13.神殿観光
観光回。そして飯テロ注意…って言える程旨そうに書けてるといいな…。
「こちらが大聖堂です。正面に〔創世神〕様の神像、左右に繋がる回廊を行くと、主なる神々7柱の小神殿となっています。小神殿は右手から順に紅陽神殿、紫月神殿、橙火神殿、蒼水神殿、翠木神殿、藍風神殿、黄地神殿…」
なんだか緊張しきりの見習い神官くん、推定十代前半に案内されて、念願の神殿見学中のシロです。
あのあと、なかなか跪拝をやめて下さらない神殿長さんに、『対等の立場で話をしたいので、貴女が跪くのなら私も跪こう』と、わけのわからない脅しをかけて漸くソファに戻っていただくことに成功。
「〈降臨〉を使用してまでこの街の危機を救っていただいた、このご恩にどう報いれば良いかわかりません」と泣きながら、それはそれは感謝してくださる神殿長さんに、ちょっと引…申し訳なくなった私は、面倒くさ…目立つのは本意でないので、はぐれさんの連れて来る来訪者代表と、住人の各関係者への説明――もちろん私の事は伏せて――を丸投げし逃走…一旦お暇することにした。
ゲーム内での時間は加速しているとはいえ、いろいろあったのでリアルはもう昼、ログアウトしてお昼ご飯を食べねば。
体格を保つのもお仕事なので、食事は大切。
神殿長さんのご厚意で、神殿内にある宿泊施設を貸していただいたので、ふかふかのベッドに横たわってログアウ…あれモフどこ行った?
貸していただいた部屋がなんだかむちゃくちゃ高級感溢れる貴賓室っぽい事は気にしたら負けな気がするのでスルーします。
そしてモフ、探検楽しいのはわかるが、そんなすみっこ転がったら埃まみれになるぞ。
掃除が隅々まで行き届いているのか、慌てて捕まえたモフは特に汚れてなかったけど、そのままベッドに入れるのは申し訳ないので丸洗いを敢行する。
併設されているお風呂場を使おうとしたら、お世話係?の見習い神官くんが来たので、お湯の出し方とモフを乾かす道具が無いかを聞いたら、お湯は風呂場に設置された魔道具に少量魔力を流せば出る事、ドライヤーは〈生活魔法〉という日々の暮らしにあったら便利な魔法の詰め合わせ的魔法スキルにそれ用の魔法がある事を教えてもらったので、レベルアップで増えていたスキルポイントを使って取得。
ついでに再ログイン後に神殿内見学しても良いか、上役に聞いておいてくださるようお願いしておく。
なお、ずぶ濡れモフはかなり哀れを誘う容姿でした。雨の日注意。
よし、今度こそログアウト。
昼食後、家事と筋トレを適当にこなし、シャワーを浴びてログイン。
ふかふかベッドから起き出して、枕に埋まっていたモフをもふってもふもふ具合を確認。
リアル時間で4時間程前…この世界で昨日、モフ丸洗いを決意したものの、御使いをヒト用シャンプーで洗って良いかわからなかった私は、神域なのをいいことに〈神託〉で〔創世神〕様に確認を取り、OKをいただいたのだが。
うん、洗う前と変わらず素晴らしい手触り。安心しました。
昨日もお世話係をしてくれた見習い神官くんが朝食を用意してくれるというので、ありがたくお願いする。
そしてモフは今日も食卓の少し上をくるくる飛んで満足げ。私の差し出した手に着地すると、指先にすり寄りながら、きれい!と思念を飛ばして来る。
きれい、なのか?昨日はカトラリー類の事かと思ったが、どうやらモフは料理、というか飲食物そのものの事を評している様だ。
食べる事は出来なくても、美味しそうなビジュアルが好きなのか。
ふかふかのテーブルロールっぽい白パンに、出来立てなのかミルクの風味の濃い白いバター。塩とスパイスの効いた厚めのベーコンの上に鎮座する黄身の色も鮮やかな大きめ目玉焼き。小皿のジャムは紫と黒の中間色、黒スグリのジャムだろうか。酸味が強いので好き嫌いが分かれそうだが、私は好きな味だ。今朝の紅茶――紅茶で良かった様だ。昨日応接室でいただいたお茶はフレーバーティーだったらしい――は、ダージリンに似た香りの、口の中をさっぱりさせてくれるお茶。
ごちそうさまです。堪能しました。
味も匂いも喉越しもリアルとの差が見つからなかった。VRスゲー。
そして言及しなかったが、私の隣席で同じものをもぐもぐしているはぐれさん。
昨日拉致った知り合いの方はほっといていいんですか?
