を再確認したりと精神的に忙しい私だが、妖精達がヒト種の社会をどの様に捉えているのか少しばかり気になったので、ヒト種の『王』という仕組みについてどう思うか尋ねたところ、妖精種代表5名からは、『よくわからん』一票、『大変そう』一票、『めんどくさそう』二票、『理解しかねるが興味はある』一票…という回答が。
そこらの石を適当に積んで作った簡易かまどに、メルヘンジャ…小羽妖精族長達が森で集めて魔法で乾燥してくれた薪を組みながらふんふんと頷く私。
茜色に染まりつつある森と山積みの森素材を背景に、ただ今キャンプ設営中です。
女王陛下に私の素材収集を手伝うよう下知された妖精達から、文字どおり山程の素材をいただいたのだが、希少素材の多数混じったその多種多様な素材は、『30種各99個まで』とゲーム的制限のあるインベントリには入り切らんかった。
そんなわけで、好きで妖精達の心尽くしを無造作に山積みにしているのではないことをここに主張しておきます。
いや、そんなにいただいても持ち帰れないし、鉱物系はともかく植物系素材等は鮮度が落ちて使えなくなったら勿体無いから、とやんわりお断りはしたのだが…、女王陛下が妖精郷に住まう職人に時空間魔法付与の鞄を特注しているから、受け取って欲しいと懇がn…重ねて勧めていただいた為、遠慮なくいただく事にしました。
うん、おかn…女王陛下の言い付け破るの怖…畏れ多いよな!
妖精達の縋るよu…真剣な眼差しに頷く私。
この森の妖精達と、ちょっと距離が縮んだ気がする。
あと、女王陛下いつの間に特注してたんだ…。
ありがたいんですが、なんかこう、実家から帰る際にあれもこれも持っていけと、どう考えても容量以上の食料を無理矢理鞄に詰め込まれてる的素直に感謝出来ない感が。
いや、感謝しているけども。
――以下回想。
午後の妖精の森、思いがけない妖精女王陛下との邂逅の後、私の来訪目的…薬草他薬の素材となるあれこれを採取に来た事を告げると、実家に帰って来た末弟を見守る様な眼差しの女王陛下が、ひとつ頷いておっしゃった。
「皆、聞いておったな?
妾の庇護から外れたとはいえ、猫妖精は妖精郷に生まれし妖精種じゃ。
その王たるシロ陛下は、妾の弟も同然。
よく便宜を図る様にの」
おかn…女王の貌で下知する女王陛下。多分意識してないだろうけど、圧力凄い。
そして、動物的直感でおか…女王陛下に逆らってはいけないと理解していると思われる妖精種達、小羽妖精達は鈴の音の様なさざめきで、妖精犬はその巨体にそぐわない…いや、ある意味見た目通りの、小型犬特有の高い鳴き声で、泉の乙女達はせせらぎを思わせる音の連なりで、一斉に『是!』と答えた瞬間は、圧巻でした。
配下――妖精種の社会構造的に厳密には違うのだが、こう、精神的には配下としか言い様がないので、あえて配下と呼ぶ――の妖精達のよい子の返事を聞いた女王陛下、満足気に「うむ」と頷くと私に向き直り、
「この妖精の森はこの世に幾つか存在する妖精郷への入り口、時空の狭間に浮かぶ泡沫じゃ。
要らぬ『揺らぎ』の原因となるゆえ、妾の様な『世界に響く』存在は長く留まる事が出来ぬ」
と。うん、女王陛下、レベル四桁ですものね!
