vs.ホウゴラウ
「アーン……」
「か、可愛さの権現やんけ!」
犬っぽい! ちっちぇ白い子犬みたいだ、可愛すぎるだろーもー。
「使徒様お気をつけください!」
「センジくんさがって!」
足に体を擦りつけてくる白犬? にデレデレしてたら本気の構えをしたふたりがいた。
「えっな、なんすか、危険なんです!?」
足元をみる。
「キュン……」
しょんぼりしてるふうの白犬。
うそ。こんなに愛くるしいのに、めっちゃ狂暴とかいうパターン!?
「魔力量が異常です! 正体が不明ですので離れてください」
「油断させておいて襲うかも!」
うええっすごいヤバそうな感じじゃん! ふたりがこんなに慌ててるのって初めてじゃん、 こわ。
ジリジリと後退する。
「アーン」
コロン。
愛くるしい白い仔犬ちゃんが寝転がって腹を見せてきた。
「ふ、服従……!」
安全性高くないですか!?
それに、
「く、黒いモヤモヤないから大丈夫じゃないでしょうか…?」
森の生き物の特徴、ひんやりした黒い靄がこいつにはない。
「黒いモヤ? ……使徒様、それはどういうことですか」
「え? どういうって、ほら、ワイルドウルフとかいたずらリスとか、カツッヲンなんかは追いかけてくる時にぶわーってモヤモヤ噴出させてましたよね?」
白犬は立ち上がっておれの靴の上に座った。かわいい。
「センジくん……わたしには見えなかったわ」
「ええ?」
「使徒様、その黒いものはずっとあったのですか?」
「いや、サイコロ当てたらパァって消えました」
「……なるほど。そのモンスターには黒い靄はないのですね?」
「う、うん」
フレトラーさんは構えを解き、なにやら機嫌が良さそうにうむうむ頷き始めた。
「どういうことなの?」
首を傾げるディアナさんとおれ。あのモヤモヤはなんか理由あるなら教えてほしい。
「使徒様、それはあなた様が女神の使徒様だからです。悪意あるモンスターはそれが黒い靄として映るのでしょう」
悟りを得た人みたいな微笑みで見られた。どんな感情の顔なんだよそれ。
「ああ、なるほどね。センジくんのサイコロも神具だものね」
ぽんと両手を合わせて合点がいったらしいディアナさん。
「それで、そのこには黒いモヤモヤはないのね?」
「あっはい。ぜんぜんこわい気配ないです」
いまは。ふたりに警戒されてたときは怖かったけど、モヤモヤ由来の怖さではなかったな。リラックスしてる白犬を抱き上げる。もう愛しさしかないな!
「なんかあの黒いの、すごく嫌な感じがするんですよね。冷たいようなゾワッてするような……ああ、あんな感じです」
森の木の影に体高の高いモンスター。黒い靄に包まれて顔もこわい。
「って、ダチョウ!?」
「ホウゴラウ!!!」
「我らを守れ堅牢なる加護」
冷静なフレトラーさんがシールドを張ると、こちらに気づいたダチョウみたいなモンスターが猛スピードで駆け寄り両脚で蹴りつけてきた。
「っ、使徒様、これはいかがですかっ?」
乗れって!?
一蹴りでシールドがビシィッて音したけど逃げなくて平気なの!?
「ふふっ、蹴り技なんて燃えるわね」
「ディアナさん!」
ディアナさんがゆっくりとシールドの脇からダチョウ側に歩き出た。
ディアナさんと比較したらダチョウめちゃくちゃでかい。
おれの知ってるダチョウより太いし長い。フォルムがダチョウっぽいだけで別のやつだあれ。
「センジくん! ホウゴラウはわたしがやるわ! サイコロはゆっくり決めていいわよ」
睨みあう一羽と1人。
一拍のあとふたつの影は走り出した。
そのまま交差するように飛躍し対面に降り立つ。
すぐに振り返り不適に笑うディアナさん。
「……やるわね」
「クェエエエエエエエエエエエ!!!」
怒りによってか羽をばたつかせるダチョウ、いやホウゴラウ。
そしてお互い距離をつめて蹴り合いが始まった。
「いや全然わかんないんすけど! 大丈夫なんですかあれ!」
「パワーではホウゴラウが、しかしその他ではディアナ殿が勝っているので負けはしないでしょう。使徒様、神具のご用意はよろしいですか」
すごい冷静じゃん。
でも待って。ディアナさんたちが右へ左へ奥へって3Dな動きをしてるから、なかなか的が決まらないんだよ。あああ焦るぅ。
「アンアーン」
抱っこしたままの白犬がちょっと強く吠えた。
「使徒様……!」
「うわっ」
フレトラーさんの視線を追うと、森の奥にホウゴラウがもう一匹いた。こっちに気づいてすぐみたいでめっちゃ睨んでる。
びっくりしたのと恐怖も手伝って右手に握ってたサイコロを振りかぶって投げた。
黒いモヤが霧散したホウゴラウはゆっくりとした足取りでこちらへ歩いてきた。
「アーン」
くんくん鼻を突き上げて近くに来たホウゴラウの匂いをかぐ白犬。ホウゴラウも太くて長い首を伸ばしてこちらに顔を寄せてきた。
仲の良い動物って癒されるよね~。
「使徒様」
お、クチバシと鼻でちゅーする? でっかいとちっちゃいの対比がいいね~。
「使徒様、そろそろ」
「ぐ……あれを止めろ、と」
殺伐としてて見たくなかったシールドの向こう。
バコンドコンって蹴って出る音にしてはえぐくない?
「ッハア! ぅ……ヤー!」
「キェー! ……ギュエー!!」
その場に立ち止まって蹴りでの力比べになり始めてるのを呆然とみる。
「使徒様、お願いいたします」
息を吸って気合いをいれ、右手に戻ってきたサイコロを握りしめた。