はぐれさんと意思の疎通が可能だったが為に来訪者代表として捕獲さ…同行いただいた方は、〈神眼〉でちらりと視た限りでは、チャイナ服っぽい動き易そうな胴着を着た格闘家、私の印象だと武道者というより求道者という雰囲気の、がっしりした体格の男性で、ベータ時代から有名な方らしい。
検証板?というところでこの世界のあれこれを解き明かしたり、雑談板?で親切に質問に答えてくれたりと、知性も好奇心も常識も併せ持った人格者だとのこと。はぐれさん情報。
その人格者に丸投げしてきたんですね、はぐれさん。
私も人の事言えないのでコメントは控えるが、神殿長さんの待つ応接室まで拉致連行して、はぐれさん自身は流れる様に退出、はちょっとどうかと思った。
はぐれさん的には、応接室に戻ったら私がいなかったので探しに行ったら、ログアウト中だったので合わせて自分もログアウト。リアルで昼食後に再ログイン、朝を待って神殿再訪で今に至る、と。
いや別に私に合わせなくてもいいんですよ?
浄罪の為に神殿併設の治療院で奉仕活動をするというはぐれさんと別れて、ただ今絶賛観光中の私とモフ、上役の神官さんに見学許可を取って下さった神官見習いくんに案内されて、あちこち観てまわっています。観光楽しい!
神殿は基本的に白い石造りなのだが、場所によって純白から透明感のある白、薄く灰がかった白等様々な石が使われているので、全体が白色だが単調にならず、刻まれた見事なレリーフにも立体感があり見ごたえ凄い。
そして、祀る神によってコンセプトが違うのか、小神殿ごとに驚く程印象が変わって面白い。
光、正義他を司る太陽神、〔日神〕の紅陽神殿は日光を取り入れる為、ふんだんにステンドグラスが使われており、〔日神〕の神像には日中ほぼずっと陽光が当たる様な造りになっているし、逆に闇、安寧他を司る〔月神〕の紫月神殿は、ステンドグラスが低い位置にあったり、上部のガラスに不透明なものが使われていたりで、少し暗く、静謐な印象だ。
大きな祭壇(?)で絶えず火が燃えている〔火神〕の橙火神殿、多数の水路から中央の泉へ小さな滝が流れ落ちる〔水神〕の蒼水神殿、通路以外石畳がなく、剥き出しの地面から草木が繁り、神像の左右に一際大きな、綺麗な緑の葉を付けた木の生えた〔木神〕の翠木神殿。
面白いのは、至るところに風の通り道、正しく風穴が儲けられ、吹き込む風に吊り下げられた多数のウインドベル…金属製の小さな板が連なった西洋風鈴が絶えず澄んだ音を奏でている〔風神〕の藍風神殿。
そして半地下に作られており、小神殿自体の印象が鍾乳洞みたいになっている〔地神〕の黄地神殿。そこここに多数の鉱物がクラスター形成してるっぽいオブジェ?なんかがあり、うん、掃除は大変そうだが、幻想的で素晴らしい。観光地的に。
そして来訪者諸君は蒼水神殿の泉に硬貨を投げ込まない様に!神官さんが一生懸命掬い取っていました。何故日本人は神域の水を見るとお金を投げたがるのか…。
広い神殿の表と裏と、一通り案内していただいた見習い神官くんにお礼を言って別れた私は、彼おすすめの屋台にて購入したボリュームたっぷりフランスパンサンド二種と、その屋台を切り盛りしていたおば…妙齢の淑女おすすめの氷魔法持ちが作る果物と野菜のフレッシュスムージーの屋台で、柑橘類とリンゴ、葉物野菜のスムージーをマイカップで購入し、神殿中庭へリターン。
今日のランチ場所を探して7つの小神殿裏をうろうろする。