「ほんに名残惜しいが、今はお別れじゃ。
いつか、妖精郷にも観光に来ると良い。シロ陛下とその仲間なら、歓迎するでの。
おお、そうじゃ。妖精郷の“入郷許可”を渡しておこう」
歩み寄る女王陛下のシフォンスカートの裾からのぞく華奢な足首から美しく整った爪先までを飾る小さく可憐な菫(生花)が連なる足甲?アクセサリー?のみを付けた裸足の足下、まるで女王陛下の白い足を土で汚すまいするように、その歩みに合わせて急速に成長する柔らかそうな芝生及び野の花々に気付いて、巨匠アニメスタジオ映画――古代日本の森を舞台に八百万の神々と人が生存権を争う、現代社会人としても色々考えさせられる名作――のラスボスみたいだと感動していた私は、妖精女王陛下が何処からともなく取り出したひとふりの枝を受け取って首を傾げた。
華やかだがどこか奥ゆかしい香りの、山吹色の小さな花をたくさん付けたその枝。
「金木犀?」
「よう知っておるの。
まあ、 来訪者の郷土でも有名な花ゆえ、意外ではないのかの。
どれ、王冠に仕立ててやろう」
「いやちょっと待て」
ストップ、入郷許可証なら枝のままインベントリに突っ込んでおけばいいし、装飾品に加工するにしてもそのチョイスはおかしい。というか、今の私の格好に王冠はどうかと思う。私の属性(見た目)の方向性が迷子になる。
それから、女王陛下的には弟分である《猫妖精の王》の私を妖精女王の手で戴冠させてやりたい、ゆえに“妖精郷入郷許可証”は王冠に仕立てると主張する女王陛下と、変な格好で闊歩して後ろ指さされるのは回避したい私の間にちょっとした小競合いもあったが、“パッと見王冠には見えない王冠”に仕立てていただく事で双方の望みを叶え。
満足気に頷きつつ、女王陛下は妖精郷へお帰りになりました。
進言してくれたメルヘンジャーブル…小羽妖精族長(青)君、ありがとう、ありがとう。
――回想終わり。
そんな訳で現在、夕焼けに染まった空を見上げる私の頭…というか耳の上辺りから後頭部にかけて、には、仄かに薫る金木犀…いや、女王陛下の手で戴冠させていただいた瞬間に花の色が透明がかった白に変わった(らしい)ので、銀木犀の生花で出来た髪飾り風の花冠が。
これ、所持品一覧に載ってないから、アイテムとか装備とは違うみたいだが、スキルかな?
よし、ステータスオープン。
種族:猫妖精王/銀木犀の化身
追加【種族スキル】〈銀木犀の華座〉
【唯一称号】《銀星花冠の猫妖精王》
【称号付随スキル】[銀星花の王冠]〈妖精門の鍵〉[銀木犀の薫香]
効果:妖精郷入郷許可、妖精種認知(双方)、妖精の輪設置及び使用許可、妖精種の好感度上昇、魅了
いやちょっと待て?!
突っ込みどころが多すぎてもはやどうしていいかわからんが、まず明らかにおかしい種族欄。
女王陛下によって戴冠?していただいたから、猫妖精から猫妖精王になってるのはまだ理解の範疇だが、スラッシュ以降なんだこれ、サブ種族とか聞いたことないんですが!
しかも銀木犀の化身て。
私?それ私のことですか?
種族ってそうそう変わる…っていうか、追加?されるものではないだろう…ない、よな?
しかも“華精”…つまり花妖精上位種。そのワードから私がイメージするのは儚げな美女とか華奢な美少女であって、決して身長180オーバーのマッチョ…ではないが、それなりに筋肉が付いた男ではない。断固として。
そして、『魅了』については全力でスルー。私はそんなもの見なかった!
