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ゴール!

え? いや、え??

聖杯の使い方とか聞かされてないよね???


「ど、どうすれば」


ポケットから聖杯を取り出してみる。

聖杯は変わらずお猪口サイズで装飾が豪華だ。変化ナシ。


「うーん、とにかくアンタルミーニの街へ入りましょうか。夕刻までってそんなに猶予はないわよね」

「“聖域”はアンタルミーニの中央にある山の山頂を指します。いまから登頂してギリギリかと」

「やばいじゃないですか!」

「は、走りましょう!」


ギリギリかと、じゃないわ! はよ行かんと!


おなじみのピンク文字で“アンタルミーニのまちのえき”と書いてある柵を越える。


そして街のなかを走る、走る!


通り過ぎる町並みは穏やかだけど、なんたか妙な匂いがしてる。

湿度も高いらしくて鼻にまとわりつくこの匂い、嗅ぎ覚えがあるんだけどなんだっけなー?


「なんか匂いません⁉」

「温泉の香りよ」

「此処は温泉の街ですから」


ああー! そうなんだ、ゆっくり来たかったよ!


ハァハァ言いながらまだ走る。

木造の長屋のような建物がたくさんあって、たまに湯気が出てたりするのは温泉施設なのか。


「ってか速い!!」


ふたりとも走るの速い。おれはあんな早く足回らないし運動不足の自覚あるからついてくので精一杯だ!



必死に走ってたら虹色の山が見えてきた。


「使徒様、あれが中央の山です!」


だね! ぽい感じがすごくする!

オーヴナーンみたいにクリスタルでできた山だった。100メートル弱くらいかな。かなりゴツゴツしてみえる。

でもよく見たら階段とかあって、


「山というより塔みたいね!」


頬を赤くしたディアナさんの言うとおりで、整備された人工の山の塔みたいなんだ。木や草も硬そうなデザインで岩の塔ってかんじ。ディアナさん、きれいなもの好きなんだなぁ。


走る足元の感触が変わって、下を見れば地面が徐々にクリスタル状になって山につづいていく。


「よっしゃーぁああ、登りましょう!!」

「えっセンジくん大丈夫? ちょっと休憩したら」

「夕暮れまで一刻半(三時間)ほどあります。少々休まれても」

「いや! これはいま登っておかないと!!」


走ってたらテンション上がってきた!

なんかぜんぜん苦しくないしずっと走れる感じだ!


冷静なら気づいただろうけど、これがランナーズハイってやつだったんだね。だからずっとこの調子では走れないんだけど、でもいまは走れる気がするんだぜ!!


「うおおおおお!」


山のはじまり、やけに一段が大きい階段に足をかけた、


とき、




ポフン!!




ピンクの煙が目の前を塞いだ。


その次には水。いや、海水。


あたりは真っ暗で遠くに一筋の光が差してる。

あんなに軽かった体は、服が水を吸って重いしうまく動かない。

海流に誘導されるみたいに底へ底へ……


口から泡がボコって出てっておれを置いて上へあがってく。


(ああ、これ、おれが溺れた海じゃん)


(やっぱり夢だったんだなー)


(走馬灯とはちがったな、アレンジ効いてる)


(つか夢なら最後までみたかったな)


  ……ゴール、したい?……


(したいよ、みんな頑張ったんだ)


  ……もどれなくても?……


(そうだな、フレトラーさんもディアナさんも、友達じゃないのに親切にしてくれて助けてくれたんだ。結末まではいっしょにみたいよ)


  ……ナルホドナー。わかったよ! それじゃあ……


  ……せーのでゆおうね! せーの!……




ぴろぴろぱらるーん♪




「ぷんぷんぱっ!!!!」


「きゃ!」

「うお!」


「「「 ……… 」」」


なにこれすごい気まずい。25の男が全力で呪文唱えてるのを間近で仲間に見られるとか。


「お、おかえりなさいませ、使徒様。女神に会われたのですね」


少し動揺を残したフレトラーさんに言われて手元を見ると、おれは聖杯を持っていて中にはキラキラひかる水が入ってた。


「センジくん、いま一瞬消えてたのよ。びっくりしたわ……でも無事で良かった」


よほど驚いたのか目尻に涙をにじませたディアナさんが微笑む。なんかしんみりした空気になっちゃう。


「さて、では使徒様、登りましょう」


相変わらずマイペースなフレトラーさんのおかげで空気は平常に戻った。ありがたい。




階段のような岩のような、ひたすら足腰に来る坂道を登る。

聖杯に入った水はこぼれても一定の水位を保っていて、傾斜があろうと手元がぶれようと満杯なので安心して登山に集中できる。


「センジくん、余裕そうね……!」


タイムリミットがあるから早足で登ってるんだけど、なぜか息が切れない。


「はい! 大丈夫っていうかむしろ力がみなぎって来てます!」


不思議なんだけど山頂に近づくほど気持ちがスッキリして力が湧いてくる感じがする。最後だって思うからかな。


「使徒様! 山頂です!」


ニ時間かからないぐらいで山頂へ続く階段についた。

一息も入れず足をかけて駆け上る。



夕暮れも間もなくやってくる。



辿り着いた頂上はステージのように拓けていて、クリスタルがきれいに傾く日を反射してる。


磨かれたみたいにツヤツヤなその中央で、高そうな黒いローブの人がひとり、こちらに背をむけ跪いていた。


「使徒様、聖杯を司祭にお渡しください」

「き…」


緊張感すごい! ここまで走ってきたけど急に緊張してきちゃったぞ!? 司祭さん仕事中みたいだし……!


そっと腕になにかが触れた。

振り返ったらディアナさんがおれの左腕をさすってくれてる。


「大丈夫よ、いってきて」

「……はい!」


10歩も歩いたら司祭さんのもとへ着いた。


跪いてる前には円錐形のクリスタルが建っていた。


「し、司祭さま、………、」


目を閉じて一心に祈ってる司祭さんにのとなりに膝をついて、そっと聖杯を差し出す。


祈りを解き、うっすら目を開けてこちらをみて司祭さんは聖杯を受け取った。


見てるこっちが安心するみたいな微笑みをむけると、静かに立ち上がる。


「女神の加護を大地へもたらせたまへ」


司祭さんが聖杯を傾け、クリスタルの先端にそそいだ。



「!!  うわぁ……!!」


その瞬間、クリスタルから弾けでるように虹がふきだしまっすぐに空へとどく。


「使徒様のおかげで聖域の結界が修復されます」


司祭さんが静かに、うれしそうに教えてくれた。


上空まで登った虹は七本の色の線に分かれ、ドーム状に弧を描いて地上へ降りた。


そのまま一定の間隔をあけたまま、アンタルミーニ全体を囲むビームみたいに高速で地を走って透明でキレイな結界ができた。





「お疲れ様でした、使徒様」

「おつかれさま、センジくん」


ぼうぜんとしてるおれの左右にふたりが来てくれた。


「おわったんですか……?」


「はい、使徒様は立派に使命を果たされました」

「やり遂げたのね、すごいわ!」


左をみても右を見ても、一緒に旅をした仲間が笑ってうなずいてくれる。


「あ、あり、」


「あ“り“がどゔございばじだぁぁあ」


うわああああ!

おつかれさまでじだああああ!!



「では下山して、打ち上げでもしましょう」



号泣してるおれをモノともせず、いつも通りのフレトラーさんにディアナさんが声を上げて笑っていた。

もいっこありまーす(^ν^)

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