表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

決断するのは難しい

 ひのきで予想していた通り、さくらではすでに攻撃を前提にした話が盛んにおこなわれていた。


 日中に襲撃する案や日没を待って襲撃する案、撤退を待伏せする案など様々だった。


 というのも、確かに船は千隻近いが、そのうち大型船は300隻程度という事が歴史から分かっている。少なくとも、2隻で76ミリ砲弾は弾倉に即応弾を80発装填しているので、最大160隻を破壊できる。そして、20ミリバルカンでもある程度の破壊は可能なので、300隻に打撃を与えるのは問題ない。弾庫からさらに76ミリ砲弾を装填すれば、300隻の破壊も可能にはなる。ただ、今後もこの時代に残るならば、76ミリ砲弾を一海戦で撃ち尽くすのは得策とは言えない。そこをどうするかが難しい判断となっていた。


「記憶では確か150艘程度の難破船が出ていたはずなので、すべてを我々が沈めなくとも、夜間の出港に伴う混乱からの遭難や座礁、接触などでかなりの被害を出しているハズです。我々が大型船を削ればそれだけで元軍の行動は難しくなるのではないかと思われます」


 さくらにおいては大型船を目標に数を減らし、撤退を困難にさせ、可能であれば夜明け以降に漂流する指揮官クラスを捕獲して博多へ向かい、武士たちに引渡せば良いのではないかという段取りまで話し合われていた。


「出来れば弾倉分以上には使いたくないな。射撃もレーダーではなく、光学で確実に船を狙い撃ちにしたい。1000m程度まで接近して確実に破壊して回ることが出来れば一番良いと思うのだが」


 1000mまで近づけば20ミリバルカンも有効に使えるので悪い話ではない。20ミリを用いて曳光弾の焼夷効果で着火させるのもありかもしれない。


「もし、船内に鉄包(てつはう)の残りがあれば、20ミリで叩いてやれば自爆してくれるかもしれません。積極的に20ミリを船体に撃ち込んでみるのもアリだと思います」


 鉄包(てつはう)といえば戦国時代に使われた炮烙(ほうらく)と言えば分かるだろう。陶器や鉄の器に黒色火薬を詰めて爆発させるアレだ。

 中国においては石をくりぬき、そこに火薬を詰めて万里の長城から攻め寄せる北狄に蹴落として爆発させるものだったらしい。

 仮に船内に鉄包(てつはう)の残りがあれば十分な威力を持つだろうし、最悪、火災を起こしてくれるだけでも良い。出来る事なら76ミリ弾を節約したいというのが、さくらにおける作戦会議の共通認識だった。


 そうして方法論の話は深まっていくのだが、では、イザやるという決断は未だついていなかった。話ばかりに終始して、「ではソレで行こう!」とはなっていない。未だ実戦は蚊帳の外という海上自衛隊において、いざ決断となると腰は重かった。


 ひのきではさらに攻撃を行うという話に慎重だった。


 そもそも、攻撃の必要性があるかどうかも分からない。まずは、帰還方法を探る事ではないのかという意見さえあった。

 一応、さくらでは攻撃を前提に話し合われている事を伝えられているので、準備だけはしていたが、実行するかどうかは流動的だった。


 そのため、今後の行動をどうするかという話が行われていたが、それは明るい話題とは言えなかった。


 なにせ、船というのは軍艦だろうと商船だろうと整備をせずに使いっぱなしという訳にはいかない。相良油田というのが本当に使える物だとしても、砲弾や銃弾をいくらか温存できたとしても、近い将来、船を降りることになるのは避けられない。

 ならば、船を動かせる間に呪術でも魔法でも何でも良いから帰還方法は無いのかという話になった。


「転移ポイントに居れば還れる可能性があるのでは無いでしょうか?もしそこが特異点であれば、またタイムスリップが起こるかもしれません」


「しかし、どこが出現ポイントだったか、ピンポイントでは探し出せないし、そもそも、詳細な位置は分からないじゃないか。GPS情報が消失してしばらくもセンサー異常を疑って航行していた。さくらに出会うまで、タイムスリップなど話題にしていないのだから、出現ポイントなどもはや調べようもない」


 ひのきでの問題は、難破船や五島烈島を見てようやくタイムスリップという話を受け入れることが出来た状態なので、「じゃあ、出現ポイントに戻りましょう」などと言っても、ピンポイントにそこへ戻る術が無かった。

 仮に近くと言っても、大雑把な位置しか分からないので、最悪10km以上の誤差が出る。そんな状態で「ここが転移ポイントです」と言えるかというと、誰もそうは思っていなかった。


 ある意味で現実逃避であるが、それはさくらの論議もそうだと言える。即座に転移ポイントへ帰ろうなどという決断は出来なかった。結局、議論することで気を紛らわせていたようなものだった。


 そこへ一つの想定が舞い込んできた。


「装填作業を終えた砲術科員の話なのですが、もし、このタイムスリップが誰かに仕組まれたモノであった場合、帰還には何らかのチェックポイント、或いはイベントがあるのではないかと言うんです。例えば、『ゲームクリア条件は元寇撃滅』といった風に」


 何をバカらしい。


 堂々巡りを続けるひのきの艦橋では誰もがそんな顔をした。


「いえ、バカらしいですが、やって損は無いんじゃないですか?やらずに損するよりやって損した方が良いでしょう。何か月も後に艦を動かせなくなって、『あの時元寇を攻撃していたら』などと悩むよりも、可能性を一つ一つ潰していくべきです。まずは目の前にある元寇という条件(イベント)では無いでしょうか」


 有効な打開策かどうかは分からない、しかし、一つの策として、「それがイベント達成条件であり、ゲームクリア」という可能性があるなら、やってみる価値ありという感想を抱く者が次々現れていく。



 何もしないまま日が西に傾いていく。無為に過ごしている状態に焦燥感もあったが、かといって、コレといった決定的な材料がない。

 やるかやらないかも曖昧な作戦案が浮いては沈むさくらの艦橋。


 そこにもたらされたのは、ひのきで提唱された「誰かの作為で送り込まれた」論だった。

 やらないよりやって後悔した方がマシ。


 さくらにおいていつまで続くか分からない作戦会議はこの論に縋って結論へと突っ走りだした。


「出来るだけの元船を沈めて条件クリアを補強しよう」


 そんな意見が台頭してくる。還れるならそれもありではないのか。どうせ燃料無くなれば動けないんだから。

 さくらでは相良油田というキーワードは出たが、具体的に知っている者が居ないので、小説かマンガの読み過ぎじゃね?といった意見が多かった。ラノベを理解する艦長も、相良油田の詳細は知らないので、ラノベチートなのかもしれないという消極的な感想へと傾いていた。


「そうと決まれば日没まで待機し、博多へと行動を開始しよう」


 確固とした情報が無い中で、決断の要因となるのは感情的なモノにならざるを得なかった。いや、そうでもしなければ、こうだと決める事は難しい。なにせ、今起こっている現実こそが、理性や常識で考えればありえない事なのだから。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