『ソリャ、《百花の女王》様ニ『華座』ヲ賜ッタンダカラ、華精ニナルダロ?』
「なんか種族に“銀木犀の化身”ってのが追加されてる」と呆然と呟く私に、簡易かまどの薪に火魔法で着火しつつ、何が疑問なのかさっぱりわからん、という顔で首を傾げる小羽妖精族長(赤)…長い、もうレッドでいいや、レッド君。
『種族“王/女王”ニハ、眷族ニ自ラノ権能ノ一部ヲ貸シ与エル権能ガアルンダ。
種族ガ妖精女王、称号《百花の女王》陛下ノ場合、眷族デアル妖精種ニ『華座』ヲ与エル事デ、“妖精”は“化身”ニ特殊進化スルノサ』
まったく意味がわからん、と顔に出ていた私を見かねてか、やかんに魔法で生成した水を注ぎつつ詳しく説明してくれたブルー君によると。
『華座』というのは、一種の地位というか、爵位的なものらしく、化身は下賜された花――私の場合は銀木犀――の花妖精の長となり、配下の花妖精を召還び出して使役…というかちょっとしたお願い――例えば、戦闘そのものをさせることは出来ないが、支援とか、伝言とかなら戦闘中でも可能だそうだ。私は戦闘せんので関係ないが――をする事が出来る。また、配下召還の呼水になる花を自由に生成出来る。
警視総監より直々に巡査部長に任命された私は、部下の巡査を呼びつけて動かす事が出来る、と理解しました。多分あってる。
レッド君とブルー君にお礼を言いつつ、いい感じに燃え出した焚き火上に設置したトライポッド――神様方にいただいたキャンプセットの中にあった鍋とか吊るす用の三脚――にケトルを吊るした私は、テント、テーブル、椅子を設置。
ワンタッチなのですぐ終わる。
「ところで、あれ、残ると思うか?」
魔性の座り心地のアウトドアチェアでくつろぎつつ、漂う甘い香りの元に目を向ける私。
『残ルワケナイダロ』
『犬妖精ガ半分食ベチャッタシ、泉ノ乙女達モ遠慮無ク持ッテイッタカラ、ムシロ足リナイカモ』
ですよね!そんな気はしてた。
視線の先、やたら大勢の小羽妖精達が群がっているため見えないが、そこにある(多分)のは、銀のボウルで冷却中…に、妖精達のつまみ食いで殲滅されそうな銀木犀とルバーブのジャム。
薬草他を採取中に野生のルバーブと、魔力を与えると成分がほぼ砂糖な果実を付けるファンタジー植物、神眼結果『シュガーベリー』の群生を見つけたので、無駄に多いMPを注ぎ込み、大粒の実を大量に採取。
なお、シュガーベリー(果実)の見た目は苺大の白いクランベリー。皮が薄く、乱暴に摘むと弾けて中に詰まったあり得ないくらい大量の果汁が飛び散り、そして瞬時に固まる。果汁は成分的にほぼグレーズ、人間大はともかく、人形大が果汁を被るとまるで蝋人形の様でした。
コントか!と内心突っ込みを入れつつも、大活躍の〈生活魔法〉“洗浄”を大雑把君と不運君に使用した私。
誰とは言わんが、この時口に入った果汁が震えが来る程甘かったらしく、二人とも『もう今日は甘味はいらない』とキャンプ設置班に。誰とは言わんが。
それはともかく、サイズ的にうっかり果実を弾けさせると主に呼吸的な意味で大変危険な小サイズ種族は群生地に近付かない様通達し、今後採取等は人間サイズ種族か近付かず魔法でする事にしたらしい。うん、私の精神安定上是非そうしてくれ。
話が逸れたが、野生のルバーブとシュガーベリーの実、そして種族スキル〈銀木犀の華座〉の副次効果で魔力消費で特性をある程度(あくまで個体差といえる範囲内でだが)自由に生成出来るっぽい銀木犀の花を花蜜多めで生成。あとは素材としていただいた蜂蜜を合わせてジャムを煮てみた。
というか、キャンプセットの携帯コンロ的魔道具で今も煮ている。
試しに召還び出してみた銀木犀の花妖精が。
私は小羽妖精っぽいちまい子をイメージしていたのだが、スキル〈妖精門の鍵〉を使用した瞬間、私の手の5センチ程先の中空に生成され地面へとこぼれ落ちた銀木犀の花(大量)による即席フェアリーリングから現れたのは銀髪銀眼の高校生くらいの美少女(人間サイズ)で、白色のヴィクトリアンなメイド服とチャイナドレスの折衷みたいな装いをしており、色んな意味でびっくりした。
神眼によれば職業は絹女中。
“シルキー”と言えば、古い家に憑き、家人に代わり炊事洗濯掃除等をしてくれるイングランドに伝わる妖精。
なるほど女中か!と一人納得する私。
装いがチャイナドレスっぽいのは、銀木犀が中国原産だからかな?
