一日目おつかれさまでしたー!
「グァマーツァの街にご用かな」
「そちらは従魔かい?」
村人の服に皮の胸当て装備、ゲームの初期装備みないなふたりがやってきた。さすがに木の棒じゃなくて剣を腰にさげてる。
にこやかな顔してるけど警戒されてるのがわかる。おれは空気を読みすぎるタイプだからな!
「うむ。こちらにおわすは女神の使徒様と敬虔なる従魔であ」
「あっ!」
言ってる最中にワイルドウルフたちがぴゅー!って森の方へ走って行ってしまった。止まる気配はない。
あらためて見るとすごく速いな、あれに乗ってたのかぁ。
「逃げたのか!」
きりっと表情をかえ剣に手をやって追いかけようとする衛兵に慌ててすがりつく。
「ちょ、まっいい子! いい子なんす! ぜんぜん怖くないやつなんで! 噛まないんでっ!!」
「お役目を終えたのだろう、追うまでもない」
「わかった風に言ってないでとめて!」
「本当におまえたちの従魔なのか?」
「間違いないわ、かれの従魔よ。ハンマーマーツォ村から乗ってきたの。いまは……きっとご飯を食べにいったのね」
ふむぅ……と目配せしあう衛兵二人組。
お、納得してるっぽい。ディアナさんは説得の才能があるかも。
「それより……旅をして疲れてるの。わたしたちは見ての通り、冒険者と教会関係者よ。グァマーツァで一泊したいのだけど」
腕を組んで胸を強調させるディアナさん。説得の才能あるな!
「……従魔だけで街に入れることはできないよ」
「賢い子たちなの、わたしたちが呼ぶまで外で寝るわ」
「わかった。問題を起こさないようにな」
ディアナさん頼りになるぅー!
空気が読めたのか口を出さなかったフレトラーさんとおれもなかなかいい仕事をしたと思う。……つぎがんばるから!
グァマーツァの街は最初に立ち寄った村に比べたらだけど、たしかに街っぽかった。木造よりレンガ造りの家が多く見られる。
商店もまばらにあって賑やかな声が聞こえる店もあるけど、道行く人々の服装はあんまり変わらなかった。
ディアナさんみたいなファンタジックな服の人も数人みかけた。
「とりあえず夕食にしましょうか」
慣れたように歩きだすのに着いていく。
「ディアナさん、この街にはよく来るんですか?」
「うーん……年に二、三回かしら。依頼でたまに寄る程度よ。どうして?」
「慣れてるみたいだったので…意外です」
「ふふっどの街もそんなに違いはないからね、冒険者なんかやってるとそう見えるのかも。ん、ここでいいかしら?」
レンガ造りでみどりの庇がついた店のまえ。中からたくさんの声が聞こえるからレストランなのかな。
「おおー……ファンタジー感……」
木でできた扉をあけるとそこは広い空間で丸テーブルがいくつかあり、大皿に乗った料理を食べる人や木製のジョッキを片手に大声で話し合う酔っぱらいも何人かいるレストラン?だった。
「使徒様、こちらの店でよろしいしょうか……」
「えっ大丈夫だいじょぶ! なんか楽しそう!」
案内もなく空いてる席にてきとう座るみたいだ。
「なにたべますか!」
10歳くらいの子が寄ってきた。
「エールをみっつと」
「すまぬがわたしは酒が飲めぬ。薬草茶をたのむ」
「あら、そうね。じゃあ薬草茶みっつにして。魚の焼き物の大皿で、あとパンはとりあえず一盛りでいいかしら? あとはなに食べる?」
「スープがあればそれもみっつ頼もう。使徒様は……」
「お、おおおおまかせでっ」
「はい! 薬草茶、大皿のさかな、スープ、パンですね!」
てててー!と厨房につながってるらしい隣の部屋に駆けてゆく。
あせったー! メニューいっこもわからなかった!
この世界での食べ物の定番にからあげってある!? ワイルドウルフとか魔法とかある世界にふつうの鳥いる!?
「はいっパンとお茶ですっ60銅貨です!」
テーブルに木のマグカップに入ったお茶と籠にもられた固そうな丸パンが置かれた。
ディアナさんは衣装のポケットから、フレトラーさんはいつの間にか出してた布の小袋から石みたいなものを取りだし給仕の持つトレイに置いた。
はわわっ あれがこの世界のオカネ!
「使徒様のは私が。」
何もないことはわかってるけど、なんらかの奇跡が起こって百円でもでてこないかと服をバタバタ叩いてるとフレトラーさんが手で制してきた。
銅貨をかぞえ終わり、ありがとうございますーと再び駆けてゆくこども。
「すっすみません、おれ、金なくて! あっやっ家に帰ればあるんですけどっ」
「使徒様の資金は教会でご用意してあります。それより帰られては困ります」
フレトラーさんが真顔で言ってくる。
使徒様ってそんなに優遇されるものなのか……そうだとしても心苦しいのにかわりないけど。
「ねぇその帰られたら困るってどういうことなのかしら。“使徒様”も含めてくわしく聞きたいわ、ね?」
しゅんとしてる俺を気遣うように言いウインクしてくるディアナさん。おかあさん……!
「まぁとりあえず、お茶も来たし乾杯しましょ!」
「そうだな」
「はいっ!」
年下に気をつかわれる情けなさに慌ててマグカップをとる。
「それじゃあ」
「女神様の使徒様にお会い」
「今日もいちにちぃー!」
「えっ、えっ」
「「おつかれさまでした!」」
「っしたぁー!」
マグカップをぶつけるのだけは死ぬ気で間に合わせた。
気持ちはばらばらだ!