時代はやはり、そうだった
UAVの稼働時間はそろそろ限界だった。
そのため、一度五島列島に接近させて地上を観察してみようという事になった。
「おい、あれ」
島へと接近したところで数隻の船を発見した。
さくらではタイムスリップを前提にしているので、遠方から見て人工物の少ない島の様子には再確認程度の認識しかなく、今がいつの時代であるかに意識が集中していた。
例えば、そこに安宅船や弁財船が居れば、おおよその時代を知ることは可能だ。流石に漁に使う小舟の年代云々はまるで分らないので、沖に出ている小舟などはほぼ無視していた。
そして、主要な有人島ではなく、その手前にある小島に座礁している船を見付けた。
ひのきのUAVオペレーターにとっては、人工物を見付けたいがために遠くの主要な有人島ではなく、すぐ目の前の小島を見てみようと操縦したに過ぎなかった。ひのき側としては、そこに居るのが現代の船であって欲しかっただろう。
「これ、座礁してますね。そうだとすると、いつのモノかわかりませんね」
ひのきでディスプレイを見る面々の反応は、そう言ったものだった。出来れば目の前のモノを見たくない。そういう空気があった。
そうさせるのも、そこにあるのは遣明使やら元寇やらの時期に描かれた船の形をしていたからだ。
同じ船を見たさくらでの反応はタイムスリップを確定させるものだった。
「これは、ほぼ間違いないな。元寇か倭寇の時代だろう」
そういう声と一部の落胆だった。
さくらにもタイムスリップを認めたくない者は当然いる。そうでない方がおかしい。
「時代はおおよそ掴めましたが、どうします?この時代に軽油なんてありませんよ」
そう、認めたくない理由はまずはそれだった。
そもそも、日本で原油がとれる地域はごく限られているし、そもそも、精製施設が無ければ、哨戒艦で使う燃料を確保することはままならない。
目の前の異常事態に目を奪われ、映画や小説の様に興奮しているだけではやっていけない。そうは言っても、今の時点では、タイムスリップという異常事態へ目を奪われることが優先しているのだが。
「燃料なら問題ありません。距離はありますが、静岡県の相良油田へ行けば手に入ります」
一人がそう返事をした。
で、その相良油田が鎌倉や室町という中世に操業していたのかというと、正式な発見は明治になってからの話で、臭い水の話が地元にはあっても、まだ広まっていた訳ではない。そもそも、さくらの艦橋においては「相良ってどこよ?」という者の方が大半だった。当の発言者自身、正確な場所を知らなかった。それでどうやって燃料を確保するというのか、先の見通しは暗いというしかない状況だった。
ひのきでも、その難破船の映像は衝撃だったが、さくらほど安易に時代を特定しようという動きは無かった。
そもそも、ようやくタイムスリップという寝言を信じるしかないのかと思っているだけの状態で、出来ればウソでしたという展開に期待を寄せていた。
「そんなに古い感じはしないが、戦国時代以前という事になるのか?まさか、難破した木造船が何百年も持つわけが無いし・・・」
ひのきの反応は未だそんなものだった。
ただ、狭い艦内、事情を知らない乗組員というのは居ない。これが大型の空母やイージス艦なら、1日後にすら事情を知らないものが居たかもしれないが。
つまりは、映画や小説で自衛隊によるタイムスリップものを知る者がある考えに至るのは当然の事だった。
「砲術科員からの話ですが、静岡県の相良という所にそのまま燃料になる油田が眠っているそうです。御前崎の近くだから見つけるのは容易いらしいとのことです」
乗り気の隊員が自分の艦に居たことにどんな表情をして良いか困る艦長や航海長をしり目に、その場所を探す乗員も居る。
UAVは昼前には帰還させることになった。
流石にそろそろ燃料が無い。
そして、わずか数時間で多くのことが分かっている。
ここは五島列島沖合でほぼ間違いないという事。平戸島もUAVで確認した。
そして、確認の結果、福江島、小値賀島に空港は確認できなかった。当然だが近代的な建物など皆無だった。
次に見るべきものは平戸島、鷹島、壱岐あたりという事になった。
「もし、元寇の頃であるなら、弘安の役には平戸や鷹島が広く戦場になっています。しかし、文永の役であれば壱岐を襲った元軍は博多へ攻め寄せたと記憶しています。今が11月であれば、ちょうど文永の役の最中、或いは直後という可能性があるので、確認してみることが必要です」
さくらとひのきの間で行われたのは、更に時期を絞り込むために、もっとも分かりやすい戦場の痕跡を探す事だった。
つまり、更に東進しようというのだ。少なくとも平戸島を遠望した時点では、戦争からわずか半年以内といった荒廃は見受けられないように思われた。ただ、五島列島に時代的に合致しそうな船が難破しているのは気がかりだったが。
午後にはひのきに搭載された別のUAVによって平戸島や鷹島を探索することになった。
「どうやら、最近襲撃されたようだな」
文永の役でも行きがけの駄賃で元軍はかなり暴れ回ったという情報が九州出身者からもたらされた。
そもそも、殺気立っているだろう武士たちと平和裏に話が出来るのかという疑問については誰も思い至ってはいない。それでも、被害を確認したからと言ってノコノコ平戸に接近して良いとも思ってはいなかった。
もう少し詳しく確認となったが、そこには近代的な建物もなく、確かに人を確認できるが、空を見上げて、きっと見慣れないUAVに対して何か言っている姿しか映っていなかった。
「被害がデカいようだがもういい、次は壱岐を見に行ってみようか」
壱岐も二度の元寇において相当な被害を出している。現地がどんな状態か、想像するのも難しかった。