さて、何故私が野外調理をしていたかというと、「素材のお礼は何が良いか」と妖精代表の5名に伺ったところ、ここ妖精の森に棲む妖精達は甘いものが好きだとイエローとグリーンの双子から聞いた――というか、二人で代わる代わるアピールされた。一番の甘味好きは間違いなくこの双子だろう――ので、街で大人買いした、飴がかかっていない為甘さ控えめのフロランタン?に、材料を煮るだけ簡単なジャムを合わせてふるまう事に決めた為だ。
この森の妖精達はあまり素材の加工をしない為、野生の果物や花蜜、この妖精の森に共生するノンアクティブ魔物『妖精蜜蜂』からごく稀にだが分けてもらえる蜂蜜――今にも殲滅されそうなジャムにも加えた素材で、神眼結果希少素材『妖精蜜蜂の蜂蜜』…まんまだな!――を口にすることはあっても、菓子といえるようなものはめったに手に入らない、と双子が力説するので。
あ、食べた事のある甘味にシュガーベリー(果実)が含まれていないのは、小羽妖精族長5名ともシュガーベリーが実をつけるのを見たのは今回が初めてだからだそうな。
…話は逸れるが、始まりの街(仮)――気にしとらんかったが、街の名前知らんな。マップ?当人が知覚しないと表示されない仕様らしい、無駄に高性能ですね!――でも、砂糖や蜂蜜はちょっと…いやかなりお高めだった。
実はクロとふたりで食べたパンケーキ他お菓子も、砂糖は控えめ。甘みは主にドライフルーツで、という感じ。
美味しかったので文句はないが。
この辺の気候は熱帯ではないっぽいので、リアル基準なら砂糖の原料であるサトウキビを作るのには向かないと思う。輸入品なのだろうな。
ちなみに、ドライフルーツが安価なのは、街の南側が広大な農業地で、その1/4が果樹園だから。季節ごとに色々な果物を作っていて、輸出も盛んらしい。パンケーキ屋台のお姉様情報。
甘味といえば砂糖と果糖、あとは蜂蜜だろう。
気候的に養蜂は出来そうな気がするが、広い花畑が要るので難しいのだろうな。南側の畑や果樹園の花では、売り物になる程の量の蜂蜜は採れんだろうし。
かといって、街のすぐ外にある始まりの草原(仮)の草は『魔根草』というファンタジー植物で角兎の主食、根で増える為花とか咲かないので、養蜂には使えない。おまけに弱いとはいえ魔物も居るしな。
なお、この魔根草、名前に“魔”と付いているが別に魔物ではない。
が、生命力と増殖力が植物テロレベルなので、街には生きた根っ子部分持ち込み禁止、なんと専用の結界まで張ってあるらしい。
なるほど、街から出て暫くすると唐突に草原が広がってて不自然だなと思ったらそういうことだったか。
来訪者の『収納』や住人版収納なスキル、〈宝箱〉――ただし、収納した物の時間が停止する収納に対し、こちらは時が普通に進む――や、時空間魔法で作られた疑似収納または宝箱機能付な袋や箱に入れれば持ち込み可能だが、街中で取り出す事は出来ないそうだ。システム的に。
ちなみに、刈り取った葉の部分は有用で、家畜や草食系テイムモンスターの餌になる他、生のまま成分を抽出して水薬のつなぎにしたり、乾燥させてポプリやお茶にしたりするらしい。
ハーブティーの屋台で試飲させてもらったところ、味はあまり感じられないが、香りは草原の青い匂いが鼻に抜ける瞬間スッと爽やかな涼感に変わる感じで、悪くなかった。…ミントかな?
焚き火で炙った肉串――インベントリに入れてあったので焼きたて熱々だが、キャンプは雰囲気が大切。焚き火があるなら、肉は炙るべし!異論は認めない――と、鍋に入れてもらった、屋台のおばちゃ…マダムの愛情と野菜がたっぷり入った優しい味わいのミネストローネをいただきつつ、対岸の火事を眺める私とレッドとブルー。
私の中のイメージとして、フェアリーは草食というか、花とか蜜とか果物なんかを食べて生きてそう、というのがあったのだが、族長男子二人は肉串含め屋台ご飯を美味しそうに食べている。
特にレッドは己の顔ぐらいの大きさの肉に豪快にかぶりついては引きちぎり、いい笑顔で咀嚼している。ワイルド。
逆にブルーは皿の上に取り分けて串から外した肉を何やら魔法で一口サイズに切り分けては口に運んでいる。
手づかみなのは調理された食料を食べる習慣のない小羽妖精達がカトラリーを持たないから。
私のカトラリーを貸そうにもサイズが合わんし。
スープはミルクピッチャーに注ぎました。スプーンないので大ジョッキみたいになってたけど、二人とも気にせず呷ってたので、良いことにする。
双子とピンク?