中庭は私と同じランチ目的の神官さんや、奉仕活動の合間の息抜きに住人の方がよく利用するので、仮面装備の私は、隅の方をこそこそと。
そうして見つけたのは、私が三人いても手が回らなそうな大樹――これ御神木じゃなかろうか――の裏、生い茂る木と小神殿の白壁に囲まれた小さな空間。
空を覆う木々の葉からこぼれる木漏れ日、葉をさらさらと揺らす微風。小神殿側の小さな石積の隙間から湧き出して流れを作る水を見るに、ここは蒼水神殿の裏手だろう。
よし、ここで昼食にしよう。
インベントリからキャンプ用品、折り畳み式の机と椅子と食器を取り出して設置。
〈生活魔法〉〔創水〕で作り出した水:消毒(弱)で手を洗い、買ってきたフランスパンサンドとスムージーをいそいそと盛り付ける私とその上をくるくる飛ぶモフ。
準備完了、ではいただきます。
ハードタイプのフランスパンは、外側カリカリ内側もっちり、鼻に抜ける香ばしい小麦の香りと、口の中に広がる断面に塗られたバターのコク。
ひとつめのサンドの具は、薄切り肉と玉葱、パプリカを甘辛いタレで炒めた物と、ロメインレタス。
フランスパンの外側の歯応え、内側の小麦の甘み、少し濃い目の味付けのジューシーな肉炒めを包むレタスの爽やかさ。
長いフランスパンを半分に切り分けたものにたっぷりの具が挟んであったのだが、瞬く間に完食。
ふたつめのサンドの具は、白身魚のムニエルと細切り人参のドレッシング和え…キャロットラペとロメインレタス。
ムニエルはバターでカリカリに焼いてあり、シンプルに塩胡椒で味付け。キャロットラペはよく味が馴染んでおり、それだけ食べても満足の美味しさ、多分マスタードが隠し味。そのふたつとバター、フランスパンの味を纏めるロメインレタス。
こちらも完食。
フランスパンサンドを頬張る合間に、フレッシュスムージーを飲む。
柑橘の酸味の中に感じる甘さ、リンゴの爽やかさ。葉物野菜は少し癖がある様だが、柑橘類の風味が強い為気にならない。
口の中の脂をさっと流して味覚をリセット、食欲増進効果がある様だ。
もちろん、サンドを食べ切る頃には飲み切った。
ごちそうさまでした。大変満足致しました。
屋台にしてはちょっと高級だっただけあり、非常に美味しかったです。
大満足の食事を終え、まったりとモフを撫で回している私ですが、先程からちょっと気になる事が。
中庭にはそれなりに人がいた筈なのだが、誰もここに入って来ない、というかその声さえ聞こえて来ない。
聞こえるのは風が梢を揺らす音、小川のせせらぎばかり。
漂うのは拝殿の中に似た、静謐な気配。
それに加え、大樹の根に埋もれる様に設置された石板、そこに刻まれた文章と嵌め込まれた黒曜石っぽい透明感のある黒い宝玉。
私も最初誤解していたのだが、大聖堂、そして小神殿の神像は、多くの人々に祀る神々の姿を分かりやすく視覚化する為の装置であり、神殿の一部――神社の鳥居の様なものと私は理解した――、〈神託〉や〈降臨〉でそれぞれの神から直接賜った言葉、世界の理である〔教典〕の一部を刻んだ〔教典の石板〕こそが、神殿が祀る御神体だ。
この神殿の〔教典の石板〕は、大体A2サイズ、一抱え程の白い石で出来た石板に、〔教典〕の一部が刻まれ、それぞれの神を表す色彩の宝玉が嵌め込んである。
大樹の根に埋もれる石板は、その〔教典の石板〕にそっくり、というかほぼそのもの。
ここ、もしかして8つ目の小神殿なのでは?
旅行記なのに観光書くのが難しい罠。
お待たせして申し訳ありません…。




