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帰還

 テレビからはソ―リーソーリーソーリーと何を謝っているのか分からないが、女性の声が聞こえてくる。


 何とはなしにつけたテレビ画面には、向かい合った男女の姿があった。女性は何を謝っているのか?


「どうして答えられないんですか?ソーリー!」


 ああ、謝っているんではない、言い回しが独特なだけだと、よくよく画面を見て理解したのだった。


「ですから、政府として、その様な映像を自衛隊が撮影したという事実を把握していないという事です。何かの間違いか、映画の映像を編集して流したとしか、私にはわかりません」


 ソーリーと呼ばれた男はそう応えている。


「映画や資料映像の繋ぎ合わせでこんなものが作れますか?自衛官が何かに対して射撃してるんですよ?違いますか?」


 女が舌鋒鋭くソーリーと呼ぶ男を責め立てる。



 テレビを見ていた男は何でこんなことになったかなぁと他人事のように頭をかいていた。


 実際には当事者なのだが、まるでそんな気配はない。


 いや、それも仕方が無いだろう。


 映像には艦を特定するようなこれといったものが映し出されてはいない。敢えていうなれば、かえで型哨戒艦、前期建造のどれかという事は、海自の人間や多少艦艇に明るい者ならばたどり着ける。


 しかし、映し出された映像は暗闇の中で76ミリ砲や20ミリバルカン、そして、12.7ミリ機関銃を撃ちまくる姿だった。


 最接近時には500メートルは切っていただろうか。小舟が接近してきかねない状態で、艦上には警戒のために小銃を持った乗組員を配置していた。

 その中の誰かが撮影したものがネットに流れたらしい。


 一部音声も入った動画ではあったが、艦や個人を特定するような言葉は見当たらなかった。ネットに流す際に編集したのかもしれない。


 さくら艦長は自身の部屋でそんなことを考えながらテレビを見ていた。


 あの日、夜間に元軍を襲撃して夜明けを待っていたら、周辺が明るくなる直前、いきなりGPSや通信が回復したのだった。当然、ひのきは居なくなっていた。



「GPSが復活してます!現在位置、消失地点と同じ。時刻は・・・、5時間ほど経過しています。夜明け前です」


 元軍の接近を警戒していた艦橋要員から安堵の声が漏れた。


「ひのきはどうなった?」


 そういう声があがった。まずは、佐世保との連絡を行い、それとなくひのきの動向を問い合わせたのは、それから1時間程度してからだったが、向こうも行方不明となっていたが、さくら同様に無事が確認されたという。

 空が白んでくるとさくらの前甲板には薬莢が散乱していた。照明をつけて元軍を呼び寄せては事だったので未だ片づけをしていなかった。その姿が哨戒機に目撃され、一体何があったのか問われるまでに時間はかからなかった。


 帰港後に乗組員は聴取されたが、内容は理解されないままだった。

 光学センサーによる射撃を行ったので映像記録もある。しかし、それを見た人々も、俄かには信じようとしなかった。


 結局、さくら、ひのき共に、弾薬消費を特別訓練として書類上の処理を受けて、大きな処罰もなく過ごしている。


 そんなある日、ネットに流れたのが、元軍を射撃するさくらの姿だった。


 ただ、撮影は個人が持ち込んだ市販の小型カメラであったため、数百メートル離れた元軍の姿はほとんど捉えられていない。

 映像を解析しようと試みた人々のサイトや記事もネットで飛び交ったが、射撃目標を突き止めたモノは無かった。

 

 映像収録された会話から、それが自衛艦という事が分かると、映像流出事件として国会で問題となり、野党が総理を責め立てる事態となったが、何も出てはこなかった。

 初めはその乱射を批判する野党だったが、射撃訓練と言われれば有効な反論が出来るわけではなく、映像流出と批判してみても、資料映像などをコピー、編集したものが流れたと言われては、具体的な指摘をするだけの知識が無かった。資料映像の中には、広報として一般に公開されているものもあって、夜間射撃映像をいくつかつなぎ合わせれば同じような映像に出来ると言われてはどうしようもない。

 なにせ、編集跡が公的にも確かめられている時点で、野党が主張した「どこかの実戦だ」などという主張の信憑性は失ってしまった。実際に元軍と交戦した映像なのだが、それを知るのはさくら、ひのきの乗組員だけしか居ないのだから当然だ。


 タイムパラドックスという言葉がある。多くの隊員は過去に見た映画や小説から、そのことを心配した。


 元寇は13世紀の話であり、その後に唐入りなどで日本へ連れて来られた者も居る。そうした者たちが九州の焼き物の発展に大きく影響したのは、九州に住む者にはよく知られた話だった。

 また、自分達には影響がないとしても、隣国の王族や首脳に影響を与えている可能性というのも考えられた。


 多くの者たちが調べてみたが、記憶と「現在」に違いは発見されなかった。


 文永の役において撤退した元の船団が何らかの理由で遭難し、日本周辺に約150艘ほど漂着した記録は今も変わりがなかった。

 自分たちは何処へ行っていたのか?

 五島列島や平戸を見ながら、さくらの隊員たちは首をひねり続けたのだが、明確な答えは誰も持ってはいなかった。


「もしかしたら、我々の行為が今の歴史そのものなのかもしれません」


 自分たちの行為がそもそも「起こっていた歴史」と言われて釈然としないものがあった。ただ、自分たちが調べても違いを見いだせない以上、そう考えることも、また可能だった。


 そんな答えの出ない問題を思い出しながら、艦長はテレビを消すのだった。


「確かにこの目で見たんだけどなぁ。夢な訳ないよな?」

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