あのつまみ食い極意集団の中心に居ますよ!
正確には、料理に興味があるらしいピンクが、調理する私の手元を熱心にのぞいていたので、煮上がったジャムを冷却用のボウルに移した後、使用した木さじにちょっとすくって味見として提供したら、双子が乱入してきて…なんやかんやあって最終的にああなっている、という。
うん、ほぼ双子のせいだな。
つらつらと考えながらまったりと食後のお茶を満喫、そして膝の上に乗せた毛玉達をもふる。
ああ、素晴らしい手触り。
ちなみに、お茶は自家製。
フェアリー達からいただいたハーブ類を浄水生成で洗い、適当にポットに突っ込んだところに沸騰したお湯をケトルから注いで暫し蒸らしたそれをフレッシュハーブティーと言い張る私だが、風味は悪くないと思う。
レッドもブルーも、偏在ミルクピッチャーで美味しそうに飲んでるし、レシピとして登録出来たうえ、なんか『MP回復力微増』の効果も付いてるな、うん。
アイテム名:妖精のフレッシュハーブティー
種別:消費アイテム/料理
レア度:希少級
効果:MP回復力微増
説明:妖精種の棲む森に自生する“妖精のハーブ”を使用したフレッシュハーブティー。奇跡的ブレンドで渋さも一切なく美味。
妖精のハーブはブレンドを間違えると、効果は変わらないものの耐え難い苦さとなる。
レシピ登録者:シロ
奇跡的ブレンドて、私ただ適当にぶちぶちむしった葉っぱを洗ってお湯注いだだけなんだが?
あれか、幸運値さんが仕事をしてるのか。
そしてついさっきジャムを煮ている際に取得したスキル〈料理〉が驚異の5レベルアップ。
博識なブルー君曰く、希少素材を使用し、希少級のオリジナルレシピを編み出したのだから、おかしな事ではないとのこと。
むしろおかしな事しかない気がするのだが、何だか考えるのが面倒になってきたので、そういうものかと納得しておく私。
とにかく、空は完全に夜の帳に覆われ、見上げた天には2つの月、そして降りそうな星が輝き、私の視界の隅にはログアウト推奨の文字が点滅している。
リアル時間は夜7時、そういえば夕御飯ログアウト用にタイマー機能を使用していたのだった。こっちで色々作ったり食べたりしていたせいで空腹感はあまりないが、リアルで夕御飯を食べなくては。ガタイを保つのも仕事のうち!
山積みの森素材の下には、泉の乙女達からいただいた水草の繊維を編んで作られた淡い緑色の綺麗な薄い絨毯に、複数種の妖精達が錬金術系と付与術系の複合魔法と思われる〈鮮度保持〉の効果を付与してくれた、神眼結果『時惑わしの妖精絨毯』(レア度:希少級)が敷かれているので、鮮度の落ちやすい素材もこの絨毯の上に置いて…というか積まれている限りは『アナザーワールド』時間で一週間程は鮮度が保持出来るし、女王陛下が発注して下さった鞄もそれくらいで完成するらしいので、それまで妖精の森でキャンプさせてもらう事にした私。
一週間程街に帰らん旨の手紙を、追加で喚び出した銀木犀の花妖精に託してはぐれさん及び神殿長さんと衛兵隊長さんへ送り済だし、多分攻撃力皆無神官を心配してくださったあの門番さんにも伝わったはず。ホウレンソウは大事です。
そんなわけで異様に広いテント内で神殿のゲストルームのふかふかベッドと比べても遜色ない寝心地のベッドマット+シェラフに潜り込んで就寝。
うん、夕御飯はちゃんと食べるけど、調理簡単なお鍋にしよう。
サブタイトル満天青空クッキングにしようか迷いました…。




